アビスパ福岡OB神山竜一と鈴木惇、独占インタビュー【前編】

2024年1月2日(火)14時0分 FOOTBALL TRIBE

神山竜一(左)鈴木惇(右)写真:Getty Images

クラブ史上最高の時を過ごした2023シーズンのアビスパ福岡。長谷部茂利監督をはじめとするスタッフ陣や選手、クラブに関わるすべての人たちが勝ち取ったYBCルヴァンカップ(ルヴァン杯)優勝のほか、福岡の長い歴史の中で最高順位(J1リーグ7位)となる成績を残した1年だった。


この快挙は、今までクラブに関わり歴史を紡いでくれた人たちのおかげでもある。そこで、アビスパ福岡のレジェンド、神山竜一氏とMF鈴木惇選手(FKスードゥヴァ)にインタビューを行った。前編では、主にルヴァン杯決勝と来季の福岡について訊いた。(※記事内、敬称略)




インタビュー中の神山竜一と鈴木惇

それぞれの目から見たルヴァン杯決勝


Jクラブではアビスパ福岡一筋16年。J1とJ2の計242試合でゴールマウスを守った神山竜一は、母校である島根県の立正大学淞南高等学校で現役サッカー部員たちと一緒に福岡がタイトルを獲得する歴史的瞬間を観ていた。決勝戦の福岡ベンチには、神山にとっては後輩、部員たちにとっては先輩にあたるFW鶴野怜樹の姿があった。出場こそ叶わなかったものの、その存在は後輩たちに希望と勇気を与えるものだった。


神山「決勝の舞台に先輩がいることは在校生の刺激となり、また先生たちも元気をもらっているようでした。僕の現役の時もそうですけど、試合に出たり活躍したりすることでお世話になった人たちに恩返しできる。良いことですよね」


一方の鈴木惇は、国立で懸命に戦う選手たちを海外向けのJリーグ公式YouTubeチャンネルを通して見つめていた。小学生時代から福岡の下部組織で育ち、高校3年生でトップチームに2種登録され、正式加入した2008シーズン以降計11年(2008-2012、2015-2020)を福岡で過ごした鈴木。現在は日本から時差7時間のリトアニアで、強豪クラブFKスードゥヴァに所属している。


ルヴァン杯決勝では、開始5分に福岡のMF前寛之が先制点を挙げると、44分にもDF宮大樹が追加点を奪取。前半を2-0と理想的な形で折り返した。


神山「アビスパのペースで進んでいる試合だと感じていて、理想の形で先制点を取れましたよね」


鈴木「展開的に福岡が勝ちそうだなと思いながら観ていました。ピンチもありましたけど、これは優勝しそうだな、と」


後半も福岡ペースが続いたものの、59分に追加点の懸かったPKを止められると流れが一変。67分に1点を返されたあとは押し込まれ続け、危険な時間が続いた。


神山「PKを外した時にちょっと危ないなと思いました。2-0で勝っていてPKを止められて1点を取られると、(試合を)やっているほうからするとちょっとヤバいなと感じます。でも、それでも守り切れるところにアビスパの守備の強さを感じました」




アビスパ福岡 FW城後寿 写真:Getty Images

悔しさとともに湧きあがった喜び


最終的にポストも味方につけ、2-1で逃げ切った福岡。試合終了を告げるホイッスルの瞬間、2人の胸にあったのは悔しさで、嬉しさはその後やってきたという。


鈴木「(福岡を)離れてもう3年ぐらい経っていたので、試合中はそんなに特別な思いはなかったんですけど、優勝が決まった瞬間は率直に悔しいという気持ちにもなりました。自分が在籍している時にタイトルを取りたいと思っていたので。アビスパの初タイトルに関わるという可能性がなくなったことに、悔しさがありました。


