GRヤリス最終仕様(?)に見たトヨタの“ラリー王国復活への覚悟”
2020年1月16日(木)1時14分 AUTOSPORT web

東京オートサロン2020で世界初公開されたGRヤリスは、同日より期間限定予約が始まった。発売は2020年の夏ごろなので、ずいぶん気が早いようにも思えるが、それには理由がある。
GRヤリスはWRカー(ワールドラリーカー)のホモロゲーションモデルであり、2万5000台を生産しなければ新ヤリスWRCを実戦に投入できない。もし2021年の開幕戦で新ヤリスWRCを投じるなら、これからの1年間で2万5000台を作らなければならないのだ。
生産計画を立てるうえで、夏前までにある程度の販売台数を確保することは必須だったと思われる。
GRヤリスは次期WRカーのベースモデルであり、開発の初期段階からフィンランドのWRCチームと密接に打ち合わせをしながら設計を進めてきた。
チーフエンジニアである齋藤尚彦氏は、「WRCチームからのリクエストに対し、普通はそこまで入れないだろうというレベルまで入れました。ただ、競争力を保つため、詳細についてはあまり多くをお話しすることはできません。もちろん、レギュレーションに則って開発をしています」という。
大型リヤウイングを装着した際に最大のダウンフォースを確保できるよう、ルーフエンドを下げた3ドアボディを採用したのはその一例だ。
ルーフにカーボン、エンジンフードと左右ドア、そしてバックドアにアルミを採用したのは、WRカー化の際に素材置換が認められないためである。また、それ以外にも、サスペンションのストロークを犠牲にしないような補強の入れ方など、モータースポーツでの使用や改造を最大限に考慮した設計が随所になされている。
発表会でGRカンパニーの友山茂樹プレジデントは、「市販車を改造してレースに出るのではなく、最初からレースに勝つためのクルマを作るという発想で開発した」と述べたが、まさにその言葉どおりのクルマである。
■GRヤリスの開発には「レーシングチームの開発手法を採り入れた」
開発方法についても、齋藤氏から興味深い話を聞くことができた。開発の初期段階から石浦宏明と大嶋和也が深く関与し、最初の試作車から彼らが評価を担当したという。
「レーシングチームの開発手法を採り入れました。石浦さんや大嶋さんの横に我々エンジニアが乗り、インカーカメラを装着。GPSや車輪速などいろいろな走行データも採りながら、たとえば『ここちょっと、もったいないな』と彼らが指摘した部分を、データや映像と合わせてその場で解析し、解決していきました」
「いままでは評価ドライバーに問題を指摘されたら、それを直してもう一度乗っていただくまでに1カ月くらいかかりましたが、今回はその場ですぐ直し、確認していただいた。そのスピード感もまた、このクルマの特徴です」
WRCドライバーも積極的に開発に加わった。昨年までトヨタチームのレギュラードライバーだったオット・タナク、クリス・ミーク、ヤリ‐マティ・ラトバラの3人がスノーとグラベルで合計4日間、開発テストに参加したという。
「オットさんはクルマを縦に、ヤリ‐マティさんは横に使いますが、彼らドライビングが異なるドライバーから、それぞれ違うフィードバックをもらい、そのすべてに対応できるよう、どんどんクルマを変えていきました」
「結果、さまざまなドライビングスタイルのお客様に対応できるクルマになったと思います。そのひとつの例が、3モードある前後駆動配分です。WRCドライバーからヒントを得てモードを決めました。前30:後70はクルマを縦に使うオィットさんが、前50:後50の等分は横に使うラトバラさんが好むモードです」
もし、このクルマを購入したら、4WDモードスイッチに記されている“スポーツ”(30:70)を“タナク”に、“トラック”(50:50)を“ラトバラ”に書き換えてもいいかもしれない。それくらい、この駆動制御のセッティングには彼らWRCドライバーの知識と経験が込められているのだ。
なお、WRCドライバーがテストを行なった際は、前後トルク配分を司る電子制御多板クラッチにさまざまな課題が見つかったようだが、それに関してはすでに解決済みである。
「WRCドライバーのものすごい踏み方にも対応できるようになっていますので、お客様がダートやラリーで使っていだたいても充分な性能であると考えています」と、齋藤氏はラリーユースにも自信を見せる。
WRカーのベースモデルであるだけでなく、全日本ラリーなどへの参戦車両ともなることは間違いないGRヤリスからは、トヨタのラリー王国復活への覚悟がひしひしと感じられた。