連日PCR検査。世界選手権期間中も全員陰性の彗星ジャパンが得た手応え

1月31日(日)6時15分 Sportiva


バーレーン戦で勝利し、有終の美を飾った「彗星ジャパン」。土井レミイ杏利は主将としてチームを引っ張った
 エジプト開催の世界選手権から、ハンドボール日本代表「彗星ジャパン」が帰国した。筆者は、日本チームの帯同オフィシャルカメラマンとして現地で選手たちと行動をともにしながら取材した。
 今回、世界規模の大会としては初めて、外界との接触を遮断する、いわゆる「バブル」システムが採用された。試合とともに、完全に隔離された中でのコンディショニングとの戦いともなった。
【写真】土井レミイ杏利、2015年のインタビューカット
コロナ対策および体調管理の観点から、参加全32チーム中、最初にエジプト入りした彗星ジャパン。大会組織委員会の感染防止の"サンプル"にもされながら、過剰とも感じるウイルス対策のもと、エジプトとの親善試合をこなすなど調整していた。
 そうした中、最初のニュースが入ったのは、日本チームが予選ラウンドの行なわれるアレクサンドリアへ向かう前日。大会参加予定だったアメリカ、チェコが、出発前検査で陽性者が複数人出たため出場を辞退。大会規定により前回大会の優勝国のいる大陸の補欠上位国の北マケドニアとスイスが繰り上がりで参加することになった。
 幸いにも、日本の対戦相手に変更はなかった。カイロのホテルからアレクサンドリアの試合会場へチームバスでバブル間の移動を果たした日本は、いよいよ大会本番、バブルの中で試合に挑むことになった。
 アレクサンドリアのホテルに到着すると、地中海に面したロケーションにテンションが上がるとともに、コロナ対策についていくつかの不安を抱えることとなった。


PCR検査は連日行なわれた。日本チームは最終日まで全員陰性だった
 ひとつが食事会場。もともとのコロナ対策プロトコルによると、参加国の食事場所として各国に1部屋ずつ割り当てられ他国の選手らと交わることはない、というのが我々の理解だった。ところがホテル到着後、指定の食事会場に入ると、「Slovenia(スロベニア)」と表示のあるテーブルが。スロベニアと同じ食事部屋を使うということかと、帯同しているコロナ対策ドクターヘ確認すると、その日の夕食からはSloveniaの表示が「Croatia(クロアチア)」に変わっていた。
 プロトコルをあらためて確認すると、必ず1チーム1部屋というわけではなく、1部屋ずつ割り当てるように「努力する」との記載。大会が始まれば徹底されると見込んでいた対策は、「できる限り」というあいまいさで運営されるという現実を突きつけられた。日本チームは、独自に感染対策への意識を徹底することを余儀なくされた。
 さらに、他国代表チームの中からエジプト到着時のPCR検査で陽性者が出た。それもあって事前に告知されていた試合前日のPCR検査のみならず、試合後にも検査を受けることになり、事実上、毎日のPCR検査が義務付けられた。
 試合に挑むストレスに加えて、バブル内の生活のストレスもあった今大会。日本チームのキャプテン・土井レミイ杏利が「(バブル内の大会を)二度と経験したくないですね。特にこっちの検査官は、(PCR検査のための綿棒を)容赦なく鼻の奥まで突き刺してきますから」と話したように、試合に挑む集中力をそがれかねない状況だった。
 そうした中にもかかわらず、日本代表は快進撃を見せた。
 初戦は、ヨーロッパ選手権2位でこの大会に参加し、過去にオリンピックで金メダル2回、世界選手権で優勝経験もあるクロアチア。その強豪を相手に29対29で引き分け、世界のハンドボール界に衝撃を与えた。

