金子翔太は藤枝MYFCで復活できるか。ドリブル技術向上で失ったもの
2025年1月21日(火)15時0分 FOOTBALL TRIBE

J2の藤枝MYFCは1月20日、昨2024シーズンをもってジュビロ磐田との契約満了が発表されていたMF金子翔太を完全移籍で獲得した。金子は栃木県日光市出身であることから、J3の栃木SCか栃木シティへの移籍も噂されたがJ2に残留。金子にとって、清水エスパルス(2014-2021)、磐田(2021-2024)に続く静岡県内3クラブ目となった。
金子は藤枝の公式ホームページで「藤枝のサッカーと須藤(大輔)監督の熱意、クラブのビジョンに惹かれて加入を決断しました。自分もこのクラブと共に成長して、もう一度自分の価値を証明したいと思います。また、今回チームが決まらず不安な日々を過ごしている自分に対して、このオフシーズン多くの方に支えていただきました。本当にありがとうございます」と感謝を述べ、「サッカーができる喜びを噛み締めて、自分のプレーと結果で恩返ししたいと思います。藤枝MYFCに関わるすべての方と一緒に、J1への切符を掴みたいです。簡単な道のりではないですが、エネルギーに満ち溢れている自分に期待してください!」と力を込めた。
金子の獲得は、昨季のJ2リーグで16得点を挙げたFW矢村健がレンタル元であるJ1アルビレックス新潟に戻り、ストライカーが補強ポイントだった藤枝にとっても効果的な補強と言える。ここでは、プロ11年目を迎えようとしている金子のキャリアを振り返り、その転機について考察する。

運動量と突破力を生かしたプレースタイル
今年5月に30歳を迎える金子は、2008年JFAアカデミー福島に3期生として入校。ところが2011年の東日本大震災と、それに伴う福島第一原発事故によって、広野町、楢葉町、富岡町が全域避難の対象となり、チームごと静岡県御殿場市に拠点を移すなど、苦難に満ちた青春時代を送った。
それでも翌2012年、プリンスリーグ東北1部で20得点を挙げ得点王を獲得し、チームを初優勝に導いた金子。2013年6月には清水エスパルスに特別指定選手として登録され、2014年に正式に入団する。
しかしながら清水入団当時は、FW大前元紀(現南葛SC)、FW高木俊幸(所属未定)、FW長沢駿(現京都サンガ)、FWノヴァコヴィッチ(2017年引退)、MF石毛秀樹(現ウェリントン・フェニックス)らの攻撃陣に割って入ることはできず、活躍の場は当時J3に参戦していたJリーグ・アンダー22選抜が中心となった。2015シーズンには当時J2の栃木SCへ育成型期限付き移籍し、実戦経験を積んだ。
2016シーズンに当時のクラブ初のJ2を戦っていた清水に復帰した金子。大前の負傷離脱によりチャンスが訪れ、鄭大世と2トップを組んで活躍する。最終節の徳島ヴォルティス戦で決勝点を奪い、清水のJ1復帰に大きく貢献。また翌2017シーズン、J1第8節の川崎フロンターレ戦で決めた得点は、J1通算20,000号となった。
その後は2列目起用も増え、その決定力のみならず、運動量と突破力を生かしたプレースタイルで、2018シーズンにはJ1リーグで10得点7アシストを記録。チームを1桁順位にまで押し上げる原動力となった。
しかし2021シーズン、ミゲル・アンヘル・ロティーナ新監督が清水に就任すると、金子は出場機会が激減。MF鈴木唯人(現ブレンビーIF)など若手の台頭もあり、同県の宿敵であるジュビロ磐田への期限付き移籍を決断する。
しかし金子の献身性と貢献度を知る清水サポーターは、これを「禁断の移籍」とは見なさず温かく送り出した。完全移籍に移行した2022シーズン以降も、IAIスタジアム日本平に磐田の一員として帰還した金子に罵声を飛ばすことはなく、愛あるブーイングと拍手で迎えた。

ドリブルの技術向上と共に失ったもの
163センチ58キロと、一般人と比べても小柄な部類に入る金子がプロ11年目を迎えようとしていることは、自身の努力の賜物でしかない。
しかし磐田での昨2024シーズンは、J1リーグで14試合1得点の記録を残したものの、夏場以降は先発出場どころかベンチにも入れない日々が続いた。リーグ戦の先発は7試合だが、フル出場はゼロ。総シュート数も8本にとどまった。小柄ながらも攻撃時の推進力とハードワークが持ち味だった金子。いったい彼に何が起き、そのプレースタイルに変化をもたらしたのだろうか。
転機は6年前に遡る。清水所属時代の2019年、かつてフットサルのFリーグ・バルドラール浦安に所属し、現在ドリブルデザイナーを称するYouTuber岡部将和氏のYouTube番組に出演したことだ。
岡部氏の指導を受けたことで、金子のドリブルの技術は上がったかもしれない。しかし同時にボールロストも増え運動量も減少。ドリブルが得点するための攻撃の手段ではなく、目的化してしまい、彼の良さが消えてしまった。昨シーズンのスタッツを見ると、14試合での合計出場時間608分でドリブルのポイントはなんとゼロ。かと言ってパス数が増えたわけでもなく、“どっちつかず”の選手になってしまったのだ。
YouTubeを見る限り、岡部氏のドリブル技術は目を見張るものがある。しかし、そもそも基本的に1対1で見せるドリブルデザイナーと、11人で行う集団競技のサッカーとは似て非なるものだ。岡部氏の曲芸師のような技は、試合では何の実用性もない。観衆は沸くかも知れないが、得点が入るわけでもない。
金子はプロとして生き抜くため、“ストロング”を得ようとドリブルを磨く目的で岡部氏に師事したのだろうだが、結果は武器を得るどころか、元々持っていた“ストロング”をも失ってしまった格好だ。

藤枝で金子の長所を再び
藤枝で3季目を迎える須藤監督は「エンターテインメントサッカー」のスローガンの下、超攻撃的サッカーを志向し、中でも「シュート数」にこだわりを持っている。金子をどのポジションで起用するのかは不明だが、昨季の矢村と同じ役割を与えれば、本来の金子の長所を再び呼び覚ますことができるのではないだろうか。
もちろん金子も拾われた以上、ドリブルという“宗教”から解脱し、自身の良さをもう一度思い返す必要があるだろう。それでもドリブルにこだわり、昨季のようなプレーを続けるようなら、1シーズンで切られることになる可能性も高いと思われる。