日本代表に足りない「対応力」。アジアカップ決勝で完敗…ベンチから見えていたその先の景色

2月2日(土)14時58分 フットボールチャンネル

カタールの5バックは奇策にあらず

 日本代表は1日、AFCアジアカップ2019の決勝でカタール代表に1-3で敗れた。森保一監督は劣勢に立たされた前半で明確な改善策を打ち出せず。ピッチ上の選手たちも焦燥にかられながら2失点を許し、流れは相手に大きく傾いた。では、どうすればあのような惨状を避けられたのか。指揮官の言う「対応力」とは一体何だったのだろうか。(取材・文:舩木渉【UAE】)

———

「対応力」とは何だったのだろうか。2点目を奪われた時に、ふと頭によぎった。

 森保一監督が率いる日本代表は、負けた。公式戦での最初の敗戦はAFCアジアカップ2019の決勝。“森保ジャパン”として決勝で敗れるのは、U-21日本代表として戦った昨年のアジア大会の韓国戦に続き半年で2度目だ。

 結果的にこの試合の議論が「何もできなかった前半」に集中するのは仕方ない。確かに何もできず、相手の狙い通りの形であっさりと2点を奪われ、かなり苦しい試合運びを強いられた。スコアでも前半だけで0-2、最終的に1-3と見た目通りの差をつけられた。

 後半になって相手が選手の立ち位置を微調整したことで主導権を握られる時間帯もあったが、反撃は1点どまり。最後はカウンターを食らって窮地に陥り、それで与えたセットプレーから吉田麻也がペナルティエリア内でハンド。VARと主審によるビデオレビューが宣告された瞬間、つい「終わった」と口走ってしまった。

 何人かの選手たちは「相手が4バックでくるか、5バックでくるかわからない状況だった」と話していたが、もちろん5バックも想定していただろう。相手のカタール代表は今大会、様々な形や人選を使い分ける中で、グループリーグ最終戦のサウジアラビア戦や準々決勝の韓国戦といった、「格上」を相手に5バックを採用してきた。

 主導権を握ろうとするスタイルの相手に5バックをぶつけてきたことから、日本戦でも同じ戦法を選択することは自然な流れだ。ただ、フェリックス・サンチェス・バス監督が仕込んだ5バックは自陣に引きこもってゴール前に砦を築く類のものではなく、システムの噛み合わせの悪さを利用して効率的にゴールを奪うための矢を装備する狡猾さもあった。

 森保監督も相手が5バックできた場合を想定して、選手たちに対抗策を伝えていただろう。日々の練習は基本的に冒頭15分間のウォーミングアップしか公開されないので、戦術を仕込む部分についてはその中身をうかがい知ることはできないが、何かしらの準備をしていたと信じたい。

 ピッチに入場して、整列して、握手をかわし、記念撮影をして、コイントスも終えて、勝利を誓う円陣を解いた後、それぞれの立ち位置に散らばった瞬間に相手が5バックであることがわかったはずだ。少なくとも観客席からはカタールの選手たちが、これまでの試合で見せてきたものと同じ5バックの並びで立っていることを確認できた。

何もできなかった前半、ピッチで何が起きていたのか

 だが、蓋を開けてみればシステム上の噛み合わせの悪さを見事に突かれ、それに対する解決策を何ら示せないままずるずると2点目まで奪われた。試合後に話を聞いた選手のほとんどが「前からのプレスがハマらなかった」と振り返っていたにもかかわらず、明確な対抗策を打ち出すことができなかった。

 相手の3バックに対して日本は大迫勇也南野拓実の2トップが常に数的不利な状態で、プレッシャーをかけても容易に剥がされてしまう。カタールは固定のマークがつかず浮いているアッシム・マディボを経由して日本の最初のプレスを越える。

 そうなるとズレはさらに大きくなり、今度は中盤で塩谷司柴崎岳のどちらかが前につり出される。そして縦関係になったダブルボランチの背後、ディフェンスラインとの間には危険なスペースが生じ、カタールの11番を背負ったアクラム・アフィフや、10番でキャプテンのハサン・アル・ハイドスが侵入してボールを受けようとする。最後を仕留めるのは、大会歴代最多得点記録を塗り替えたストライカーのアルモエズ・アリだ。

 まさに相手の思い描いていた通りの攻撃パターンは、繰り返し再現された。ここで思い浮かぶ対抗策はいくつかある。例えばシステムの噛み合わせ上、基本的に常時フリーとなる両サイドバックのどちらかを相手の攻撃サイドに合わせて中央に絞らせて、アフィフやアル・ハイドスの神出鬼没な動きに対応させる。

 あるいは選手の組み合わせはそのままにして、システムそのものをいじってしまう方法もあるだろう。最初のプレッシャーで分の悪い2トップに右サイドの堂安律を加えて3トップにし、相手のビルドアップの起点になる3人のセンターバックそれぞれを封じる。その後ろでは原口元気をインサイドハーフに加えて、アンカーに塩谷を配した3人のセントラルMFがカタールの流動的な中盤をけん制。両サイドバックは同じポジション同士で監視しあい、2トップにも同数のセンターバックと状況に応じて中を1人加えた3人で対応できる。

 森保監督は頻繁に「ゲームの中で起こる様々な状況に、チームとして柔軟な『対応力』をもって…」と話しており、まさに「対応力」をチーム作りにおける重要ポイントに位置づけている。ただ、実際にここぞで「対応力」を発揮できなかったのは間違いなく、そこは多くの識者も指摘しているところだ。

