広州FCも解散!中国スーパーリーグが崩壊危機を乗り越えるためには
2025年1月9日(木)18時0分 FOOTBALL TRIBE
中国サッカー協会(CFA)は1月6日、2025シーズンのプロライセンス交付クラブを発表。かつて広州恒大として中国スーパーリーグ(超級)5連覇を含む8回の優勝、ALC(AFCチャンピオンズリーグ)優勝2回(2013、2015)を誇った広州FCにライセンスを発行せず、クラブは解散を発表した。
2004年に14クラブで発足(2006年には16に拡大)した中国スーパーリーグ。「超級」と称している上、1部リーグを「甲級」、2部リーグを「乙級」としていることから事実上、“中国版プレミアリーグ”といえるものだ。
広州FCは、不動産会社のエバーグランデ・グループ(恒大集団)と、IT大手のアリババグループ(阿里巴巴集団)を親会社に多額の資金を注ぎ込み、マルチェロ・リッピ監督(2012-2014)、ルイス・フェリペ・スコラーリ監督(2015-2017)、ファビオ・カンナバーロ監督(2017-2021)といった有名監督を高額年俸で招聘。MFダリオ・コンカ(2011-2013)を年俸1,040万ドル(約11億4000万円)で、MFパウリーニョ(2015-2017、2018-2021)を年俸1,040万ドル(約8億3千万円)といった天文学的な報酬で加入させ、アジアを席巻した。
しかし、中国の不動産バブルが弾け、エバーグランデ・グループが約50兆円もの凄まじい負債を抱え経営破綻すると、一気に弱体化。同社が経営から撤退した2022シーズンに広州FCはスーパーリーグから降格し、2023シーズンからは2部の甲級リーグに戦いの場を移していた。
ここでは中国サッカー界の現状を深掘りしてみよう。
解散や合併に至ったクラブ
6日の発表でCFAは「滞納金や負債によりライセンスを取得できなかったクラブについては、引き続きフォローアップを行い、関連規則に従って状況に対処する」とし、存続の道を作った。しかし広州FCは自らギブアップした形だ。
広州FCは、クラブ公式SNS(WeChat)のアカウント上で、「様々な取り組みを行ってきたが、過去に多額の負債を抱えてきたため、返済するために調達した資金が不十分だった。広州FCは最終的にプロリーグに入会することができなかった」と報告し、サポーターへ謝罪した上で、クラブの歴史に幕を閉じた。
スーパーリーグを経験しながらも、中国経済の停滞やコロナ禍の影響を受け解散や合併に至ったクラブは広州FCの他にも、天津天海(2020年解散)、江蘇FC(2021年解散)、北京人和(2021年解散)、重慶両江競技(2022年解散)などが挙げられ、下部リーグも合わせれば30から40にも上ると言われている。
現在中国では、スーパーリーグ、甲級リーグ、乙級リーグとも16クラブによるリーグ戦を維持できてはいるが、乙級リーグともなれば、北京理工大学足球俱楽部のような学生クラブが存在するのが現実だ。
中国代表チームも強化が進まず
不動産バブル崩壊、コロナ禍の追い打ちに加えて中国では、汚職が蔓延ったことでファン離れを招きつつある。CFA会長のチェン・シューユエン氏や、副会長のドゥ・ジャオツァイ氏らが摘発され、他にも10人以上のCFA関係者が汚職の捜査対象だという。
中国代表チームも強化が進まず、2026年のFIFAワールドカップ(W杯)北中米大会からアジア枠が「8.5」と大幅に増えた(カタール大会までは「4.5」)にも関わらず、アジア最終予選では日本代表相手にアウェイで0-7の惨敗を喫し、ホームでも1-3で一蹴された。
W杯のアジア枠増は、FIFA(国際サッカー連盟)にとって重要なスポンサーでもある中国を出場させるためとも囁かれているが、当の中国が経済的にサッカーどころではない状態にあり、2034年W杯招致からも早々に手を引いた。一方で開催国に決まったのが、かつての中国のように国家ぐるみでサッカーに資金を投入し、国内リーグのサウジ・プロフェッショナルリーグにビッグネームを揃えているサウジアラビアというのも皮肉な話だ。
中国代表に話を移すと、チーム強化のため帰化戦略も採られ、アーセナルに所属していたMFニコ・イェナリスや、エバートンに所属していたDFティアス・ブラウニングといった中国系の英国人を帰化させた。さらに全く中国に縁のない5人のブラジル人(FWフェルナンジーニョ、FWアロイージオ、FWエウケソン、MFリカルド・グラール、FWアラン・カルバーリョ)も帰化させたものの、コロナのパンデミック中にこの5人は全員中国を離れ、戻ってきたのは2人だけ。リカルド・グラールは広州FCの給料未払いを理由に中国を去り、中国国籍も手放している。
中国のサッカー熱が再び盛り上がるには
しかし、これだけ解散したクラブがあるにも関わらず、1998年の横浜フリューゲルス消滅の後に市民クラブとして立ち上げられた横浜FCのようなケースが出てこない理由としては、中国が共産主義国家であるが故、市民自らの手でクラブを結成しようという機運が高まらないことが挙げられるだろう。良くも悪くも、中国共産党の一党独裁体制の政治によって受け身とならざるを得ない国民性が壁となっているのではないか。
近年になって、甲級リーグ、乙級リーグに属する地方都市のクラブでは、市民の手で地域密着型の運営を図り成功している例が出てきてはいるが、実力的にスーパーリーグにまでには及んではいない。また、日本以上ともいわれる少子化社会の中、若いサッカーファンの興味が欧州サッカーに向いてしまっているようだ。
かと言って、スーパーリーグのスタンドに閑古鳥が鳴いているわけではない。2024シーズンは平均19,431人もの観客動員を誇っている。この数字は最盛期には遠く及ばないものの、J1リーグに匹敵するものだ。ビッグネーム路線は諦めざるを得なくなったが、身の丈に合った経営に努めれば、まだまだ持続可能な状態とも言える。
また、現在W杯アジア最終予選グループCでは、日本代表の独走と、二番手と目されていたオーストラリア代表とサウジアラビア代表のモタつきによって、中国代表は最下位ながらも2位との勝ち点差はわずか「1」だ。2002年の日韓W杯以来のW杯出場となれば、消えかかっている中国国内のサッカー熱は再び盛り上がるだろう。
バブルを追い風に創立され、世界的ビッグネームと共にサッカーブームを巻き起こした後、バブル崩壊によって弱体化し、クラブの合併・消滅や観客動員の激減などは、Jリーグもかつて通ってきた道だ。Jリーグはそこから地に足を付けた経営に舵を切り、V字回復を果たした。中国サッカー界は今こそ、日本のリーグ運営やクラブ経営を手本に再スタートを図るべきではないだろうか。