“走り”のための施策が好走。GRヤリスのレクサス版コンパクトクロスオーバー/レクサスLBX試乗

2024年2月7日(水)14時58分 AUTOSPORT web

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が『レクサスLBX』に試乗する。トヨタ・ヤリスクロスやGRヤリスと共通の部分を持ちながら、LBXには“走りのため”の施策が数多く注ぎ込まれている。独自の味を出す“小さな高級車”の魅力を深掘りしていこう。


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 プラットフォームのベースを共有している関係から「ヤリスクロスのレクサス版でしょ」と、LBXのキャラクターを決めつけると、大きな過ちを犯すことになる。むしろ、「GRヤリスのレクサス版コンパクトクロスオーバー」と捉えたほうが、実状に近い。


 ヤリスクロスも、GRヤリスも、レクサスLBXもGA-Bプラットフォームを採用している。ヤリスクロスはフルGA-B、GRヤリスはフロント部分がGA-Bで、リヤにカローラなどが適用しているGA-Cプラットフォームを組み合わせている。東京オートサロン2024で世界初公開された進化型GRヤリスは、GA-B+GA-CのGRヤリス専用プラットフォームをさらに強化している。


 レクサスLBXはGA-Bプラットフォームを使うが、溶接打点数を増やし構造用接着材の採用部位を拡大するなど、GRヤリスばりの剛性向上に取り組んでいる。フロアを前後に走るトンネルには、複数箇所にブレース(補強部材)を追加する念の入れようだ。

フロントにはレクサスの新たなフロントフェイスである“ユニファイドスピンドル”を採用。
ボディサイズは全長4190mm、全幅1825mm、全高1545mmというコンパクトなプロポーション。


 ストラット式フロントサスペンションのアッパーサポートをGA-Bオリジナルの1点締結から3点締結に変更したのは、進化型GRヤリスがとった手法と共通している(むしろ、LBXが先に取り入れていた)。


 ダンパー(ショックアブソーバー)とコイルスプリングの入力をボディ側で受け止めるアッパーサポートは、1点締結の場合、コイルスプリングの入力もダンパーの入力も同じブッシュで受け止めるため、耐久性などの観点もあって硬くも柔らかくもできず、設計自由度に欠けるという。


 一方、3点締結にするとコイルスプリングとダンパーの入力を分離できるため、コイルスプリングを受け止める部分は硬く、ダンパーの入力を受け止める部分は柔らかくできる。


 言い換えれば、横方向には硬くして操縦安定性の向上を図ることができ、縦方向は柔らかくして乗り心地面に振ることができる。つまり、設計の自由度が上がる。


 LBXはベースとなるヤリスクロスに対して着座位置を15mm下げたが、これも進化型GRヤリスと同様だ(進化型GRヤリスは25mm下げている)。GRヤリスの場合はヘッドクリアランスを改善する意味合いもあるが、重量物である乗員の着座位置を下げれば低重心化につながり、運動性能の向上につながる。

レクサスLBX “Cool”(2WD)


 LBXはドライビングポジションを下げたのに合わせて、ヤリスクロスのGA-Bに対してステアリングの取り付け位置を変更。この変更に乗じてインパネリインフォースの設計を見直し、ステアリングの取り付け剛性向上を図っている。

“Cool”のインテリアは各所にスエード調表皮が施されて、落ち着いた印象。内装色はブラック&ダークグレーのみ。


 LBX独自の変更はフロントナックルだ。「タイヤを大きくすると単純にカッコ良く見える」からと、LBXはヤリスクロスに対して2サイズ大きなタイヤを履くことにした。ヤリスクロスの215/50R18に対して、LBXは225/55R18サイズを履く。


 外径が大きくなっている(約705mm)ため、オリジナルのGA-Bプラットフォームのままホイールハウスを大きくすると、フロントバルクヘッドやサイドシルと干渉してしまう。そこで、前車軸の位置を前方に22mmずらした。結果、カタログ値のホイールベースはヤリスクロス比で20mm伸び、2580mmになっている。

