本調子からは程遠い神村学園の2年生エース・名和田我空、神戸弘陵学園戦で見せた“勝負強さ”

2024年1月3日(水)8時0分 サッカーキング

神村学園の名和田我空(右) [写真]=金田慎平

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 2024年1月2日に行われた第102回全国高校サッカー選手権大会・3回戦で、神村学園(鹿児島)の2年生MF名和田我空が、『等々力陸上競技場』に駆け付けた7040名の観客にその“勝負強さ”を見せつけた。

 神村学園は前半から神戸弘陵学園(兵庫)の攻撃に苦戦する時間が続いた。なんとか無失点で凌いで後半に入ると、神村学園はDF吉永夢希のクロスボールから、GKが弾いたボールをMF新垣陽盛が押し込んで先手を取ったが、直後にセットプレーから失点。1−1で終盤に突入すると、71分に名和田が躍動した。右コーナーキックのこぼれ球をペナルティエリア内のスペースで拾い、迷わず右足を一閃。枠を捉えられなかったシュートが相手に当たって跳ね返ると、自ら回収し、左足でゴールへ流し込んだ。この得点が決勝点となり、神村学園は3回戦を突破。神戸弘陵学園の夢を打ち砕いた。

 ゴールシーンを振り返った名和田は「最初のシュートは枠に入っていなかったのですが、うまくこぼれてきてくれました。その時に相手選手3〜4枚が突っ込んできていて、それは見えていたので、切り返した時点で勝負はあったかなと思います」と胸を張る。混戦の中でも冷静さを保てており、「間接視野でゴールは見えていました。逆サイドに蹴り込むイメージで、あとは気持ちで押し込みました」と自らのゴールを称賛した。

 2023年12月31日に行われた2回戦の松本国際(長野)戦(○2−0)に続き、名和田はこれで今大会2試合連続ゴールを記録。結果としては素晴らしい滑り出しを見せているが、「今日はボールを持った時のトライが少なかったと思います。もっとゴール前でトライして、そうじゃないと自分の特徴も出せないと思うので。自分からもっとシュートを打っていくような意識が必要です」と積極性の欠如を課題の1つとして挙げており、結果だけで満足する様子は微塵もない。

 実際、2試合を振り返ると周囲の期待を上回るほどのパフォーマンスを発揮できているとは言い難いのかもしれない。名和田は今年6月から7月にかけて開催されたAFC U17アジアカップタイ2023で5得点を挙げる活躍を見せ、大会の最優秀選手賞(MVP)と得点王を受賞。FIFA U−17ワールドカップインドネシア2023のメンバーにも選出され、世界の舞台も経験した。これほどの実績を誇っているからこそ、今大会では対戦相手から非常に警戒されている。ここまでの2試合ではその技術の高さや、狭いスペースを掻い潜るようなドリブルはあまり見せられていない印象だ。左サイドで名和田、吉永が組む“U−17日本代表コンビ”は本来チームの強みであるものの、なかなか両者のコンビネーションを活かしてゴール前に迫るシーンも作り出せていない。

 2回戦の松本国際戦終了後、チームを率いる有村圭一郎監督は「左サイドのコンビが良くなくて」と本音を漏らしていた。先制点を決めた名和田に対しても「あれ(ゴールシーン)は決めなきゃダメですよ。逆にあれしかしてないですし、今度はチームに返してもらわないと困るので、期待しています」と発言。同試合では69分に途中交代を命じていたが、その理由についても次のような言葉で説明していた。

「その選択をどうするかは悩んだのですが、このタイミングでしか交代はできないと思っていましたし、代わって出てきた選手(佐々木悠太)も力がある1年生です。経験のためにも、本人に考えさせる時間のためにも、そういう選択をしました」

 名和田自身も指揮官の意図を感じ取っていた。神戸弘陵学園戦の後、「この前の試合、途中で代えられたのには理由があると思っています。それを考えるための時間も作ってもらえました」と明かしている。

 周囲からの警戒は日に日に強くなり、“らしさ”溢れるプレーが発揮できない。神戸弘陵学園戦に限った印象を語るのであれば、相手の左サイドに入ったFW北藤朔の方がインパクトを与えるプレーを数多く披露していた。キレキレのドリブルを仕掛け、幾度となくチャンスを演出していた北藤について、名和田は「左サイドの選手は脅威で、自分以上に違いを作っていたと思います」と称賛。「すごく上手いチームで、相手の左サイドに苦しめられました」と話していた。

 さらに、自身のプレーについても「自分のところで(ボールを)失ってカウンターを喰らう場面も多かったです」と具体的な反省点を口にした。有村監督からはボールを持った際の状況判断について厳しく要求されているが、「今日はその判断が悪くてボールを失う場面や、パスミスが目立っていました」と振り返る。「まだまだ足りない」と話す名和田は、表情こそあまり変えなかったが、歯痒さを感じている様子だった。

 もちろん、内容面を深掘りするとポジティブな要素はある。内側と外側の立ち位置を巧みに使い分けた左サイドバックの吉永のサポートもあり、わずかながらでもスペースが生まれた場面では相手の脅威となり得る位置でボールを引き出し続けた。相手のマークが厳しい中でも、自らができる限り高い位置を保ち続けることで、全体を押し上げさせる役割も担っていた。

 そして何よりも、神戸弘陵学園戦で神村学園を勝利へ導いたのは名和田の一発だった。本人が「得点を決めるために最後まで試合に出してもらっていると思うので、今日はラストの時間が無くなってきた時、得点が欲しいタイミングで取れたというのは1つポジティブな点かなと思います」と語れば、有村監督も「あのような一撃で試合を決めてもらうため、彼を代えることなくピッチに置いているところもあります。そういう意味では、ちゃんと仕事はしたかなと思います」と話しており、一定の手応えは得られている。

「結果を残せたという部分は良かったのですが、チームに対しての貢献度が足りてないですし、求められているものはまだまだ多いです」と課題を口にしたが、自身が「状態はまだそんなに上がっていないです」と認める中でも2試合連続ゴールを挙げられているのは間違いなく今後に向けた明るい材料だ。

 4日に控えた準々決勝では近江(滋賀)との対戦が決まった。近江は昨年12月10日に行われた高円宮杯JFAU−18サッカープレミアリーグ2023プレーオフのCブロック決勝で鹿児島城西高校との試合に臨んでいたが、神村学園は選手権の県大会で鹿児島城西高校と対戦する可能性があったため、名和田は「自分たちもその試合を動画で見ていた」という。近江の特徴を「理解しているつもり」と明かした名和田は「すごくテクニカルなチームなので、自分たちも負けじとゴール前の質で勝負して、相手を上回りたいです」と意気込んだ。「毎試合得点は狙っているので、これからも決めていきたい」と3試合連続得点への意欲も示している。

 名和田の直近2試合のパフォーマンスには改善の余地があるのは事実だが、負けたら終わりのトーナメント形式の大会で優勝を目指すには、試合の流れや個人の調子に関係なくゴールを決められる存在が必要不可欠だ。そのような意味では、名和田の“勝負強さ”は神村学園の大きな武器となるだろう。昨年度まではMF大迫塁(現:セレッソ大阪→いわきFC)が3年間着用していた神村学園のエースナンバー「14」を引き継いだ名和田が、“本調子”と呼べるようなパフォーマンスを見せた上で“勝負強さ”を発揮する時、神村学園は他のチームにとってさらに脅威的な存在となるに違いない。

取材・文=榊原拓海


【ゴール動画】名和田我空が神戸弘陵学園戦で決めた決勝ゴール

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