井上尚弥は「究極の破壊者」 キャリア50年の米名伯楽が説く怪物の“本質”「イノウエはリングから希望を奪っていく」
2025年2月11日(火)7時0分 ココカラネクスト
![](https://news.biglobe.ne.jp/sports/0211/3084692338/ckn_3084692338_1_thum800.jpg)
あらゆる階級のファイターたちと比較しても異彩を放つ井上。(C)Lemino/SECOND CAREER
現スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)。2012年10月のプロデビュー以来、29戦無敗26KOという功績を挙げ、4階級を制してきた31歳のファイターを表現する言葉はさまざまに存在する。それは彼の異名である「モンスター」はもちろん、「偉才」「日本ボクシング界の最高傑作」など挙げれば枚挙に暇がない。
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今や5階級目となるフェザー級転級も囁かれ、天井知らずで進化し続ける井上。そんな日本人ファイターをこよなく愛するボクシング界の重鎮は、独自の表現でもって、その異端さを語る。声の主となったのは、かつて元世界ヘビー級王者のマイク・タイソン(米国)を指導したテディ・アトラス氏だ。
指導者として50年もボクシングに携わり、数多の猛者たちを手塩にかけ、その目で見極めてきた。そんな名伯楽にとっても井上は特別な存在だ。
自身のYouTubeチャンネル『THE FIGHT with Teddy Atlas』で、アトラス氏は「彼は自分が最も破壊的なファイターになれる術を知っている」と強調。試合中に「人が変わる」という独特のメンタリティーこそが、イノウエを異次元たらしめると論じた。
「イノウエは試合が始まった瞬間から人間的な感情を完全に切り捨てる。もちろん、私は彼が素晴らしい人間なのはわかってる。でも、彼はそれをリングの上では消し去るんだよ。最大で36分間は、戦いにおいて弱点になりえる感情をすべてシャットアウトするんだ。相手への気遣いや思いやりなんて、リングでは邪魔だからね。でも、それが完璧にできるファイターは数少ない。このスポーツの75%はメンタルが影響する。それが試合では大きなカギなんだ」
唯一無二の胆力を褒めちぎるアトラス氏は井上を「究極の破壊者」と表現。その上で、興奮気味にこう続けている。
「技術的にもイノウエは凄まじい。小さくとも力強く、細かなステップを踏みながら、常に理想的なポジションを保つ。そしてバランスも崩さない。だからこそ上体が不用意に前に突っ込まないし、相手にカウンターの隙も与えない。
そして技術的に正しい動きを徹底しながら、着実に距離を詰める。そして彼はリングから“希望”ってものを奪っていく。まるで首を絞めるように、プレッシャーをかけ、相手を窒息させるんだ」
「相手陣営からしても『どう転んでも地獄だな』という状態になる」
井上の心技体に感嘆の声を漏らすアトラス氏。彼が指導経験を持つタイソンもボクシング史では、異彩を放ったファイターだ。どうしても素行の悪さが目立った晩年の印象はぬぐい切れないが、ヘビー級とは思えないほどの反射神経とスキルは他のライバルとは一線を画していた。
そんな傑物と比較しても井上は「別物」と断言するアトラス氏。興奮するあまりに、顔を赤らめながら、饒舌にトークを弾ませる名伯楽は、異彩を放ち続ける日本人ファイターを激賞し続ける。
「彼の試合においてリング上にあるのは、ただの威圧感とかオーラではない。より確かで、より現実的なものだ。車で例えるなら、メンタル面までも破壊するイノウエは、電子制御システムを完全に壊してしまう感じだ。
つまり追い込まれる相手は思考が乱れ、身体すらも正しく動かせなくなる。単にエンジンが動かなくなるだけじゃない。完全に逃げ場を失うんだ。それこそが、イノウエの戦い方の本質だと思う。相手陣営からしても『どう転んでも地獄だな』という状態になる。そして何か対策を出そうとした瞬間には、バンッ! もう打ち抜かれている」
相手に一切の自由を与えず、完璧に試合を掌握する。そんな特性を考えても、百戦錬磨のアトラス氏の言う「究極の破壊者」という言葉は、冒頭のどの表現よりも井上に適したものだと言えよう。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]