正解は1年後──角田裕毅が2021年ルーキー・オブ・ザ・イヤーの有力候補【F1ジャーナリスト対談/前編】

1月13日(水)14時21分 AUTOSPORT web

 2020年シーズンは世界中に大きな打撃をもたらした新型コロナウイルス感染症(Covid-19)拡大に対して厳格な対応策を打ち立て、無事に17戦をやり遂げたF1。年が明け、2021年シーズンのF1開幕予定まで約2ヵ月と迫ってきているが、果たして今シーズンは無事に開幕できるのか、そしてどんな戦いが繰り広げられるのか。


 F1を長年取材してきた3名のジャーナリストたちに2021年を予想し、いまのうちだから言える独自の見解を思う存分、語ってもらった。


■史上最多23戦開催実現の可能性と懸念


尾張正博(以下:尾張):年も明け、いよいよ3月から新しいシーズンが始まります。2021年は史上最多23戦が予定されていますが、新型コロナウイルスの猛威が収まっていません。みなさんはこの23戦が予定通り開催できると思いますか?


※注釈:この取材は1月12日に発表された改訂版カレンダーが発表される前に行われたものです。


マシアス・ブルナー(以下:ブルナー):私の答えは『No』だ。まずいきなり開幕戦が延期になる可能性が高いと思っている。パンデミックが3月までに収束しないのは、火を見るより明らかだよ。収束に向かうどころか、ヨーロッパとアジアではさらなる波が押し寄せる可能性だってある。さらにオーストラリアという国、特にメルボルンがあるビクトリア州が、感染対策に非常に厳格な安全基準を設けていることを考えると、現時点でメルボルンでF1を開催することは難しいだろうね。


ヘイキ・クルタ(以下:クルタ):もし、世界中の人々が新型コロナのワクチンを接種できるようになれば、グランプリが通常の形で開催できるかもしれないが、残念ながらそうなるとは思えない。 おそらく、ほとんどのレースが今年も無観客で行われるだろう。モナコやシンガポールのような市街地でのグランプリは、今年も開催は難しいと思う。 そうなれば今年は18戦から20戦ぐらいのグランプリ数となるだろうね。 観客がサーキットでレースを観戦できる日が来るのは、もうしばらく先のことになるだろう。


ルイス・バスコンセロス(以下:バスコンセロス):Covid-19の第3波が訪れているので、レースに参加する関係者たちはできるだけ早くワクチンの接種を受ける必要があると思っている。 それでも、ふたつか3つのレースがカレンダーから外れるだろう。でも、私はそれ以外のほとんどのレースは、予定通り開催されるものと信じている。

2020年F1第1戦オーストラリアGP金曜 開幕戦は走行直前にキャンセルが発表された。
2020年F1第1戦オーストラリアGP金曜 開幕戦は走行直前にキャンセルが発表された。


尾張:ということは、皆さん予定している23戦をすべて開催するのは難しいという意見ですが、最終的に何戦になりそうだと思っていますか?


クルタ:私は2020年に17戦も開催されたことにさえ正直驚いているよ。もちろん、それを可能にしたのは関係者たちの努力の賜物だが、2021年に23戦すべて開催することはその3倍も困難なことだと思う。具体的な数字は分からないが、中止や延期などの多くの変更は覚悟しておかなければならないだろう。


ブルナー:2020年に21戦中17戦を開催したことを考えると、2021年は20戦行うことができたら成功だと言えると思う。どこが難しいのかといえば、まず厳格な安全基準を設けているオーストラリア。そして、入国者に厳しいガイドラインを設けようとしているバーレーン。それから中国。F1が現時点で中国へ行くとは思えないんだ。


バスコンセロス:私は少なくとも20戦はやるだろうと思っている。 外れる可能性があるのはオーストラリア、中国、アゼルバイジャン。それらの国は入国者に対して、長期の検疫を含む厳しい制限を課しているため、F1チームがスタッフを10日または2週間現地で隔離する余裕なんてないからね。 つまり、2021年のF1は開幕戦からスケジュールが変更される可能性が高く、私はオーストラリアGPはほぼ間違いなく延期されると思っている。