でも、城後さんがカップを掲げているところや(金森)健志が優勝の瞬間にピッチに立っていた姿。あとはサポーターが嬉し泣きしているのを見て、その時に『ああ、良かったな』と思いました。僕は(J1に)昇格した2020 年限りで退団したんですけど、コロナ渦真っ只中だったのでサポーターのリアクションを見れないままでした。また、その前のシーズン(2019年)はキャプテンをやっていたんですけど、J2で残留争いをしていて、サポーターが喜んでいる姿をなかなか見れないままだったんです」


神山「僕は素直に嬉しかったですし、でも自分が在籍している時にタイトルを1つでも取れたらという思いは持っていたので、惇も言ったようにちょっと悔しさもありました。けれど、やっぱり城後がトロフィーを掲げたことはアビスパにとって凄く良いことだし、城後とプレーして自分たちのようにアビスパを辞めた選手は皆、そう感じているんじゃないかなと思います」


FW城後寿はルヴァン杯決勝ではベンチ外だったものの、試合後には選手たちの提案によりサポーターの前で胴上げされた。来季20年目のシーズンを迎えるバンディエラは、サポーターにとってもそうであるように、共に戦った選手にとっても特別な存在だ。


神山「アビスパのためにずっとやってきた選手だと思います。細かくズバズバ言うタイプではないけれど、練習の姿勢とか、そういうところで後輩に語りかける。走る練習やオフの期間なども含めて、誰よりも練習していると思いますよ。それを見ている選手は尊敬しているでしょうし、僕にとっては後輩ですけど尊敬しかないですね。コミュニケーションが上手い選手かと言ったら口下手なのでそうでもないけど(笑)でもやっぱり言うべきときは言いますし、先輩後輩関係なくコミュニケーションを取ってくれる。(ルヴァン杯の)決勝戦には出られなかったですけど、だから城後がトロフィーを掲げた時はグッときましたね」


鈴木にとっても、城後は3度の昇格と2度の降格をともに味わった戦友。特別な存在だ。


鈴木「多分(城後に)めちゃくちゃたくさんのアシストはしてないんですけど、いつも信頼して動いてくれていました。身体能力が高いので、少々ピンポイントじゃなくても合わせてくれる。その身体能力をまだ維持しているので、努力の賜物だな、凄いなと思いながら見ています」


鈴木惇(アビスパ福岡所属時)写真:Getty Images

J1とJ2の違いと来季の注目選手


2001年に初めてJ2降格を経験し、それ以降2021年にJ1残留を達成するまで、実に20年にわたって5年に1度昇格し翌年降格という経験を繰り返してきた福岡。「5年周期」と呼ばれた不名誉なルーティンを脱するため懸命にもがいた2人は、J1とJ2の差を身をもって知っている。


鈴木「よく聞かれるんですけど、全部のレベルが違うから1つや2つで言うのは相当難しい。でもあえて1つ言うなら、ゴール前のクオリティ、特に決め切るストライカーの選手がいるかどうかという差は1番あるかなと思います」


神山「やっぱりフィニッシュの精度は違います。J1のチームは決め切る人が1人じゃない。中盤から打つミドルシュートの精度が高い選手もいれば、ペナルティエリアの中でしっかり仕事ができる選手も多い。惇が言ったようにエースストライカーの質もそうだし、ゲームを組み立てる選手でさえシンプルにゴールに向いてくる。しかも凄く精度の高いミドルシュート、ロングシュートが飛んでくるんです。僕はキーパーをやっていたので、そういったところはJ1とJ2の差が凄くあると体感していました」


では、なぜ2021年はJ1残留を達成できたのか。鈴木は3度の昇格経験のなかで、翌年降格した2010年と2015年、翌年残留できた2020年をどちらも経験している。しかし実際に渦中にいた選手でさえ、両ケースの違いは明確でないという。


