古橋レンヌ移籍で約7,790万円!日本の育成は「連帯貢献金」を活用すべき

2025年2月13日(木)18時0分 FOOTBALL TRIBE

古橋亨梧(セルティック所属時)写真:Getty Images

冬の移籍期間中の1月27日、スコティッシュ・プレミアシップのセルティックからリーグ・アンのレンヌに移籍した元日本代表FW古橋亨梧。


2月2日、ストラスブールとのホームゲーム(1-0)で先発デビューしチームの連敗を4でストップさせる活躍を見せたが、9日の敵地でのサンテティエンヌ戦(0-2)ではまさかの出番なしに終わった。古橋獲得を熱望していたホルヘ・サンパオリ監督が1月30日に解任され、ハビブ・ベイェ新監督が就任したとあって、監督の信頼を得るには目に見える結果が欲しいところだ。


この古橋のレンヌ移籍に伴い、セルティックに移籍金として推定1,200万ユーロ(約19億4,000万円)が支払われたが、今回この中から、古橋の母校である高校(大阪・興國高等学校)、大学(中央大学)に「連帯貢献金」が発生した。


移籍金の生じる移籍で国外のクラブに移籍した場合、FIFA(国際サッカー連盟)が「連帯貢献金制度」という国際ルールを定めている。この金銭は「育ててくれたことへの感謝」という意味合いのものだ。これはJクラブ間の移籍では発生しない。ここでは連帯貢献金について詳しく見ていく。




FIFA 写真:Getty Images

連帯貢献金とは


連帯貢献金はFIFAが定めた制度で、規約上では「育成費(Training Compensation)」と呼ばれている。当該選手が海外で移籍をした際に12〜23歳に過ごしたクラブに、在籍年数に応じ移籍金の5%が選手を育てたクラブに報酬として支払われる。


その目的は、若手選手を育てたクラブが経済的な支援を受け、次世代選手の育成やインフラ整備などに役立てることにある。


連帯貢献金の分配の内訳は、12〜15歳まで在籍したクラブには移籍金の「0.25%×在籍年数」、16〜23歳まで在籍したクラブには「0.5%×在籍年数」とされる。これを受け取るには、育成したクラブが自ら申告する必要がある。


古橋の場合は、興國高校の3年間に対して1.5%の約2,900万円が、中央大学の4年間に対して2%の約3,990万円が、23歳の時に1年間プレーした当時J2のFC岐阜にも0.5%の約900万円が支払われるようだ。


また、実現しなかったが、ブライトン・アンド・ホーブ・アルビオンの日本代表FW三笘薫に届いたサウジアラビアのアル・ナスルから120億円オファー。仮に三笘が応じ移籍したとすれば、12歳から下部組織に所属していたJ1川崎フロンターレと筑波大学には合計約6億円もの連帯貢献金が発生していたという。




冨安健洋 写真:Getty Images

冨安、伊東、香川らの連帯貢献金


プレミアリーグのアーセナルでプレーする日本代表DF冨安健洋の場合、前所属のセリエAのボローニャが受け取った移籍金は推定1,980万ポンド(約30億円)。冨安は12歳から当時J2のアビスパ福岡の下部組織で計7年間プレーし、19歳で福岡とプロ契約を交わし23歳まで5年間プレーしたため、福岡は約30億円の移籍金から合計約1億5,000万円もの連帯貢献金を得た。大物外国人を1人獲得できるほどの金額だ。


2022年にベルギーのヘンクから、移籍金推定1,000万ユーロ(約16億円)でリーグ・アンのスタッド・ランスに移籍した日本代表FW伊東純也の場合、そこで生じた連帯貢献金を使い、母校の神奈川県立逗葉高校にサッカー部員が食事するための「JJ食堂」が造られた。伊東が進学した「神大(神奈川大学)」と「純也」の頭文字から命名された。


2012年7月、ブンデスリーガのボルシア・ドルトムントからプレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドへ移籍した元日本代表FW香川真司(セレッソ大阪)の場合、移籍金は推定1,600万ユーロ(約19億円)。これに伴う連帯貢献金のうち、香川が12〜16歳まで所属した仙台市の街クラブ、FCみやぎバルセロナにも約2,000万円が支払われ、同クラブはこのお金で専用のグラウンドを造った。


他にも欧州クラブを渡り歩いた元日本代表FW本田圭佑や、日本代表DF長友佑都(FC東京)も、移籍する度に連帯貢献金が発生し、本田に関してはG大阪ジュニアユース、石川県星稜高校、名古屋グランパスに、長友に関しては東福岡高校と明治大学に臨時収入が発生した。


しかし長友の場合、セリエAチェゼーナからインテルに移籍する際、本来であれば卒業した西条市立神拝小学校と西条市立西条北中学校がそれぞれ約42万円と約127万円が得られたのだが、書類をすべて英語で作成しなければならないなどの煩雑な手続きや、公立校ゆえの会計処理の面倒さなどが絡み、申請しなかったという。


2010年に鹿島アントラーズからブンデスリーガのシャルケに移籍した元日本代表DF内田篤人の場合でも、出身の清水東高校は静岡県立校であることから、多額となる現金を管理できないために申請しなかった。


宮市亮 写真:Getty Images

請求しないケースはあまりにももったいない


連帯貢献金制度は欧州や南米では定着し、選手を育てるモチベーションとなっている。学校の部活動が育成組織も兼ねている日本の事情には合わないところもあるが、育成に使える資金をゆめゆめ逃がしている現状は、あまりにももったいないと感じる。


街クラブではコーチがボランティアであることなどザラで、部活動に関しても教師の“ブラック残業”や保護者の手弁当によって支えられている側面がある。仮に連帯貢献金を受け取る権利が発生すれば、伊東の母校の逗葉高校のように堂々と申請し、クラブや学校に還元すればいいのだ。日本サッカー協会(JFA)も育成を重視するならば、この手続きを手引きする施策が必要だろう。


中京大中京高校から直接渡英し、アーセナルでプロキャリアをスタートさせた元日本代表FW宮市亮(横浜F・マリノス)の場合、12〜15歳まで所属した名古屋市の街クラブであるシェフィールドFCジュニアユースに508万円、中京大中京高校に3,429万円の連帯貢献金が発生した。しかし実際は、中京大中京高校はこれを請求しなかったという。


選手が高校や大学から直接、欧州クラブと契約するケースが増えてきた今、貰えるものは貰い、次世代育成のための資金とするという好サイクルが生じてくることを期待したいところだ。




JFA 写真:Getty Images

日本国内の育成クラブに支払われる制度も


日本国内にも、育成クラブに支払われるJFAが規定したローカルルールが存在する。「トレーニング費用制度」と称した制度で、ある選手がJ1クラブ入りした際、大学に120万円、高校(ユース)に90万円、中学校(ジュニアユース)に30万円、小学校に10万円の支払い義務が生じる。


このように育成クラブは、プロ選手を輩出することで収入を得ることができ、そのお金をさらに投資に回すことができる。最近では有力大学から一気に何人もがJクラブ入りするケースも目立つ。大学もその分の連帯貢献金が入り、さらなる育成のレベルアップに使うという好循環が出来つつある。


高校においても、熊本県立大津高校や市立船橋高校など、強豪の公立校も存在する。「公立高校がプロサッカー選手を育てて金儲け」などと懐疑の声もあるだろうが、気にする必要などない。育成に掛けた有形無形のリソースに対する見返りをしっかりと受け取り、次なるプロ選手を育てるサイクルを一般化させるべきである。この国が育成大国となれば、JFAが目標とする「2050年までにW杯優勝」にも一歩近付くことができるのではないだろうか。

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