バスコンセロス:でも、それ以外、特にヨーロッパ内では人の動きを制御するのが容易なので、2020年にF1がソーシャルバブルを有効活用して多くのレースを開催したように、ヨーロッパラウンドのほとんどは今年は開催されると思っている。ただ、ヨーロッパ以外の国でのF1はまだ課題があり、感染状況次第だろう。ただし、最初に挙げた3レース以外でヨーロッパ以外の国でのF1というのは、シーズン終盤であるため、Covid-19のワクチンが効果を発揮すれば、シーズンの終わりにすべてのフライアウェイラウンドが予定通り開催される可能性があると予想している。


尾張:日本人としては、今年鈴鹿で日本GPが開催してほしいと願っているので、シーズン終盤までに新型コロナが収束してほしいものです。さて、シーズン前半の第4戦に予定していたベトナムGPが2021年のカレンダーから一旦消滅しています。代替グランプリはどこになると思いますか?


ブルナー:アルガルベ(ポルトガル)、ムジェロ(イタリア)、イモラ(イタリア)の主催者は、2020年に急きょレースを開催した別の主催者よりも熱心だから、その3つが有力候補になるだろうね。


クルタ:私はポルトガルGPが再びカレンダーに入ったらいいなと思っている。それはキミが2020年のレースでスタート直後に最高のオープニングラップを披露したことだけが理由ではないよ(笑)。アルガルベはチャレンジングなコーナーが随所にあり、F1を開催するに相応しいサーキットだと思っているからだ。2020年のレースを見て、私はアルガルベのコースがとても気に入ったよ。さらに、ポルトガルは観光として訪れるのにも良い場所だ。私は古いタイプのジャーナリストだから、やっぱりもう少しヨーロッパでF1を見たい。これはあくまで個人的な感想だけどね。


バスコンセロス:イモラとアルガルベが候補になると思う。このふたつのサーキットはチームによる投票で、カレンダーに補足したい会場となっているからだ。ただ、アルガルベには十分な資金がなく、2020年にグランプリを開催したときに露呈したインフラの問題を解決できないため、どちらかひとつを選択するような事態となれば、おそらくF1はイモラを選択することになるだろう。

2020年シーズン、14年ぶりにF1が開催されたイモラ・サーキットP
2020年シーズン、14年ぶりにF1が開催されたイモラ・サーキット


◼︎ルーキーたちの1年目。角田はクビアト以上の仕事をする?


尾張:さて、2021年は3人のルーキーがF1にデビューします。角田裕毅、ミック・シューマッハー、ニキータ・マゼピン——それぞれ3人の予選&決勝の最高順位はどれくらいになりそうか予想してもらえますか?


バスコンセロス:アルファタウリが、ほとんどのサーキットで2台ともQ3に進出するポテンシャルがあることは、2020年の成績を見れば分かる。私は、角田は2020年の(ダニール)クビアトよりも(ピエール)ガスリーに近いレベルにあるドライバーだと思っているので、頻繁に予選でガスリーを打ち負かすんじゃないかと期待しているよ。


バスコンセロス:とはいっても、レッドブル・ホンダに(セルジオ)ペレスが加入し、メルセデスとレッドブル・ホンダのトップ2チームの後方にはフェラーリ、ルノー、マクラーレンもいるため、角田の予選ポジションはトップ5の後方になると思う。ただし、レースではアルファタウリは異なる戦略を採る傾向があるため、展開によってはトップ5フィニッシュすることは十分可能だと思っている。


バスコンセロス:一方、ハースのドライバーにとって、現実的な目標はQ1を突破すること。しかし、これは簡単なことではないだろう。おそらく、彼らは週末の多くを(ニコラス)ラティフィと最後尾争いを展開することになると考えられるからだ。したがって、ポイントを獲得するには奇跡が必要だと思っている。ということで、私は3人の最高順位をこう予想する。