レクサスLBX “Relax”(AWD)は225/55R18タイヤ&アルミホイール(ダークプレミアムメタリック塗装)を履く。


 生産工程の都合からアッパーサポートの位置をずらすことはできない(不可能ではないが大仕事になる)。その状態で前車軸を前方にずらしたので、必然的にキャスター角は強くなったが、開発者としては外乱に強くしたい思いを抱いていたので好都合だったという。高級車らしく、ドシッと安定した直進安定性を得られるからだ。


 スチール鋳造品だったナックルは、タイヤの大型化にともなう重量増を相殺するためアルミ鍛造品に置き換えられた。ナックルを設計しなおすにあたっては転舵を行うタイロッドの位置と高さを変え、ロールステアをほぼゼロにしたという。


 バウンドした際にトーアウト側に変位するジオメトリーにするのがセオリーだ。旋回時に外側輪に荷重が移動し、スプリングとダンパーが縮んだ(バウンドする)際、タイヤをトーアウト側に向けると、車両挙動としてはアンダーステア方向になる。こうすることで安定性を確保するわけだ。旋回内側に巻き込むような動きが出るより、切り増す動きのほうがコントロールしやすいからだ。


 でも、LBXは「慣性諸元がいい」(シャシー設計者)ので、わざわざトーアウトにする必要はなく、ゼロ近傍で「問題ない」という。ホイールベースを伸ばしたし、トレッドはロワーアームの外出しとホイールインセットの設定で50mm広げた(1570mm。リヤも同じ)。重心高も下がっている。これが、慣性諸元が良くなった理由。小細工を施さなくても、素直に動くということだ。


 もう薄々おわかりだと思うが、LBX開発のために施した策はどれも“走り”のためである。ラグジュアリーブランドが送り出すモデルらしく上質さを忘れてはいないが、止まっている状態よりも動いている状態を重視して開発されている。高出力ターボエンジンと運動性能に振ったメカ4WDシステムこそ積んでいないが(積んだLBX=東京オートサロン2024に展示されたMORIZO RR CONCEPTは市販に向けて開発が進んでいる)、クルマの仕立て方は進化型GRヤリスと多くがオーバーラップする。


 だからというわけではないが、LBXの走りはシャープで硬質だ(が、そこはレクサスなので、あたりはマイルドだし、騒々しくはない)。ドライバーとクルマの一体感が味わえ、まるで自分の身体の能力が拡張したかのようにキビキビと、気分良く動き回る。実は、走りがあまりにもスポーティなので開発陣に質問したところ、上記のような開発の内容が明らかになった次第。


 パワートレインはシステム最高出力が100kWのハイブリッドシステムを積む。1.5リッター直列3気筒自然吸気エンジンを核にしたシステムなのはヤリスクロスと同じ。だが、バッテリーはエネルギーの出し入れ性に優れたバイポーラ型ニッケル水素電池(アクア上級版と同じ)だし、燃費よりも走りに振りきった制御を適用している(にもかかわらず燃費は良く、2WD車のWLTCモード燃費は27.7km/L)。

1.5リッター直列3気筒エンジンにバイポーラ型ニッケル水素電池を搭載した新開発のハイブリッドシステムを組み合わせている。


 剛性感が高く、シャープに動くボディ&シャシーに力負けしているなどということはまったくなく、ドライバーのリクエストに応えてくれる気持ちのいいパワートレインだ。これで満足できなければ、LBX MORIZO RR CONCEPTの市販化を待つ以外にない。

レクサスLBX “Cool”(2WD)
レクサスLBX “Cool”(2WD)
アクセルペダルはオルガン式を採用。
レクサスLBX “Cool”(2WD)
レクサスLBX “Relax”(AWD)
“Relax”のシート表皮はセミアニリン本革を採用。内装色はブラックとサドルタンの2色を用意する。
レクサスLBX “Relax”(AWD)


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