 昨年のアジア選手権では28対36で敗れているアジア王者カタールに対しては、前半を1点のリードで折り返す。後半の出だしで相手ゴールキーパーの好セーブもあって逆転を許し、一時は4点差をつけられるも、そこから一度は再逆転に成功。最終的には29対31で敗れてしまったが、力強さを見せた。
 予選ラウンド最後のアンゴラ戦は一進一退。残り5分でアンゴラにリードを許すも、残り2分で再逆転。30対29で勝利して、世界選手権24年ぶり2度目のメインラウンド進出を果たした。
 予選を終え、日本を含めたアレクサンドリアで試合をしていたグループは中1日の休息日。バスで約3時間半かけてカイロへ戻った。すでに5日間で3試合。精神的にも肉体的にも疲労が増している中、新たなバブルへ移動して順応しなければならない厳しい日程となっていた。
 カイロで宿泊するのは、入国時のカイロ郊外のホテルとも、アレクサンドリアのリゾートタイプのホテルとも違って高層の大型ホテル。それまではエレベーターを使わないなど、チーム独自に感染対策をしていたものの、ここではPCR検査会場が12階にあったためエレベーターを使わずに生活することは難しかった。また、参加32チーム中16チームが集結した状態で、1チーム1部屋の食事会場を用意されることはなく、引き続きクロアチアと時間をずらして食事をした。また、ホテルのジムはひとつの国が利用した後に消毒作業する流れを繰り返すため、非現実的な時間を割り当てられるなど、実質的に利用できる日はほとんどなく、周辺に広い敷地もないので、ランニングなどで身体を動かすことも不可能となった。
 迎えたメインラウンドの第1戦。相手は中南米チャンピオンで2017年EHF(欧州ハンドボール連盟)チャンピオンズリーグMVPのディエゴ・シモネを有するアルゼンチン。決勝トーナメント進出のために負けられない試合だったが、要所でミスが重なり24対28で敗れた。

 土井は「スケジュールはわかっていたことですから言い訳にはなりません」と潔いが、正直、環境の変化などもあって選手たちの動きも重く、メインラウンドの今後に不安を感じさせる戦いだった。
 続くメインラウンド第2戦の相手はデンマーク。2016年リオデジャネイロ五輪、前回の世界選手権で金メダルの強豪で、ヨーロッパ主要リーグのトップクラブでプレーするスター選手を多く抱えるディフェンディングチャンピオンだ。
 アルゼンチン戦の戦いぶりもあって心配されたが、後半10分の時点で22対24と日本は食い下がる。しかし、パワーで勝る相手にディフェンスで劣勢に立たされ退場者が重なるなど徐々に引き離されると、最終的には27対34。それでも、全メンバーで出場時間を分けつつ、プレーの質を落とさずに27得点を挙げることができた。試合後、「誰が出てもするべきことの意識の統一ができていますから」とプレーメイカーの東江雄斗が語ったとおり、選手層が厚くなりつつあることを示す試合となった。
 今大会のラストゲームとなったメインラウンド最終戦は、バーレーンとの戦い。昨年のアジア選手権で2戦2勝だったが、2017年のダグル・シグルドソン監督就任後の通算成績は2勝3敗。東京五輪出場権を獲得しているアジア代表の国に対し、負けるわけにはいかない試合だった。序盤4対4の硬直状態も前半7分に岩下祐太のセーブから成田幸平の速攻の際にバーレーンの選手が反則で退場。数的優位となった日本はここで流れをつかみ、29対25で世界選手権メインラウンド初勝利を挙げて、大会を締めくくった。
「バブル」の中での世界選手権。帰国に際しPCR検査の陰性証明書が必要であることを1週間前から大会事務局に依頼していたが、結局直前まで用意されていなかった。国際ハンドボール連盟(IHF)のプロトコルと見比べて、厳重とは言えない運営だった印象は拭えない。大会期間中に他国の選手団の中から陽性反応者が出るなど、非常に難しい状況だった今大会にあって、彗星ジャパンは厳しい感染対策を継続。1カ月以上にわたって「全員陰性」を貫き通したことは一定の評価に値するのではないだろうか。

 当初の予定より多い18回ものPCR検査を行なうなど、普段の大会以上のストレスを感じる中の戦いだった。しかし、バーレーン戦で「マン・オブ・ザ・マッチ」に選ばれた吉野樹は「バブルの中だったので、もしかするといつもよりみんなでコミュケーションが取れたかもしれない」と言った。
 不自由な条件下にあっても、それを自分たちの力にする逞しさがチームに備わったように思う。2019年には7戦全敗で唯一白星なしのチームから、クロアチアと引き分け、デンマークにも好試合をするなど、ヨーロッパの強豪国に迫る戦いぶりを見せた彗星ジャパンが、確かな成長の跡を残した。


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