鈴木「(違いは)分からないですね。多分、分かっていないからクビになったと思うんですけど。昇格を3回経験しましたが、理由が分からない勢いは3回ともありました。かといって(昇格した)3シーズンの中で取り組みに差があったかと考えても、自分の中で分からない。勢いや一体感は共通していて、あとは選手の違い。昇格する時は『これはいけそうだな』という雰囲気は感じるんですけど、でもその雰囲気を作ろうとしても全部はコントロールできません。アディショナルタイムで勝ち越して勝ち点3を取るような、コントロールできることを超えたものが何個か出てこないといけないと感じています」


となると、違いは選手もしくは監督ということになる。鈴木は2020シーズン、現在も指揮を執る長谷部監督から指導を受けたため特徴を理解している。


鈴木「やってほしいプレーとやってほしくないプレーが、はっきりしています。あとは、指示が具体的です。監督によっては横文字を使ったりして、捉え方が人によって違ってしまうことがあるんですけど、シゲさん(長谷部監督)が言ったことはみんな共通して理解できているんじゃないかなという印象があります。ただ、自分としては要求に応えられず、さらに自分の色も出せなかったので悔しさが残っています」


やってほしいプレーとやってほしくないプレーがはっきりしている。これは長谷部監督を表す言葉として、とても腑に落ちた。現在の福岡は、選手に迷いがまるでない。全員が自信を持ち、常にベストを尽くせる理由なのだろう。


神山竜一(アビスパ福岡所属時)写真:Getty Images

福岡のこれから


タイトルを獲ったことで、来季福岡に向けられる目は厳しくなる。2人の注目選手を問うと、それを打破することが期待できる選手と自身に縁のある選手の名が挙がった。


鈴木「やっぱり、城後さんが現役を続けるのであれば(12月27日に契約更新発表)、試合に出て点を取るところをまた見たいですね。金森も決勝の最後のピッチには立っていましたけど、スタメンではなかった。その悔しさを良いほうに持っていけるタイプの性格だと思いますし、ベテランと呼ばれる年齢にもなるので結果を出してほしいです。あとは相手に研究されて結果を出すことが難しくなってくる中で、紺野(和也)選手は違いを出せると思います。左利きでキックが上手い選手は好きですし。チームとして崩すのが難しいときに、彼のような選手の一振りで勝ち切ることが必要になると思うので、攻撃の選手に期待しています」


神山「この前たまたま一緒に食事もした、後輩の鶴野怜樹には期待しています。高校時代から足が速くてハードワークできる選手だったので、あとは得点にこだわってもらって来季は飛躍の年にしてもらえたら。城後と一緒のポジションですし、長くアビスパに在籍して城後が積み上げたものを引き継いでもらえたらなと思います。彼自身がもっと上に行くためにいろいろあるかもしれませんが、アビスパにいる間はそういうものを目指してやってもらえたらいいですね。あと僕はGKだったので、ルヴァン杯決勝で得点を挙げた宮(大樹)選手やGKなど、守備寄りの選手に期待しています」


福岡にとって悲願の初戴冠は、クラブ創設から28年目のものだった。単純な期間を考えると長い年数だが、現場に身を置いた人間には異なる感覚がある。


神山「いずれは(タイトルを)取れると思っていましたけど、こんなに早いとは。現役の時にアビスパに16年いるなかで、J2の優勝でさえ難しいと分かっていたので。それをJ1で、ルヴァン杯でタイトルを獲るのは本当に難しいことなので、今年達成できたアビスパは凄いなと思います」




プロとして福岡に所属していた期間は、2人あわせて27年。鈴木が下部組織に所属していた期間を加えると、優に30年を超える。そんな2人をはじめ、これまですべての監督や選手が懸命に努力を続けても達成できなかったタイトル獲得。そう考えると、より大きな事を成し遂げたと思えてくる。2023シーズンはは、表立って見える人たちだけでなく、多くの見えない人々の感情をも動かしたシーズンだった。


後日公開される続編では、2人が福岡所属時の思い出を中心に語っている。

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