ホームレスからアジア最強守護神へ。日本代表に立ちはだかるイラン代表GKの驚くべき実力

1月27日(日)13時51分 フットボールチャンネル

イラン代表を支える最後の砦

 日本代表は28日にAFCアジアカップ2019の準決勝でイラン代表と対戦する。今大会、明らかに抜きん出た実力を発揮している優勝候補の筆頭がイラン。そのチームにはアジア最強とも言うべき守護神がいる。異色のハードすぎるキャリアを歩んできた26歳は、いかに育まれ、どんな強みを持っているのだろうか。(取材・文:舩木渉【UAE】)

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 日本代表の守護神・権田修一は、よくこんなことを話している。

「本当に強いチームが勝つのがトーナメントで、『GKが止めて勝ちました』とか、『この試合はGKが…』というのは過去を見ても絶対にある」

「どこの国のどのレベルの大会でも、優勝するためにはGKが絶対に大事なポジションなのは間違いない」

 まさにその通りだろう。もちろんAFCアジアカップ2019も例外ではない。勝敗の分かれ目がよりシビアになってくるトーナメントの終盤には、GKの1本のセーブ、1本のキック、1本のスローイン…一度の声かけすらも試合結果を左右するかもしれない。最後の砦であるGKには、ストライカー同様にゴール前で決定的な働きが求められる。

 そういった意味で日本代表がアジアカップのタイトルを獲得するにあたって最大の障壁になりうる存在は目の前にいる。それは紛れもなく準決勝の対戦相手、イラン代表のゴールマウスにそびえ立つアリレザ・べイランバンドだ。

 192cmという天を衝くような長身を誇る守護神は、昨年のロシアワールドカップで見せた1本のセーブをきっかけに世界中から注目を浴びるようになった。グループリーグ最終戦のポルトガル戦、べイランバンドはクリスティアーノ・ロナウドのPKを見事な読みで止めたのである。

 生涯で80%以上の成功率を誇る世界的スーパースターのPKを読み切るという離れ業は、これまでアジア域内、特に中東での知名度しかなかったGKの評価を一変させるのには十分だった。イランはグループリーグ敗退に終わったが、べイランバンドは世界から称賛されて然るべきパフォーマンスを見せた。

 もう1つ、彼のパブリックイメージを形成するうえで重要なプレーである驚異的な飛距離を誇るロングスローも、ワールドカップで世界中に認知されたはずだ。ポルトガル戦で見せたような爆発的な強肩は一度だけの偶然ではなく、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)やイラン代表、さらには国内リーグといった日常でも頻繁に披露される。

 日本での知名度は、おそらくACL決勝でさらに上がった。イランの強豪ペルセポリスで正守護神を務めるべイランバンドは、もはや代名詞となった70m級のロングスローのみならず、豪快なセービングや正確なキックでも鹿島アントラーズの脅威となった。

ハードすぎるべイランバンドの人生

 現時点でアジア最高のGKと見られている、それほど体の大きくないオーストラリア代表のマシュー・ライアンとはプレースタイルは全く異なる。それでもべイランバンドはライアン同様に欧州のトップレベルでも十分に通用する能力を持っている。

 体を目一杯伸ばして際どいコースに飛ぶシュートを弾き出し、味方がかわされれば鋭い飛び出しで相手との間合いを詰めて1対1を制する。そして正確無比なパントキックや代名詞ともなったスローインで反撃のきっかけを作り、確かなテクニックでビルドアップ時の起点にもなれる。

 長身を生かしたクロスセービングもお手の物。先に述べた通り、PKセービングも大の得意としている。そして特筆すべきはリアクションの速さだ。手足が長く身長192cm体重81kgと大柄なべイランバンドだが、一度体勢を崩されて地面に倒れても、驚くべき速さで起き上がって次の動きに移れる。

 体が大きいが故にグラウンダーの速いシュートに反応が遅れがちになったり、左右に大きく振られた際に体の軸がブレてポジショニングが曖昧になったりする傾向が見られるものの、そういった弱点が小さく見えるほどに長所が際立つ。とにかく規格外の守護神なのだ。

