奥川恭伸の「2つの姿勢」に活躍の予感。ヤクルトの自主トレで見せた凄さ

1月17日(金)6時30分 Sportiva

 ヤクルトの新人合同自主トレでの奥川恭伸(星稜/ドラフト1位)を見れば、誰もが”2つの姿勢”のすばらしさに気づくはずだ。投げる時、走る時の姿勢の美しさ。そして野球に向き合う姿勢。ひとつひとつの所作に説得力あり、ルーキーならではの初々しさはあるが、どこか貫録を漂わせている。

 新人合同自主トレは午前8時45分に室内練習場でのストレッチから始まり、奥川は6時50分に起床していると話した。

「朝は早いので大変ですけど、寝坊しないように、まず6時半の目覚ましで起きて、そこから10分おきにアラームをセットしています(笑)」


新人合同自主トレでノックを受けるヤクルトのドラフト1位ルーキー・奥川恭伸

 戸田球場には奥川のほかに、2位の吉田大喜(日体大)、3位の杉山晃基(創価大)、4位の大西広樹(大商大)、5位の長岡秀樹(八千代松陰)、6位の武岡龍世(八戸学院光星)と6人の新人選手が練習を行なっている。彼らが姿を見せるのは9時15分前後で、そこから軽いランニングのあと、アップ練習が始まる。

 1月7日、新人合同自主トレ初日。アップ練習では前田真吾アスレティックトレーナーが、各メニューの前に「こういう感じで」と実演つきで説明。奥川は実際に始める前に「こういう感じかな」と予習をし、メニューを終えると「こうだったかな」と復習していた。

 翌8日は雨天のため室内での練習となり、9日は第1クール最終日となった。

 アップでは慣れない動きのためか、つまずいたり、転倒したりする選手もいる。奥川はこの日も、予習と復習を繰り返しながら入念にアップ。両手を大きく広げて左右に振るメニューで見せるしなやかな動作は、まるで白鳥が羽ばたいているように見える。

 その後、15分間のキャッチボール。40メートルから50メートルの距離で投げる奥川を見て、チーム関係者は「いいボールですねぇ。ボールが落ちてくるかなと思ったら、まだ落ちてこないんですよ」と笑顔を見せた。

 また「走るのは苦手です」と話していた1キロ走では、1本目を3分12秒、2本目、3本目は3分13秒と、いずれも独走の1位でフィニッシュ。3本のタイムがほぼ同じだと知った時、2年前の松山での秋季キャンプを思い出した。その時、ヤクルト投手陣は”再現性”をテーマにした練習に取り組んでおり、田畑一也投手コーチ(当時)はその意図についてこう説明していた。

「脳から体への正しい伝達ですよね。外野のポール間走でも、同じタイムで走ることを心がける。そのためには、同じフォーム、同じ腕の振り、同じストライドを常に意識しようと。その感覚を覚えることができたら、体幹も意識できますし、いいボールを安定して投げられるようになる」

 そのことを奥川に話すと、こんな答えが返ってきた。

「3本のタイムを揃えることは意識していました。終盤は疲れてタイムが落ちてくるので、そこで力を上げるというか……そのことでタイムは均一になっていくんじゃないかと思っています。それはピッチングでも終盤の踏ん張りというか、そうしたところにもつながってくると思っています。これからも意識できるところは意識してやっていきたいです」

 第1クールを終えた奥川は、次のような感想を述べた。

「まず(プロの練習に)慣れることが目的で、流れもなんとなくわかってきました。疲労感はありますけど、これも慣れなのでしっかりケガせずやっていきたいです」

 1月11日、第2クール初日。

 アップでの予習、復習はこの日も変わらず。ジャンプ系のメニューでは動物のように躍動感に溢れている。15分間のキャッチボールのあと、外野でノックを受け、ホームに返球。奥川のボールを受けた星野雄大ブルペン捕手は「すげー球」とつぶやく。

 ゴロを捕球してからすばやく目の前のネットに送球する”ショートスロー”では、自分の順番がくるまで一連の動きを何度も繰り返す。その後のフィジカルランニングではポール間走を12本行なったが、すべて1位。走るフォームがまったく変わらないのが印象に残った。

 1月12日、第2クール2日目。

 内野ノック。奥川の両足を小刻みに動かし、左足のかかとを意識した捕球に、今度は昨年秋の松山キャンプで斎藤隆投手コーチが「イメージはかかとから。かかとで捕る」と、投手陣にノックしていた姿を思い出す。

 奥川にそのことを聞くと、「同じ高校生のふたりの内野手(長岡と武岡)がお手本になってくれているので、その形を真似てやっています」と答えてくれた。

「足を細かく刻むことは初めてです。今までは土のグラウンドだったので強く入っても大丈夫でしたが、これからは人工芝が多くなるので、そこで強く入ってしまうと捻挫の危険性があります。細かく刻むということをしっかり練習していきたいです」