角田:予選 7位/決勝5位
シューマッハー:予選15位/決勝12位
マゼピン:予選15位/決勝12位


角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2020年F1アブダビテスト 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

ブルナー:ドライバーの成績を予想するためには、まず彼らが乗るマシンの競争力を予測しなければならないのだが、残念ながら現時点では私には分からないので、これについて回答するのは非常に難しい。 しかし、2021年のマシンは2020年から変更が少ないため、アルファタウリがハースよりも優位に立つだろうから、角田のほうがチャンスは多いように思う。また角田はクビアトよりも良い仕事をすると思うので、ひょっとしたら何度かサプライズを起こしてくれるかもしれない。


ブルナー:ハースのふたりに関しては、シューマッハーのほうが成熟しているので、マゼピンをリードすると思っている。さらにシューマッハーは一発の速さよりも、レースで安定した走りに定評あるのでレースで何度か入賞すると信じている。私の予想はこうだ。


角田:予選8位/決勝6位
シューマッハー:予選14位/決勝8位
マゼピン:予選15位/決勝9位


クルタ:私は次のように予想しておくよ。


角田:予選12位/決勝8位
シューマッハー:予選14位/決勝10位
マゼピン:予選17位/決勝12位


ミック・シューマッハー(ハース)
2020年F1アブダビテスト ミック・シューマッハー&小松礼雄エンジニアリングディレクター(ハース)

尾張:最終的にルーキー・オブ・ザ・イヤーは誰が獲ると思いますか?


クルタ:マシンの戦闘力を考えると、角田が一歩も二歩もハースのふたりより前を走ることになるだろう。シューマッハーとマゼピンはチームメイト同士で戦うか、あるいはラティフィとしか戦うことができないと思う。たぶん、アルファロメオとすら戦うことはできないだろうね。

2021年にハースからF1にデビューするニキータ・マゼピン
2021年にハースからF1にデビューするニキータ・マゼピン


バスコンセロス:さっきも言ったように、角田だ。それは彼がルーキーのなかで唯一、競争力のあるマシンを持っているドライバーであるというのが理由だからではなく、角田はどのカテゴリーでもすぐに速く走る数少ないドライバーだからだ。 シューマッハーはF2の1年目(2019年)がやや失望する成績だったし、マゼピンは2020年がF2の1年目だったけれど、同時にドライバーとしての限界も露呈させてしまったからね。


ブルナー:開幕前は知名度という点でシューマッハーのほうがマスコミの注目を集めるだろうが、レースが始まれば、角田の攻撃的なドライビングスタイルに注目することになると思うな。


後編へ続く。
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ルイス・バスコンセロス(Luis Vasconcelos)


F1取材歷500戦を超える重鎮ジャーナリストで、日本のレースにも精通しているポルトガル人。フォーミュラプレスの主宰も務めている。オートスポーツのほかにF1速報や東京中日スポーツにも寄稿している。


マティアス・ブルナー(Mathias Brunner)


 モータースポーツサイト『Speedweek.com』のリポーターとして、主にF1を取材。510戦を現場取材してきた。スイスのチューリッヒ郊外在住のベテランジャーナリスト。500冊以上のレース関係書籍のコレクションが自慢。好きなグランプリは、3つのM(モナコ、モントリオール、モンツァ)。


ヘイキ・クルタ(Heikki Kulta)


F1ジャーナリストのなかでも数少ないフィンランド人。ミカ・ハッキネンやキミ・ライコネン、近年ではバルテリ・ボッタスなどフィンランド人ドライバーをメインに取材している。なかでも『番記者』を務めるほど、ライコネンとは親交が深い。


尾張正博(Masahiro Owari)


F1速報誌「GPX」の編集長を務めたのち、2002年からフリーランスでF1全戦取材してきた日本人ジャーナリスト。F1速報やオートスポーツ、東京中日新聞などにも寄稿している。


※注釈:この対談は年末年始に個別に取材した内容を、ジャーナリストの了解を得て対談形式にしたものです。

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