オーナーはAV配信会社。シント=トロイデンは本当に受け入れられているのか

2025年2月2日(日)18時0分 FOOTBALL TRIBE

シント=トロイデンのユニフォーム 写真:Getty Images

ベルギー1部のジュピラー・プロ・リーグに所属するシント=トロイデンVV(以下「STVV」)。2017年6月から合同会社DMM.comが株式を取得し始め、パートナーシップを締結。同11月には、日本企業として初めて欧州クラブの経営権を取得したことで、サッカーファンから広く知られている。


DMMがベルギーのクラブを選んだのは、ベルギーリーグには国内で育成された選手を6人以上登録すれば外国人枠には制限がなく、かつ欧州のほぼ中心に位置することで、日本人選手がステップアップするためのハブとなるのに適しているためだという。


STVVは、DMMが買収するまでは1部と2部を行ったり来たりのエレベータークラブだったが、2017年以降、2桁順位が多いものの2部降格には至っていない。人口約3万9,000人の小さな街のクラブが1部で居続けていることで、現地のサポーターからも好意的に受け止められている。


ここではSTVVが日本サッカー界に残した功績と共に、将来的にDMMがサッカー界に貢献し続けるために必要な点を指摘していきたい。




遠藤航(シント=トロイデン所属時)写真:Getty Images

総勢23人の日本人選手が所属してきたSTVV


STVVに所属してきた日本人選手は、DMM買収前に在籍していたFW小野裕二(アルビレックス新潟)を皮切りに、今2024/25シーズン途中ジェフユナイテッド市原・千葉からレンタル加入した昨季のJ2得点王FW小森飛絢に至るまで、総勢なんと23人。小森は現在所属する7人目の日本人となる。


その中には、MF遠藤航(リバプール)、DF冨安健洋(アーセナル)、MF鎌田大地(クリスタル・パレス)、GK鈴木彩艶(パルマ)などステップアップに成功した現役の日本代表選手から、MF香川真司(セレッソ大阪)、FW岡崎慎司(現ドイツ6部バサラマインツ監督)といった元日本代表選手もいた。


オーナー企業のDMMは、1999年に石川県加賀市で創業され、わずか5店舗のレンタルビデオ店から始まった会社だ。ネット黎明期にあった1998年に、ビデオ通販・動画配信サイト「DMM動画」を立ち上げ、1999年には社名を「株式会社デジタルメディアマート」に変更。2010年に現在の「DMM.com」となった。


その後はコンテンツ配信やオンラインゲーム事業のみならず、証券会社、太陽光事業、農業事業、水族館運営、保険事業など手広く出掛け、もはやIT企業の枠を超えた一大コングロマリットとなっている。




立石敬之氏 写真:Getty Images

STVVのCEO立石敬之氏


DMMのSTVV経営参画の旗振り役となっているのが、STVVのCEO立石敬之氏だ。長崎県立国見高校の元MF選手で1987年度の全国高校サッカーで優勝を経験し、創価大学卒業後ブラジルでプロとなりECノロエスチ(1992)でデビュー。その後、ベルマーレ平塚(1993)、東京ガス(1994-1996)、大分トリニータ(1997-1999)と、いずれも当時旧JFLだったクラブを渡り歩いた。


現役引退後は大分のコーチを経て、2007年からFC東京の強化を担当し、2011年には強化部長に就任。2015年からはGMとして辣腕を振るい、その手腕が買われ2018年にSTVVのCEOに就任した。その実績は今さら説明不要だろう。


STVVはベルギーのクラブにも関わらず、日本企業とのスポンサー契約数は3桁にも上り、ネーミングライツによって付いたホームスタジアムの名前は「大王わさびスタイエンスタジアム」。クラブ運営だけではなく、スポンサー企業を集めた交流会を催してビジネスチャンスの場を設けるなど、企業に還元もしている。




シント=トロイデンのユニフォーム 写真:Getty Images

STVVの広告戦略とDMMアダルト事業の裏側


STVVのユニフォームスポンサーには、Jリーグではスポンサーになることが禁止されているパチンコホール「MARUHAN」の文字が目立つ。もう1つのユニフォームスポンサーは、コロナ禍で名を売った「にしたんクリニック」。しかも日本語広告だ。にしたんクリニック自体、ベルギーに診療所を持っているわけではないのだが、JR渋谷駅前にSTVVの巨大広告を掲出した。


加えて、STVV公式イメージガールとして「シントトロイデンガールズ」なる5人組女性ユニットを結成。2022年から2023年にはテレビ東京系で『EXITのベルギー行ったらモテるやつ』という、およそサッカー番組とは思えないバラエティーでチームをPRし、平成のバブル時代のようなド派手な広告戦略を展開している。


