MotoGP:マシン開発のカギを握る“空力デバイス付きフロントフェアリング”とは

2018年2月9日(金)13時3分 AUTOSPORT web

 現在のMotoGPマシンの重要なアイテムとなっている空力デバイス付きフロントフェアリング。MotoGPマシンでは2015年にドゥカティが真っ先に取り入れ、2016年には各メーカーのマシンに装着されるようになった。


 ドゥカティに関しては、デスモセディチGPのフロント荷重不足に対する対策が当初のねらいだったようだが、2016年に各マシンが一斉にウイングレットと呼ばれる空力デバイスを取り入れるようになったのは、MotoGPマシンのECU(エンジンコントロールユニット)ソフトが2016年より共通化され、それまで各メーカー、自社開発のソフトで制御できていた細かな調整ができなくなったことが理由として挙げられる。


 特にウイリー(加速時にフロントタイヤが浮く)コントロールの制御に関して、各車課題を抱えることになった。その対策として車体の変更なども行なわれたものの、その変更が他の部分に影響を与えてしまうこともあり、ウイングレット装着のほうが、トータルではネガが少なかったものと見られる。


 ただし、ウイングレットの装着により、空気抵抗が増えることで最高速が落ちたり、ハンドリングが重くなるなどのデメリットもあるが、それを補うメリットがあったことが、各車がウイングレットの採用に至った理由だ。

2018年型ズズキGSX-RRにも空力デバイス付きのフロントフェアリングが採用されている


 2016年はさまざまなウイングレットが登場したが、ウイングタイプの突起形状のものが主流だったこともあり、接戦時の接触など安全性の問題が懸念された。このため、2016年のシーズン序盤にウイングレットのルール作りがメーカー間で検討されたが、まとまらず、グランプリコミッションは2016年6月にMotoGPマシンへのウイングレットの装着を2017年より禁止することを発表した。

ドゥカティが採用したウイングレット。2017年からは装着が禁止となっている


 このため各車は2017年はレギュレーションの範囲内で、ウイングレットに近い効果を発揮する空力デバイス付きフロントフェアリングを開発することになった。ただし、ライダーによっては、空力デバイスなしのフェアリングを好む傾向があったり、コースレイアウトによって、空力デバイスある、なしのフェアリングを使い分ける場合もある。


 レギュレーションで決まっているのはフロントフェアリングの左右幅が600mm以内、エッジ部が丸みを帯びていること、ウイング(翼)形状は不可という規定のみ。これにより2017年はエアダクトタイプが主流となった。


 実戦で使用されるフェアリングは登録制となっており、2種類が登録できる。2017年の標準的な例で見ると、空力デバイスなしのカウルが1種類、空力デバイス付きが1種類で開幕時に登録、シーズン中のアップデートは1回認められているが、その場合、先に登録してある1種類を登録から除外することになる。


 2018年に向けてもダクト形状や大きさなど開幕までにさまざまな仕様のテストが行なわれている。開幕時点の登録時にはテクニカルディレクターの承認が必要となるが、空力デバイスそのものについての明確な規定がないため、最終的に実戦で使えるかどうかはテクニカルディレクターの判断に委ねられているのが現状だ。


 MotoGPのテクニカルディレクターを担当するダニー・オルドリッズ氏は、2018年最初のオフィシャルテストが行なわれたセパンを終えて、空力デバイス付きフロントフェアリングについて、技術規則の視点から次のように解説している。


「我々にとって最も重要なことは安全面です。現時点では、多くの議論がありますが、最も重要なことは、サイドポット(左右両側に張り出した形状)として分類することです。それは、トップ、サイド、アンダーが囲まれた形状であり、数年前にドゥカティが使用したフェアリングよりも安全なものです」


 また、2017年のバレンシアテスト、2018年のセパンテストで登場したYZR-M1と、セパンで登場したRC213Vの空力デバイス付きフロントフェアリングを具体例に挙げて、次のように語っている。


「YZR-M1には2つのバージョンがあり、その1つをバレンシアテストで使用されたものですが、それは準拠していません。セパンで投入された新たにデザインされたフェアリングは準拠しています。RC213Vのフェアリングは準拠しており、現行の規則の範囲内です」

ホンダRC213V


「ただし、どちらもテストで投入されたプロトタイプで、開幕戦のカタールで使用する最終バージョンではありません。これからテストの上、幾つかの変更を行なっていくことでしょう。そして、それらが規制に準拠しているかを再び確認することになります」


「フェアリングは、当然MotoGPマシンにとって非常に重要なパーツであり、我々にとって、限界と許容範囲を理解することが重要です。我々の視点から最も重要なことはライダーの安全ですが、メーカーが可能な限り速く安全なバイクを設計し、開発できるようにすることも必要です」


 エンジン開発凍結、ハード、ソフト共に共通ECUの導入、タイヤのワンメイク化など、MotoGPマシンの開発環境は厳しさを増している。2018年も空力デバイス付きフロントフェアリングはMotoGPマシンのカギを握るパーツの一つとなることは間違いないだろう。


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