VARは“中東の笛”を抑えられない?垣間見える暴走審判の助長不安

1月25日(土)11時0分 SPAIA

モニターを見るレフェリーⒸゲッティイメージズ

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疑惑のVAR…U23カタール戦で田中碧が一発退場

誤審を減らす目的で、2017年のコンフェデレーションズカップから世界各地の国際大会などで採用され始めているVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)制度。別の場所で、映像をチェックしながらピッチ上の審判をサポートする制度だ。主審も映像確認が可能で(オン・フィールド・レビュー:OFR)、グラウンド外に設置された日除けの黒い遮光フードを取りつけたモニターを見る姿がすっかりおなじみになった。

VAR制度は、誰でもどこでも使えるわけではない。「国際サッカー評議会(IFAB)の承認を受けた組織、スタジアム、審判員」(JFA公式ページより)のみ正式利用が認められている。ただし、何度も映像確認を行うと試合の流れが妨げられる。そこで「得点かどうか」「PKかどうか」「退場かどうか」「警告退場の人間違い」という4つの事象に加え、主審が確認できなかった重大な事象のみVARが介入可能になっている。

そんなVAR制度によって、ロシアW杯決勝のフランス対クロアチアでは、前半にフランスへPKが与えられた。試合の流れを方向づける、こうした新しいドラマが早くも複数生まれている。

この映像確認の効果は小さくない。ピッチレベルでは正確な確認が難しかったプレイを様々な角度から検証することで、選手も観客も、より納得のいく判定が行われるようになった。J1の試合などでも、予定より1年早く、2020年シーズンから公式採用されることが決定している。

しかし1月15日、VAR制度の悪用(?)とも思える事態が起きた。AFC U-23選手権(東京五輪アジア最終予選)グループステージ第3節のU23日本代表対U23カタールの一戦(1-1の引き分け)で、VARによって不可解な判定が相次いだ。

特に物議をかもしたのが前半終了間際のプレイだ。MF田中碧(日本/川崎フロンターレ)がボールを奪取するために仕掛けたタックルが、VARの末、カタールの選手に対する悪質な接触行為だとして、シンガポール人のムハンマド・タキ主審から一発レッドカードを宣告されて退場処分になった。

映像を見る限り、悪質どころか、むしろノーファールの綺麗なタックルだったように見える。オーストラリアの公共放送局「SBS」もウェブの記事で「不可解なレッドカードが提示された。田中のチャレンジはイエローカードにも値しないどころか、ファールだったかどうかさえ議論の余地が残るものだった」と疑問を呈している。

この試合の後半、日本は10人になりながらも先制点を決めることに成功した。しかし今度は、田中の代役に近い形で投入された齋藤未月(日本/湘南ベルマーレ)が、ペナルティエリア内でカタールの選手の足に接触して(ボールには行かずに)シュートを邪魔したとして、主審はすぐさまPKを宣告。日本の選手たちはジェスチャーを交えてモニター判定を求めるも、主審は要求を拒んだ。

将来のW杯アジア予選も危険? “審判暴走”の危険性

人間の目には限界がある。だからこそ、テクノロジーを駆使して誤審を減らそうとするVAR制度には大きな価値がある。俗に言われる"中東の笛”、"アジアの笛”なども、同制度の導入で軽減されるかと思われたが、カタール戦でそんな淡い希望は打ち砕かれた。

VAR制度がない時代は、プレイ時に主審がすぐ判断してジャッジを下さない限り、何も起きなかった(プレイ継続を優先してきた)。しかしVARによって、主審(あるいはVARの指示)が試合を無理やり止めて誤審を下す…というとんでもないことが可能になってしまった。

今までまことしやかに囁かれてきた身内びいきの笛は、本当に実在するかもしれない。カタール戦は、そう感じさせる一戦になってしまった。

欧州サッカー連盟(UEFA)は今後、EURO2020予選プレーオフおよびカタールW杯の予選でVAR制度を採用する模様だ。一方、アジア予選で同制度を採用するという話はまだ聞かれず、中東国との試合を避けられないであろう日本代表はホッと一安心(?)だろうか。

ただしサッカー界の潮流を考えれば、アジアのW杯予選でVAR制度が導入されるのは時間の問題だろう。

国際サッカー連盟(FIFA)はW杯の主催団体ではあるものの、予選の運営については、基本的には各大陸の連盟に一任している。アジア予選は主に、FIFA傘下のAFCの管轄であり、AFC所属国の審判がジャッジを行う。なし崩し的にVARの運用が始まれば、審判の暴走を助長する危険をはらんでいる。

VAR制度で権力肥大?“審判至上主義”に変化は必要か

日本サッカー協会(JFA)は16日、関塚隆技術委員長の名前で、アジアサッカー連盟(AFC)にカタール戦の疑惑の判定に関する意見書を送付したと明かしている。ごく当然の対応と言えるが、おそらく大きな変化は期待できないだろう。

ただしVAR制度の悪用が懸念される中、今までのように“アジアの理不尽な笛はあって当たり前”という空気でもって、代表チームに無理を強いるのは酷な話だ。審判の技術向上と並行して、八百長まがいのジャッジを防ぐべく、審判に対するペナルティ(罰金や主審の途中交代など)や監視の強化などを含め、より正当なジャッジが行われる環境を整えるべきではないだろうか。これこそ日本サッカー協会のなすべき仕事だろう。

実務的なところで言えば、アジアW杯予選における規定変更などは、原則的にFIFAのW杯組織委員会の承諾やIFABのルール改定が必要になってくる。

ちなみに、IFABが制定し、FIFA(ならびにFIFA加盟の各大陸連盟など)による世界中のサッカー競技のルールブック「サッカー競技規則」に記載される「サッカー競技規則の理念と精神」には、「『美しいサッカー』の美しさにとって極めて重要な基盤は『公平・公正さ』である。それは、競技の『精神』にとって不可欠で重要な要素であり、競技規則によって担保される。最高の試合とは、競技者同士、審判、そして競技規則がリスペクトされ、審判がほとんど登場することのない試合である」と記されている。

この宣言のとおり、審判が試合の主役になってはならない。審判の権力肥大化が懸念される今こそ理念と精神を再考し、「審判至上主義」をあらためるべきではないか。例えば、相撲でも物言いがつけばVTR検証されるが、差し違えをした行司が進退伺を出すこともある。審判とはそれほど誇り高い存在であるべきだが、現状はどうだろうか。

上位カテゴリーの公式試合などでは「主審以外にその他の審判員(副審2人、第4の審判員、追加副審2人、リザーブ副審、VAR、および、少なくとも1人のアシスタント VAR(AVAR)を任命できる」とある。ここに第三者的な“審判の審判”を新たに設け、選手やチームに対するように、主審への注意・警告・退場などの懲戒処置を行えるようにするというのも一手だ。

VARの不完全性が払拭できない以上、最高の試合を求めて、審判の立場もそろそろこうした変化が必要ではないだろうか。

SPAIA

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