日産とホンダの統合破談で「横浜F・マリノス身売り」の可能性はあるのか
2025年2月7日(金)18時0分 FOOTBALL TRIBE

2026年までに予定されていたホンダと日産自動車(日産)の経営統合が破談となったことが、2月5日に一斉に報じられた。横浜F・マリノスは、1972年に創部した日産サッカー部を源流とするクラブであり、運営する横浜マリノス株式会社の親会社が日産となる。
経営統合が実現すれば自動車業界のパワーバランスが一変すると期待されていたが、ホンダ側から示されたのは対等合併ではなく、日産をホンダの子会社にする案。プライドを傷付けられた日産側が「子会社化は到底受け入れられない」と猛反発し、協議を打ち切ったという。“武士は食わねど高楊枝”といったところか。このニュースが流れると両社の株価が上昇するという皮肉な出来事もあったように、この合併話は当初から懐疑的な見方がなされていた。
ここでは、日産の経営状況による横浜FMへの影響と、考えられる解決案について検証する。

2025シーズン横浜FMはスリム化?
1999年に提携先のルノーから送り込まれる形で日産社長に転身し、2001年には最高経営責任者(CEO)に就任、“コストキラー”と呼ばれ身を切る改革で経営を立て直したカルロス・ゴーン氏(2019年解任)は、横浜FMの人件費や広告費を半減させたものの、身売りには至らなかった。
ゴーン氏はフランスとブラジルとレバノンの三重国籍であるのだが、一説には幼少期をブラジルで過ごしたことで、サッカークラブを所有する意味を理解し、実業団(JSL)時代からの歴史に対しリスペストしていたからだとも言われている。しかしゴーン氏が日産を追われ日本からも逃亡した今、日産経営陣の中でクラブ所有にメリットを見い出す人物がいるのか、疑問が残る。
昨2024シーズンの横浜FMはJ1リーグで9位、天皇杯とルヴァンカップでは4強に進出したものの無冠に終わり、元イングランド代表コーチのスティーブ・ホーランド氏を新監督に迎え、新2025シーズンを迎えようとしている。
しかし昨オフ、同クラブは“草刈り場”と化し、主力級の選手の移籍が相次いだ。失点の多さが課題だったにも関わらず、エドゥアルド(V・ファーレン長崎)、畠中慎之輔(セレッソ大阪)、上島拓巳(アビスパ福岡)、小池龍太(鹿島アントラーズ)とDF陣のレギュラークラスが揃っていなくなっている。
新戦力の顔触れも“小粒感”は否めず、AFCチャンピオンズリーグエリート(ALCE)も並行して戦うには心許ないメンバー構成となってしまった。この動きを「ホンダとの経営統合を見据えたチームのスリム化である」と指摘する声もあった。

日産の経営状況がさらに悪化したら…
経営統合のニュースが出る前から、日産は2024年4月から9月までの中間決算で90%を超える大幅減益となり、世界で9,000人もの人員削減の方針を示していた。親会社の経営難がチーム構成にモロに影響を与えてしまった格好だ。しかも、合併交渉が破談になったことで「日産は苦しい」というイメージが固定化し、戦力補強も困難となり、むしろリストラが加速する可能性すら出てきた。
ゴーン氏の右腕として日産の経営改革に尽力し、2010年に横浜FMの社長に就任した嘉悦朗氏(2015年退任)は、親会社への依存を減らす一方で、入場料収入や、グッズ販売、スクール経営などによる収益増加に力を入れ、赤字体質からの脱却に成功。2014年にはシティ・フットボール・グループ(CFG)とパートナーシップ協定を結び出資を受けるなど、歴代最長の6年5か月の在任期間に様々な改革を断行した。
しかし今回の問題はクラブ内部でどうこう出来る問題ではない。日産という日本を代表する大企業の存続に関わる事案だ。
仮に日産の経営状況がさらに悪化し倒産に至ったとしたら、当然クラブも姿を消すことになる。日産が横浜マリノス株式会社に74.6%を出資し、実質的に運営していることに加え、フロントも日産関係者で占められているからだ。

19.95%の株式を持つシティ・フットボール・グループ
“何を今さら”と言われそうだが、横浜FMは1999年天皇杯決勝を最後に消滅した横浜フリューゲルスと合併した歴史があり、「F・マリノス」の「F」の部分にその名残を残している。
しかし、横浜フリューゲルスのオーナー企業だった全日空は、2021年に横浜FM公式スポンサーを降り、佐藤工業も2002年に会社更生法の適用を申請し経営破綻(2009年に川田工業・若築建設を支援企業とした会社更生手続を終結)。日産はもはや全日空と佐藤工業に義理立てする必要はなく「F」をチーム名に含める必要もないのだ。その合併劇から四半世紀、日産の立ち位置は当時の佐藤工業に近いものとなっている。
横浜FM所属選手や関係者はもちろん、サポーターとJリーグ側も“クラブ消滅”という最悪のシナリオだけは避けなければならない。日産では抱えきれないという状況となれば、日産に次ぐ19.95%の株式を持っているシティ・フットボール・グループに新スポンサーを探してもらうという手が考えられるだろう。
幸い2020年にJリーグ規約が改正され、外資系企業の参入が可能となった。今2025シーズンJ2に復帰した大宮アルディージャは、オーストリア発祥のエナジードリンクメーカーで、マーケティングとしてサッカークラブ運営やモータースポーツにも進出している「レッドブル」グループの傘下に入り「RB大宮アルディージャ」として再出発した。
シティ・フットボール・グループは本社をイギリスのマンチェスターに置いているが、筆頭株主(77.2%)はアラブ首長国連邦の王族系企業「ニュートンID」だ。嘉悦元社長が残してくれたこのコネクションを利用しない手はないだろう。

クラブ存続のために“脱・日産”へ?
運良く買収先が見つかったとしても、まだ問題は残る。歴史あるクラブ故に横浜FMには「日産色」が染み付き過ぎている点だ。
資金ショート寸前に陥っていたヴィッセル神戸を、三木谷浩史氏率いる楽天が2014年12月に買収した際、チームカラーやエンブレムを一新したことで、一部の古参サポーターから反感を買った。1972年創部で50年以上の歴史を持ち、一貫してトリコロールをチームカラーとしている横浜FMが、突然カラーを一新し、ホームスタジアムの「日産スタジアム」の名前も変えるとなれば、ハレーションを起こすことは必至だろう。
しかし現在、常勝軍団となった神戸を見れば、当時はやや強引に思えた三木谷氏の手法は間違いではなかったことが分かる。「クラブ存続」を第一義とするならば、様々な変革をサポーターも受け入れなければならないだろう。
日産株を巡っては、アクティビスト(物言う株主)として知られるシンガポール本拠の「エフィッシモ・キャピタル・マネージメント」関連のファンドや、香港拠点の投資ファンド「オアシス・マネジメント」の保有も報じられ、台湾の鴻海精密工業も取得に前向きと言われている。かつてルノー傘下に入ったように、再び日産が外資系の傘下に入るのは時間の問題という見方もあり、うかうかしているとそうした株主の提案によって、横浜FMが潰されてしまう可能性もあるのだ。
横浜FMにとっては究極の選択となるだろうが、クラブ存続のために“脱・日産”を目指すべく、日産が持つ「横浜マリノス株式会社」の株式をシティ・フットボール・グループに買ってもらい、新オーナーにクラブ運営を託す道を選ぶ方が、傷が浅くて済むと思える。
将来的に、横浜FMのユニホームの胸から「NISSAN」の文字が消えるのは寂しさもあるが、これも時代の流れと割り切るしかない。