近代モータースポーツへのアンチテーゼか!? どこまでも油臭く泥臭い映画『フォードvsフェラーリ』選評

2020年1月14日(火)18時26分 AUTOSPORT web

 封切り初日に観てきました『フォードvsフェラーリ』。結論から申し上げると、モータースポーツファンの期待を裏切らない内容に仕上がっていると思いました。これまでモータースポーツを題材とした映画はどうしてもあらすじよりも、細部の仕上がりへ目がいき、そちらばかりが印象に残り、楽しめないことが多かったというのが個人的印象です。


 ありがちなのが、主人公のドライバーとライバルがストレートで横並び、互いをにらみながら「クソ〜」とアクセルを踏み込むみたいなシーン。「レースなのにそこまではなんで全開にしてないの?」とどうしても突っ込んでしまいます。


 ところが今回の「フォードvsフェラーリ」のバトルシーンでは、(横を見てはいるものの)ブレーキング競争の心理描写などもあり、ストーリーに没入したまま観続けることができました。


 ストーリーの軸を成すのがクルマづくりで、その結果としてレースがあるとした世界観はマニア的には一番の見どころです。現実のレースではクルマづくりがレースから遠くなりつつある昨今、映画製作のプロがそこへ着目したことに勇気づけられました。


 テスト走行シーンでは専門用語も平気でポンポン飛び出して、一般女性観客を置き去りにしていないのか心配するくらいです。


 ドライバーがレースの主役ではありますが、道具であるレーシングカーづくりの競争がなければ深いストーリーとしては成立しません。その原点を改めて示してくれていることに、大きな意味を感じました。


 レーシングカーのワンメイク化や標準化が進んでいくと、車両性能だけでなく車両特性も平準化されて、クルマごとのキャラクターが薄くなり、レース展開やシリーズ展開も単調になりがち。そうした危惧は、コストなどの現実を前にしてかき消されているのが現状で……。話が逸れました。


 ストーリーのもうひとつのテーマは、現場とマネージメント間における意見の相違と確執。このあたりにもリアリティを感じました。どの組織でも、どのレーシングチームでも大なり小なり抱える問題であり普遍のテーマなのかもしれません。


 全編に渡って、レース裏側の油臭く、泥臭い面白さにスポット当てており、「同じところをグルグル走って何が面白いの?」と冷ややかな友達や彼女を相手に、モータースポーツへの理解を促すには最適の映画だと思います。


細部で1カ所だけ疑問が湧いたのですが、それは1月31日発売のauto sport関連特集で確認したいと思います。映画内容とは関係なく、1960年代当時の写真でフォードGTの開発とル・マン24時間レースを振り返ります。

フォードの広報写真として残る1965年テストシーン


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 日本では1月10日に公開された映画『フォードvsフェラーリ』。1月11日〜12日の2日間の興行収入ランキング(興行通信社発表)でランキング4位を獲得し、同週末に封切られた洋画のなかではトップにつけるなど話題に。また第92回アカデミー賞の作品賞を含む4部門でノミネートを受けている。


 アカデミー賞主要5部門のひとつである作品賞にモータースポーツを題材とした映画がノミネートされたのは初めてのこと。『ジョーカー』や『パラサイト 半地下の家族』などの競合を相手に初の栄光を手にできるか。現地2月9日(日)に開催される第92回アカデミー賞授賞式にも注目だ。


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