田中将大と契約しなかったヤンキース。「第2エース」確立をどう考えたか

2月1日(月)11時10分 Sportiva

「フリーエージェントになったタイミングでは、ヤンキースと再契約をして、またプレーしたいという気持ちがありました。しかし、かなり早い段階で、代理人を通じての話を聞いている中で、これはもう別々の道を歩んでいかなければいけないんだなと感じましたので、それからはさまざまなことを考えてきました」
 1月29日、東京都内で開催された楽天イーグルスへの入団会見で、田中将大はそう述べた。そこでの正直な言葉からは、大方の予想に反し、田中とヤンキースは早々と"別離"を覚悟していた事実が見えてくる。
◆田中将大の楽天復帰で投手陣に波及効果。最も恩恵を受けるのは早川だ

ヤンキースから楽天への復帰が決まり、入団会見を開いた田中
 少々、意外なことのようにも思える。オフ開始当初の時点で、ヤンキースの先発投手陣は不安だらけだったからだ。エースのゲリット・コールに続くのが実績に乏しいジョーダン・モンゴメリー、デイビ・ガルシア、クラーク・シュミット、マイケル・キング、DV規定違反による出場停止処分明けのドミンゴ・ヘルマンといった陣容ではあまりにも心許ない。計算できる存在として、信頼度の高い田中との再契約を望むファンが多かったのも当然だった。
 それにもかかわらず、ヤンキースが別の方向性を選択したポイントはどこにあったのか。特に新型コロナウイルスによるパンデミック下ではさまざまな要素が考えられるが、大きかったのは「給料総額の削減政策」と「第2エースのポテンシャル」のふたつだろう。
 給料総額の件に関してはすでに散々語られており、ここで詳しく繰り返すまでもあるまい。昨季、入場料収入の消失による収入源が影響し、尻に火がついたヤンキースは今オフ、ペイロールを"ぜいたく税"がかからない2億1000万ドル(約219億8000万円)以下に収めることを命題に据えた。そのためスムーズな補強は難しくなってしまった。この"ぜいたく税"の問題がなかったら、田中ともよりフレキシブルな交渉がなされていた可能性は高い。

 もっとも、それだけではなかったのだろう。ヤンキースがその気になれば予算が作り出せないわけではなく、実際に、のちにコリー・クルーバー、ジェイムソン・タイロンの獲得に合計1325万ドル(約13億9000万円)を費やしている。
 そこでポイントになるのは、29日の会見でブライアン・キャッシュマンGMが残したこんな言葉だ。
「2021シーズンを戦うにあたり、これが最善の道だと思った。ひとり(=田中)分の価格で2人(=クルーバー、タイロン)を獲得できれば、それがよりよい戦略なのかもしれない」
 昨季のヤンキースはプレーオフに進んだが、地区シリーズでレイズに惜敗。その敗因のひとつになったのが、コールに次ぐ"第2エース"の不在だった。
 本来、それになるはずだった田中は、昨年のサマーキャンプ初日に打球を頭に当てる不運なアクシデントで出遅れた。それでも復帰後、シーズン中10度の先発機会で9戦、自責点3以下という好成績を残したことはさすがであり、プレーオフ開始前には先発2番手の立場を確固たるものとしていった。
 ただ、調整遅れもあって、昨季の田中は"第2エース"と呼ばれるほどの支配力は最後まで取り戻せなかった印象がある。
 ヤンキース首脳陣もそう考えていたのだろう。のちに論議を呼んだレイズとの地区シリーズでの起用法は象徴的だった。
 シリーズ第2戦でヤンキースは、田中ではなく新人のガルシアをオープナーとして先発させ、2回から左腕JA・ハップにつなぐという奇策を用いた。結果は見事に失敗し、第2、3戦の敗北が響いてヤンキースはレイズに2勝3敗で敗退。振り返ってみれば、このシリーズまでに田中が好調時の切れ味を取り戻していれば、第2戦ではすんなりと先発を任されていたに違いない。

 そんな経緯を経て迎えた今オフ。ヤンキースは緊縮財政の中で、"第2エース"になり得る投手を模索するという難しい作業を余儀なくされた。そこで獲得されたクルーバーは、2014、2017年に2度のサイ・ヤング賞を獲得した実力の持ち主。4人のプロスペクトと引き換えにパイレーツからトレードで獲得したタイロンはブレイク前だが、2010年のドラフト1巡目全体2位で指名された投手であり、ポテンシャルは高く評価されている。
 クルーバー、タイロンはどちらも故障明けであり、2021年もその影響を引きずるリスクは少なからずある。それでも少なくとも現時点で、ヤンキース首脳陣には2人のアップサイド(上昇余地)が田中の安定感よりも魅力的に映ったということ。新加入投手のうちのどちらかが、近い将来に"第2エース"として確立する可能性のほうにかけたのだろう。
 少々手厳しい判断をされたが、それでも田中がニューヨークで過去7年にやり遂げたことの功績が消えるわけではない。ヤンキースのチームメイト、ファンからの人気、信頼は依然として抜群。首脳陣からもおそらく"上質な先発3番手"くらいの評価はされていたはずだ。
 FAになったのがパンデミック下という難しいタイミングでなければ、相応の投資はされていたのではないか。また、会見での次のような言葉を聞く限り、メジャーの他のチームからは主戦格としての条件提示を受けていたようだ。
「アメリカからも、どういうオファーがあったのかという話は出てくると思う。世界中がコロナ禍で厳しい中でも、7年間向こうでプレーしたことをものすごく評価していただき、大きなオファーというものもありました」
 そんな中でも、田中は最終的には古巣・楽天へのカムバックを選択した。これは想像でしかないが、愛着のあるヤンキースか楽天でプレーすることにこだわったのであれば、実にロイヤリテリィに溢れた田中らしい。

 最後に来年以降の可能性について触れておくと、キャッシュマンGMが「(田中復帰の)ドアが閉まることはない」と語っていたとはいえ、1、2年後にどうなっているかを想像するのは難しい。現在32歳の田中もさらに加齢する。単なる"メジャー復帰"ではなく、常に世界一を目指すヤンキースというチームとの"再婚"だけに話を限定すると、そのシナリオを想像するのは簡単ではない(今回はヤンキースに焦点を絞った仮定の話であり、「田中がメジャーではヤンキースだけを望んでいる」と断定したいわけではないことは断っておきたい)。
 ただ......今後の楽天での活躍と、その時の状況、互いが望む条件次第で、可能性がまったくないとはやはり思えない。安定感と勝負強さゆえに田中と比較されることも多かった左腕アンディ・ペティートの晩年のように、短年&出来高を基本とする契約での出戻りはあり得るのではないか。
 そのためには今後、日本のマウンドで田中が元気な姿を誇示するのが必須条件になる。だとすれば、依然として背番号19 に愛情を感じ、いまだに復帰を望んでいるニューヨークのファンからも、楽天での田中の登板は注目を集め続けるのかもしれない。


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