 そして、べイランバンドはかなりハードな人生を歩んできたことでも知られている。現在26歳のイラン代表は1992年9月21日、遊牧民の家庭に長男として生まれた。最初の仕事は家業でもある羊飼いで、その合間を縫ってサッカーに興じていた。しかし、「僕の服やグローブも破ってきた」というサッカー嫌いの父親には、プロのGKになるという夢を受け入れてもらえなかった。そこで自らの情熱を貫くべく12歳で家を出て首都テヘランに向かう。

 当初べイランバンドはストライカーだったが、けが人などがいる際にGKとしてもプレーし、そこで才能を開花させていく。親戚にお金を借りて辿り着いたテヘランでは、プロ選手になるために地元のクラブでプレーしながら、道端で寝起きする生活を送っていたという。いわゆるホームレスだ。

 その後は服飾工場や洗車場、ピザレストランなどで働いて食い扶持をしのぎつつ、ある偶然によって契約したナフト・テヘランの下部組織で技を磨いた。相変わらず寝る場所を確保するのには苦労したが、他クラブへの練習参加とそこでの負傷によって契約解除、ナフトとの再契約を経て才能が本格開花。U-19代表、さらにU-23代表入りも果たし、クラブでは正守護神へと上り詰めていく。

驚異的な成績。日本のアジア制覇を阻む最大の壁に

 21歳だった2013/14シーズンにナフト・テヘランで定位置を確保すると、2014年4月にはイラン代表から初招集を受ける。ブラジルワールドカップでの23人枠入りは逃したものの、翌年のアジアカップではカルロス・ケイロス監督に再招集され、大会直前の2015年1月4日に行われたイラク代表との国際親善試合でA代表デビューを飾った。

 初のアジアカップは控えGKとして見届けることになったが、同年6月のロシアワールドカップ予選のグアム戦で2キャップ目を記録すると、同11月に再びチャンスを得て一気に正守護神の座を奪取。べイランバンドがイラン代表のゴールマウスを守ったこれまでの31試合で、公式戦の敗戦はロシアワールドカップのグループリーグ第2戦・スペイン戦のたった一度だけ。敗戦そのものも3つしかない。

 2016年に移籍したペルセポリスでは現在までリーグ戦62試合に出場し、わずかに27失点。クリーンシートは41試合もある。イラン代表でも通算31試合のうち19試合がクリーンシートと、まさに無敵の守護神なのである。

 今回のアジアカップでは5試合全てに出場して未だに無失点。恐るべきハイパフォーマンスでイラン代表の守備に安定をもたらしている。石を投げて飛距離を競う「ダル・パラン」という伝統的な競技で幼少期に培った異次元の強肩も健在だ。

 2014年にトラクター・サジとの一戦で見せた約75mのスローインでのアシストは今でも語り草だが、今では同じような飛距離をコンスタントに出すことができ、今大会でも決勝トーナメント1回戦のオマーン戦で前線の味方にピタリと合わせる脅威の投球を見せた。

 日本代表のGK東口順昭は「カウンターのリスク管理は特にしとかなあかんと思います。一発の精度の高いスローインで、蹴るより投げる方が精度が高いので、そこのリスク管理は集中して、繊細にやらなあかんと思う」とべイランバンドの長所に警戒心をあらわにしていた。28日の試合では1失点が命取りになるだけに、得意な形をできるだけ出させないようにしなければならない。

 ホームレスからアジア最強守護神へ。あまりにハードな人生を歩んできただけあって、精神的にも非常にタフで隙がない。イランには個人能力の高いフィールドプレーヤーも揃っているが、何より権田が語るような1つひとつのプレーで勝ちを引き寄せられるGKの存在価値は高い。日本代表はこの巨大な壁をいかに乗り越えるか。べイランバンドの牙城を突き崩さなければ、2大会ぶりの決勝の舞台は見えてこない。

(取材・文:舩木渉【UAE】)

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