アルビレックス新潟がSOS。Jリーグは秋春制導入を強行していいのか
2025年2月15日(土)14時30分 FOOTBALL TRIBE

J1アルビレックス新潟は2月12日、2月後半の練習スケジュールを発表。大雪の影響により北蒲原郡聖籠町の専用練習場「新潟聖籠スポーツセンター アルビレッジ」では十分な練習ができないため、15日の開幕戦(横浜F・マリノス戦/日産スタジアム)後も新潟に戻らず、26日の第3節鹿島アントラーズ戦(カシマサッカースタジアム)の前日まで大阪に拠点を置き練習するという。
新潟の寺川能人強化本部長は地元で練習できないことについて「雪。それ以外にない」と強調し、「Jリーグには、この状況を見てほしい」と付け加えた。
Jリーグは2026年から「秋春制」に移行することが、すでに決定している。しかし新潟のみならず雪国のチームの冬場の練習場所の確保といった問題は棚上げにされたままだ。
新潟は秋春制移行に一貫して「反対」の立場を取り続けてきた。中野幸夫社長は「試合をしたい、したくないという感情論ではなく、できるかできないかという現実論」に立って主張している。特に今冬の大雪は記録的で、新潟県内では23年ぶりに観測史上最大を更新し、災害救助法を適用された自治体もあるほどだ。新潟側からは「12月の3週までリーグ戦を行い、ウインターブレークを挟み2月の第1週から再開」という提案がされていたが、今冬ほどの大雪となれば、2月第1週でも試合開催は不可能だろう。
ドイツ1部ブンデスリーガのウインターブレークは、12月中旬から約1か月の中断期間を挟み1月中旬に再開される。その間、中東やスペインの島しょ部などでキャンプを張ることが多いようだ。日本人も含む外国籍選手は一時帰国が許される場合もある。アマチュアともなると中断期間はさらに長く、12月中旬から2月下旬まで約2か月半の期間、リーグ戦が中断する。
ここでは、ブンデスリーガの2024/25シーズンの日程をJリーグに当てはめたらどうなるかを検証し、いかにJリーグの秋春制に無理があるかを示していきたい。

秋春制の弊害は雪国クラブだけではない
ブンデスリーガの開幕は8月23日。第15節の12月22日を最後にウインターブレークに入り、1月10日に再開。最終節は5月17日という日程だ。チーム数は18なので、リーグ戦は全34試合である。
一方、JリーグはJ1からJ3まで20チームで統一されており、リーグ戦は全38試合となる。そこに代表ウィークなどが入るとどうしても平日ナイターでリーグ戦やカップ戦を消化する必要が生じ、過密日程や観客動員への悪影響は避けられない。秋春制の弊害は雪国クラブだけではなくJ全クラブに生じることになる。
ブンデスリーガと同じ3週間程度のウインターブレークでは問題が解決されることはない。雪国クラブはピッチでの練習ができず、アウェイ連戦などといった不公平な日程となることは必至だ。試合を開催できたとしても、極寒の季節では観客動員数が減少するのは間違いないだろう。今冬のように、あまりの豪雪によって気象庁から不要不急の外出を控えるようにアナウンスされている状況ならばなおさらだ。
極寒期に雪国クラブが自クラブのグラウンドで練習できないのは、リーグ戦の公平性の点でも問題がある。これは試合をアウェイ戦にすれば済む問題ではない。Jリーグ側が雪国のJクラブに全天候型の練習場を提供すれば解決するように思えるが、現実的ではない。それは、北海道コンサドーレ札幌の社長を長く務めたJリーグチェアマン野々村芳和氏なら理解しているようにも思えるのだが…。
Jリーグは秋春制移行の際、8月中旬の開幕を設定している。しかし「沸騰化」という言葉も生まれたように、日本のこの季節はまだまだ猛暑の真っ只中だ。「秋春制なら猛暑下での試合を避けられる」という主張は霞み、子どもたちの夏休み期間の試合が減ることで、興行的にもマイナスだろう。

応援する側にもデメリット
ドイツではサッカーは国民的スポーツであり、ブンデスリーガの各クラブはJリーグと比べてはるかに資金力がある。スタジアムにヒーティングシステムがあるのも当たり前だ。しかし、Jの雪国クラブのホームスタジアムすべてにヒーティングシステムを備えることは資金的に不可能だろう。「ドイツで可能なのだから日本でもできる」というのは暴論であることが分かる。
それでも日本で秋春制を強行するというのなら、雪国クラブはJリーグ側に損失補填や練習場の整備費、除雪費などを求めてもいいだろう。雪国クラブにとって秋春制のメリットは皆無で、デメリットしかないのは、先の新潟の姿勢からも明らかだ。
2月10日、福島市土湯温泉町で2度の雪崩が発生。旅館の宿泊客や従業員ら40人が孤立状態となり、ヘリコプターで救助された。その現場は、福島ユナイテッドのホームスタジアム「とうほう・みんなのスタジアム」から約8キロしか離れていない。
仮に同時期に試合の日程が組まれ、アウェイサポーターが宿泊していたとしたらと想像するだけでもゾッとする。また、クルマで移動するサポーターが立ち往生に巻き込まれる危険性もある。ここまでくると“応援するのも命懸け”だ。
雪中での試合として記憶されるのは、1987年12月13日に国立競技場で行われたトヨタカップのポルト(ポルトガル)対ペニャロール(ウルグアイ)や、1998年1月8日に同じく国立競技場で行われた第76回全国高校サッカー決勝の東福岡(福岡県代表)対帝京(東京都A代表)が有名だ。
雪の中で試合などしたことがないであろう両チームの選手には賛辞を贈るしかないが、試合内容に触れれば、いずれもパスが通らずボールの蹴り合いに終始し、お世辞にも「名勝負」とは呼べないものだった。秋春制移行を推し進めた理由の1つに「試合内容の向上」というものがあったが、額面通りには受け取れないのだ。

究極の二択に迫られたJリーグ
「春夏秋冬」の四季ではなく、夏と冬しかない“二季”に例えられるほど、昨今の日本の気候は変化しつつある。
そんな中Jリーグは、夏場の酷暑下での試合を強いて選手や観客を熱中症の危険に晒すか、冬場に試合を行い雪国クラブやサポーターに金銭的負担や移動の際に生じる危険を強いるのか、究極の二択を迫られ、後者を選択した。
とりあえず、決まってしまったものは仕方ない。各地の雪害のニュースに触れ、秋春制移行を断行した野々村チェアマン以下Jリーグ上層部は、来冬が記録的な暖冬になることを祈っているのではないだろうか。仮に今冬のような豪雪となれば、秋春制が抱える数多くの問題点が可視化され、批判に晒された上で「やはり春秋制に戻そう」という声が上がることは必至だからだ。