 こうして取材ノートには、奥川について感心されられたことが増えていく。

・ティー打撃では、順番待ちの間も素振りを欠かさない
・ほかの選手の練習も観察している
・キャッチボールや遠投のあとは、肩回りをぐるぐる回す

 また、並べられたミニハードルを前向き、うしろ向き、横向きなどですばやくまたいで進むというアジリティトレーニングでは、順番待ちの際に思い出したかのようにゴロ捕球から送球する動作を始めた。奥川はその理由について、こう説明する。

「トレーナーの方が、このトレーニングはフィールディングの動きにもつながるという話をされていたのでやってみたんです」

 この日、大学生の吉田、杉山、大西の3人はブルペン入り。その間、奥川は遠投となった。左足を上げた状態でしばらく静止する姿は、本当に美しい。回転のいいボールが冬の冷たい空気を切り裂き、60メートル先のミットに吸い込まれていく。

「1本足できれいに立って……その姿勢はすごく大事だと思っています。そこはずっと意識していて、これからも続けようと思っています」

 遠投は最長70メートルの予定が、奥川の希望により80メートルまで延びた。

「遠投では体を大きく使って、力を抜いて伸びのあるボールを意識しました。体を大きく使うと、ちょっとしたバランスの崩れがそのままボールに出てしまいます。今日はいいボールと悪いボールがありました。遠投はこれからもやりますが、タイミングをつかみながら、いい感じのボールを増やしていきたいです」

 気になるブルペンでの投球については、次のように語る。

「遠投を経て、自主トレの終わり頃に立ち投げでもいいので、マウンドの傾斜を使って投げたいと思っています。(ブルペンに入った)3人は大学生ですので、焦らずにやっていきたいです」

 1月13日、第2クール3日目。

 バント処理練習の際、奥川は「守備は重要だととらえています」と話した。けん制やバント処理でマウンドを駆けおりる姿は、まるで試合と思うほどの迫力があった。

「スカウトの方から、状況をしっかり想定して練習したほうがいいとアドバイスをいただいていましたし、ここぞという場面で、アウトにできるかセーフになるかで試合展開はまったく変わってくると思います。普段から細かいところに気をつけることで、試合の時にしっかりアウトが取れると思っています」

 1月14日、第2クール最終日。

 2度目となる遠投で、「今日はいまひとつでした」と奥川は言ったが、70メートルの距離から放たれるボールはグーンと伸びて、星野ブルペン捕手の頭を越えるほどだった。

「力が入ってしまったことでボールが流れてしまいました。ただ、終わりのほうは力が抜けてよくなりました。次回はその感覚を忘れず、もっと質のいいボールを投げたいです。ここまでいい感触で強度を上げながらできています。これからもっと強度が上がるなか、ケガをしないようにやっていきたいです」

 この日、奥川は400メートルトラックを使った12分間走で3375メートルを記録。一緒に走ったほかの5人すべてを周回遅れにする圧倒的な走りを見せ、1周ごとのタイムラップにも大きなばらつきがなく、あらためて”体内時計”の性能の高さを証明した。

「走るリズムを感じながら、ちょっと疲れてペースは落ちていると思うんですけど、なんとか走れました」

 前田トレーナーは12分間走の目的について、次のように語る。

「新人選手たちの体力の基礎ベースを把握することが目的でした。今回の結果で言えるのは、有酸素の持久力があるということなので、単純に体力があるということです。野球はそれほど有酸素運動を必要としないのですが、基礎体力がなければ普段の練習はこなせません。奥川選手は、今日もそうですが走り終わったあとでも座ることなく飄々としていますし、僕としてもこれからが本当に楽しみです」

 練習終了後の囲み取材では、休日となる明日の予定についての質問があった。すると奥川は「いっぱい寝たいです」と言って、人懐っこい笑顔を見せた。

 1月16日、第3クール初日。

 右ひじの軽い炎症のため、この日からノースローとなることが球団から発表された。昨年11月のメディカルチェックでも確認されていたが、まだ完全に治まっていなかったために大事をとっての措置だという。

 一部別メニューの練習となったが、笑顔の多さはいつもと変わらず、練習後の囲み取材も通常どおり行なわれた。

「球団の方と話し合って決めたことですし、これから長く野球をやりたいので、この1年は土台づくりという気持ちでやっていますので、焦りはまったくないです。自分の弱いところにしっかり取り組める期間にもなると思うので、そこはプラスにとらえています。体幹トレーニングだったり、全身の可動域を広げることだったり、そういうところをしっかりと練習して、強くなれるように頑張っていこうと思います」

 どんなことも前向きに、そして真剣に取り組む姿勢を見れば、奥川への期待はますます大きくなっていく。

Sportiva

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