 同時に代表チームにおける「対応力」には、今のところ限界があるのではないかとも感じる。チームとして同じ画を描きながら、ピッチ上の11人がもれなく意思統一して何かをがらりと変えられるならそれに越したことはないのだが、実際の流れの中での戦術変更は非常に難しく、チームの方向性がバラバラになるリスクも孕む。

乾貴士がベンチで見たもの

 特に毎日練習できるクラブとは違い、毎回異なるメンバーが短期間で集まって次の試合に向けた準備の時間も限られる代表チームでは、対戦相手のスカウティングが十分できていてもピッチ上に落とし込める情報量に限りがある。

 もちろんアジアカップやワールドカップのような大会は長期合宿を組むことができて、チームの幹になる部分を徐々に高められるのは間違いないが、毎試合の準備に追われて枝葉を繁らせるだけの時間を十分に取れないことに変わりはない。

 カタール戦でもベンチメンバーは修正すべき点がよく見えていた。乾貴士は「2トップが3バックを見ちゃっていたので、それだと絶対にハマらない。そうじゃなくて(原口)元気と(堂安)律がウィングにつくのではなく、もうちょっとセンターバックを見る。けん制するでもいいですし、べったりつく必要はないですけど、そこでFWを助けてあげないと、絶対ああいう感じになっちゃう」と指摘していた。

 もう1つ、「(アンカーの)23番を(南野)拓実が見る。センターバックの真ん中か、どっちかをサコ(大迫)が見る形を取らないと。そうなると相手も厳しくなって蹴ってくるので、後ろも狙いやすくなる。あそこまでフリーで後手後手に回った状態だとやっぱり技術もある相手なので、そういうところで、かなり厳しくなっちゃっていた」とも。

 だが「それは見ていて分かっていたんですけど、外から指示も出せなかった」のである。一部の選手に伝えて何かを変えさせても、それがチーム全体に共通認識として伝わっていなければ、今度はやり方を変えてズレを作ったその選手が危険なスペースを相手に与えることにもなってしまう。

 監督ではなくベンチメンバーから戦術変更を指示すれば、越権行為にもなりかねない。ゆえに乾はためらった。試合を終えて「もっと言うべきだったかなって。2失点目の前にもっと言っておけばよかった。ベンチメンバーも含め、そういうところが甘かったのかなという感じがする」と乾は話した。最終的にためらいは後悔に変わった。

 改めてサッカーの難しさを痛感させられた。戦術はカードの出し合いなので、手札が最初になくなった方が負ける。カタールが大会を通して複数のシステムを使い分けながら、試合の中でも可変式で戦えたのには、ユース年代から同じ哲学のもとでプレーしているが故のベースの確かさがある。次の試合までの準備にかけられる時間が短くても、基本となる部分に対戦相手に合わせた策を紐づけていきやすい。

「対応力」とは何だったのか

 一方で、もし日本が「対応力」を示せていれば、カタールの方が先に手札がなくなっていたかもしれない。彼らは実質1日しかトレーニングの時間を取れていなかったし、日本戦でも2点を取った後は5-4-1にして撤退する道を選んだ。おそらくあれ以上に何か秘策を隠し持っていたわけではないはずだ。

「対応力」とは抽象的で難しい言葉だ。森保監督は多くを語らず、意味のあるフレーズの一人歩きを嫌うため、表面的なところを越えた先まで読み取るのは困難を極める。もちろん選手たちには、我々メディアに語るのとは全く質の違う、細かな部分まで緻密に準備して、計算づくで何かを伝えているだろう。

 試合後、表彰式を待つまでの間に乾は森保監督と2人でずっと話し込んでいた。スペインで「監督との距離は縮めてもいいんだ」と気づいたベテランウィンガーは、「チームの今後のための話し合い」として思いの丈を指揮官に伝えた。

「前半のああいうところでベンチメンバーが、俺も含め、あのプレッシャーのかけ方ではダメって気づいていたのに言わなかったのは、自分たちのせいだって言いましたし、監督も同じことを、『自分のせいだ』って言われていたので。ただ、それは今後同じことがあれば、どっちもできることなので、今経験できたのはお互いに良かったと思いますし、こういう風にして、どんどん成長していくんじゃないかなって思いますけどね」

 乾は追加招集された立場ではあったが、なかなか試合に出られない悔しさと葛藤しつつ、主体的にチームの成長を追い求めるアクションを今大会の合宿中に何度か起こしていた。森保監督は選手からの積極的な働きかけも促していて、時に筆者のような記者にも意見を求めてくる。厳しさだけでなく、寛容さも持ち合わせるからこそ、成長のためのどんな要素も見逃すまいとする。

 今大会で言えば、前半と後半でがらりと戦い方を変えることはできた。グループリーグ初戦のトルクメニスタン戦が象徴的だが、ある意味ではこれも「対応力」だ。しかし、もう一段階が遠かった。サッカーには流れがあり、全く同じでない人間が11人いて、何かを流れと逆方向に変えながら全員同時に同じビジョンを描かせるというのは極めて難しい。今のところ強い相手に勝つために必要な能力ということだけがわかっているところまでで、「対応力」の真理にはたどり着けていない。

 だが、挑戦のしがいはある。日本代表が負けたのは事実で、これまでの取り組みを全て擁護するわけではない。だが、未来を担う若い選手も、経験豊富なベテラン選手も、決勝で敗れた悔しさを味わい、全員が何かしら掴み取ったはず。このアジアカップでの経験を糧にして何をどう変え、あるいは維持しながら、今後どのような成長曲線を描いていくのか。もう2度と同じことを繰り返さないために、大きな課題を突きつけられた。

(取材・文:舩木渉【UAE】)

フットボールチャンネル

「日本代表」をもっと詳しく

「日本代表」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