舞台は新国立競技場へ 第100回高校選手権、いよいよ4強激突

2022年1月7日(金)18時3分 サッカーキング

大津GK佐藤瑠星(左上)、関東第一GK笠島李月(右上)の守護神対決、“トルメンタ”が話題の高川学園(左下)、松木擁する青森山田(右下) [写真]=佐藤博之、金田慎平、瀬藤尚美

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 12月28日に開幕した全国高校サッカー選手権大会。100回目の選手権で4強に勝ち残ったのは、大津(熊本)、関東第一(東京B)、高川学園(山口)、青森山田(青森)となった。

 大津は優勝候補に何度も推されながら惜しくも敗れてきた歴史があるが、今回初めての選手権4強入りとなった。夏の高校総体で8強入りし、高円宮杯プレミアリーグWESTでは強豪Jリーグユース勢と渡り合って高校チームで最高となる4位に入るなど今季安定して実力を発揮してきている要因は、ベースとなる守備力の高さだ。DF寺岡潤一郎が「新チームがスタートした当初、あまりボールが持てず、攻撃がうまくいかないことがすごくあった。だからこそ守備を凄く頑張ろうと取り組んできた」と語るように、5バックと4バックを戦況や相手のやり方に応じて使い分ける形も定着した。優勝候補の前橋育英(群馬)との死闘になった準々決勝でも、「プレミアリーグで名古屋グランパスやガンバ大阪といった凄くボールの持てるチームと対戦してきた経験を生かせた」と寺岡が言うように、劣勢の試合展開でも崩れずに戦い抜き、1−0の完封勝利となった。

 注目はU−18日本代表候補であり、今大会抜群の安定感を見せる大型GK佐藤瑠星と、圧倒的な高さを持ちながら運動量も備えるU−17日本代表FW小林俊瑛の攻守2枚看板。ともに公立中学校の部活動出身だが、未完の大器を磨き上げて機能させる大津らしさを象徴する選手として今大会のチームを引っ張っている。

 この大津と対するは、こちらも選手権では初めての4強となった関東第一。静岡学園(静岡)、富山第一(富山)、流通経済大柏(千葉)といった優勝経験校に加え、夏の高校総体準優勝の米子北(鳥取)、前年度4強の矢板中央(栃木)、そして“怪物”チェイス・アンリを擁する尚志(福島)といった強豪がひしめく最激戦ブロックを勝ち抜いての準決勝進出となった。

 下馬評を覆しての勝ち残りの要因は、試合状況に応じて戦える戦術的な対応能力の高さだろう。小野貴裕監督が「我々のやりたいことはあるが、『他のチームが勝ち残ったほうが良かった』とは言わせたくないし、我々が戦ってきたチームに失礼があってはならない」と語るように、“やりたいこと”も時には封印。『3−4−2−1』の形をベースにしつつ、試合中のシステム変更だけでなく、選手の配置を入れ替えるといった工夫も駆使しながらバリエーション豊かな対応を見せてきた。割り切って守る時間も受け入れる柔軟さと、それでも必ず一刺しを狙い続けるチームメンタルを維持して戦い抜く姿勢は、タレント軍団の静岡学園とぶつかった準々決勝で特によく現れていた。

 尚志と静岡学園を相手にPK勝ちを飾ったことからも分かるように「PKは楽しんだもん勝ち」と語るGK笠島李月の存在感は大きい。ディフェンスリーダーのDF池田健人を軸にした守備陣の対応力、非凡なパスセンスを持つMF肥田野蓮治のプレーも注目だ。開幕戦で新国立競技場を経験し、プレーする感覚を掴んでいるのもアドバンテージ。「大津さんはプレミアリーグトップクラスのチーム。苦しい試合が続くのは当たり前」(小野監督)と、元より苦戦を覚悟をしつつ、粘り強く戦い抜く構えだ。

 もう一つの準決勝に駒を進めてきたのは、今大会に“嵐”を巻き起こしている高川学園だ。スペイン語で“嵐”などを意味する「トルメンタ」と名付けられた、手を繋いでぐるぐる回ってゴール前に入るセットプレーは各所で話題になったが、これも単に目新しいだけでなく実効性を伴ったもの。ワンパターンの“一発芸”ではなく、試合ごとにさまざまなバリエーションを持たせて相手の研究をかわしてゴールを積み重ねている。

 このトリッキーな動きばかりにフォーカスされがちだが、DF山崎陽大の左足から繰り出されるボールの驚異的な精度あってこその“嵐”でもある。山崎のキックはセットプレー以外でも再三にわたってチャンスを生み出しており、準決勝でも注目の要素だろう。また攻撃の軸になるのは10番を背負うFW林晴己。エデン・アザールに憧れるドリブラーは、単に相手をかわすだけでなく、正確なキックから少ないチャンスをモノにできる決定力も備える。また守護神の大型GK徳若碧都もここまでの試合で抜群の存在感を見せてきた。セービングはもちろん、飛距離の出るキックや素早い判断のスローイングからのカウンターも注目だ。

 また初めての国立になるものの、選手として選手権4強を経験している江本孝監督の存在は頼もしいところ。寮生活からしっかり選手を観察して性格面まで含めて決断している同監督ならではの選手起用が的中しており、準決勝での采配もポイントとなりそうだ。主将のDF奥野奨太が大会前の無念の負傷により欠場となる苦しい状況もあったが、「チームメイトが自分の気持ちを背負って戦ってくれると思う」という言葉どおり、サポート役に回った奥野に支えられての大躍進となった。この勢いは簡単に止まりそうにない。

 そしてこの“嵐”と対峙するのは、優勝候補筆頭に推されてきた前年度準優勝の青森山田。今季は夏の高校総体を制し、プレミアリーグEASTでも優勝を飾るなど絶対的な強さを見せ付けてきた。勝って当然とみられる中で、「選手たちが感じているプレッシャーは本当に大きなモノがある」と黒田剛監督が言うように決して簡単な大会ではなかったが、阪南大高(大阪)、東山(京都)といった実力校にもキッチリと競り勝っての勝ち残りとなった。

 最注目はもちろん、U−22日本代表に選ばれ、FC東京への加入も内定している松木玖生。そしてその松木の相棒であり、「玖生もいいが、禅斗だって相当いいぞ」と黒田監督が評する、U−18日本代表候補のFC町田ゼルビア内定MF宇野禅斗も要注目。攻撃面で脅威となるだけでなく、守備に回っても驚異的なボール奪取能力を誇るこのコンビが青森山田のベースとなる。

 大会1カ月前にレギュラーの両サイドバックが負傷離脱してしまうというアクシデントに見舞われたものの、年間を通じて安定感が増し続けていたDF三輪椋平、丸山大和のセンターバックコンビを中心とした守備に大崩れはない。高川学園が得意とするセットプレーについても、青森山田もセットプレーには特別なこだわりを持つチームだけに、入念な対策を練ってくるはず。キッカーでありロングスロワーでもあるU−18日本代表候補のMF藤森颯太のセットプレーも必見だけに、この攻守は試合の大きな見どころとなりそうだ。

 今年もどこが勝つか予想不能なのが高校サッカー。ただ、最後まで互いに勝負を捨てず、熱い戦いが観られるのは確実だ。新国立で初の戴冠に至るのはどの高校か。8日の準決勝、10日の決勝と、最後まで目の離せない名勝負が生まれそうだ。

取材・文=川端暁彦

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