現在50以上もの事業を手掛けるDMMだが、事業拡大に大きく貢献したのはアダルトビデオの販売および「DMM.R18」で展開されたイメージビデオの配信だ。しかし2016年には、国際人権団体「ヒューマンライツ・ナウ」から児童ポルノに関する指摘を受け、18歳未満の女性が出演するイメージビデオの取り扱いを全面停止するに至り、その翌月、事業そのものを売却している。


ところがだ。2017年、アダルト向け事業を連結子会社「株式会社デジタルコマース」に分社化し、レーベルを「DMM.R18」から「FANZA」と改め、アダルト向け動画サービスやライブチャット、AV情報誌や同人誌の販売といった事業を展開。2021年には売上高が1,000億円を超え、アダルト向けプラットフォーム業界において7割もの圧倒的なシェアを誇っている。セクシー女優ナンバーワンを表彰する「DMM.R18アダルトアワード」も「FANZAアダルトアワード」と看板を掛け替え続行された。


この動きは全て、DMMがサッカー界に参入する直前に行われている。別の見方をすれば、サッカー界に参入するため、アダルト色を出来るだけ隠そうとしたとも言えるのではないか。しかし、“ドル箱”でもあるアダルト事業を完全に切ることはできず、子会社化した上で繋ぎ止める道を選んだという印象だ。


Jリーグ 写真:Getty Images

Jリーグにおけるスポンサー審査のハードル


DMMはJリーグに関しては、2018年に大分トリニータと業務提携、2019年からはアビスパ福岡と業務提携し、株式を一部取得し経営に参画開始した。COO(最高執行責任者)村中悠介氏が福岡の取締役に就任し、2021年から2023年までユニフォームスポンサーとなっただけでなく、DMMオンラインサロンでは「アビスパTV」を展開。加えて、ファジアーノ岡山、北海道コンサドーレ札幌とも提携している。


しかし、これだけのクラブ運営ノウハウを持っていながら、同社はJクラブの買収に動いたことはない。いや、“買収できない”と言った方が適切かもしれない。


Jリーグにおけるオーナー企業やスポンサー審査のハードルは非常に厳しい。その中には「ビールはOKだが、焼酎などのハードリカーはNG」といった謎ルールも存在した。数年前にようやく改正され、ロアッソ熊本のユニフォームスポンサーには「白岳」が、鹿児島ユナイテッドの胸スポンサーには「さつま島美人」の掲出が許された。


DMMもアビスパ福岡のユニフォームスポンサーとして「DMMほけん」や「DMM TV」が、また川崎フロンターレのユニフォームスポンサーとしても「DMMほけん」が掲出された過去がある。


しかし仮にDMMが、アビスパ福岡の株式の過半数を取得しオーナーになろうとしても、事業内容が精査されれば、Jリーグ側も、現在オーナーとなっている福岡市および福岡の経済界を取り仕切る「七社会(九州電力、福岡銀行、西部ガス、西日本鉄道、西日本シティ銀行、九電工、JR九州)」も、それを許さないだろう。


それを承知でDMMは国内ではなく、欧州の小クラブに狙いを定めたという見方もできる。STVVは1924年創設で100年以上の歴史を持つクラブだが、日本の企業が欧州のクラブを買収した初のケースとなった。そして若手の育成に注力し、身の丈に合った経営を続けて結果を出し続けたことで、地元民からも受け入れられた。




DMM.com 写真:Getty Images

ベルギーで事業は認識されている?


ここで1つ疑問が沸く。STVVのサポーターやジュピラー・プロ・リーグ側は、DMMの事業について細かく調べたのだろうか。近い将来オランダ1部エールディヴィジと統合し、ベネリーガ(Be Ne Liga)が創立されることが内定しているベルギーリーグだが、クラブのオーナー企業がAV配信会社と知り、そのコンテンツの内容を目にしたならば、反応が変わる可能性はないだろうか。


何も大上段から、アダルトビデオなどまかりならん!などと言うつもりはない。筆者とて、かつてお世話になった世の男性の1人だ。ただ、子どもも対象に含むエンターテインメントでもあるサッカーとの親和性の面で強烈な違和感が残る。


STVVが日本サッカー界に残した貢献は非常に大きいものだ。そしてその志も尊敬に値する。今後も長きにわたってサッカーに関わってもらいたいからこそ、DMMには「アダルトコンテンツとの完全なる決別」が望まれるのではないかと思われる。

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