湘南・曹監督が見抜いた梅崎司の本音。元日本代表が感じた浦和での葛藤と成長への渇望

2月15日(木)10時19分 フットボールチャンネル

復活の手応えと与えられた役割とのギャップ

 10年間も所属した浦和レッズから、2年ぶりにJ1の舞台へ挑む湘南ベルマーレの一員となったMF梅崎司(30)。ベテランの域に差しかかっていた元日本代表は、なぜ愛着深いレッズとの契約を延長するオファーを断り、新天地へ完全移籍する道を選択したのか。都内で初交渉が行われた昨年12月中旬。席上で響いた「もったいない」というひと言が梅崎と、声の主であるベルマーレの曹貴裁(チョウ・キジェ)監督(49)がそれぞれ抱いていた思いを鮮やかにシンクロさせていた。(取材・文:藤江直人)

——————————

 心の奥底にまで突き刺さるものを感じた。はからずも投げかけられた言葉に梅崎司はハッと驚き、次の瞬間、たとえようのない喜びに体を震わせていた。

「もったいない、と言っていただいたんです」

 昨年12月中旬。オファーをもらっていた湘南ベルマーレと、都内で交渉の席をもった。毎年足を運ぶオフのヨーロッパ視察から帰国したばかりの曹貴裁監督が、直球をど真ん中に投げ込んできた。

「こういうプレーを求めている、こういうプレーができると思っていると。そして、僕のことを再生させたい、復活させたいと。心と心で話し合えたと思っていますし、自分が抱いていた思いとすごくリンクしたこともあって、移籍する決断に至りました」

 浦和レッズで10年目を迎えた昨シーズンは、リーグ戦で10試合、わずか355分間のプレーに終わっていた。2016年8月に左ひざの前十字じん帯を損傷。全治7ヶ月の大けがを追っていたこともあって、公式戦初出場は6月の天皇杯2回戦、対グルージャ盛岡まで待たなければいけなかった。

 J1の舞台に戻ってきたのは7月22日。敵地で行われたセレッソ大阪との第22節の83分から、関根貴大(現FCインゴルシュタット04)との交代で左アウトサイドに入った。

 ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(現北海道コンサドーレ札幌監督)から堀孝史監督に代わっても、後半の途中から投入されるパターンが続いた。先発は3度だけ。10年ぶりにアジアの頂点に立った、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)でも試合を締める役割を担った。

 レッズの勝利のために、アウトサイドの控えという役割に徹し続けた。一方で対照的な思いが、時間の経過とともに頭をもたげてきた。シーズンが開幕する直前に30歳になった。サッカーの場合、現役でプレーできる時間は決して長くない。そして、左ひざにもまったく不安を感じていない。

「いまのプレースタイルのままでいいのか、と。チームに埋もれるじゃないけど、レッズというクラブだからこそ、そのなかにいられることへの価値というのはすごくありました。年を取るたびにだんだん自分を押し殺して、チームのために徹することがすごく増えていました。

 けど、このままじゃダメだという思いもずっとあったんです。ここ数年、自分のなかで葛藤がありましたし、昨シーズンはそれがさらに強くなって、自分のなかで(ポジション争いで)勝負したいと思うようになっていた。実際、手応えもすごくあったので」

「ベルマーレで勝負したい」。梅崎の心を動かした曹監督の言葉

 昨シーズンのレッズでいえば、勝負したいポジションはシャドーであり、堀体制に代わってからはインサイドハーフだった。二律背反する思いを抱えながら、個人的なそれは誰にも明かさなかった。だからこそ、曹監督が発した「もったいない」という言葉に驚かされた。

「すべてにおいて僕の考えていること、思っていることを言っていただいた。プレー面はもちろん、精神的な面でも、こんなにも自分のことを見てくれている人が、理解してくれている人が世の中にいるんだというのはすごく驚きでしたし、素直に嬉しかったですね。

 そして、自分のいまの思いを実現させてくれようとしている気持ちとか、熱意とか、曹さんのすべてがベルマーレというチームで勝負したい、もっともっと成長したい、という思いにさせてくれた。曹さんの言葉は、ものすごく心に刺さるものがありました」

 選手たちが抱いている思いを、話さずとも見抜くことが多かったからか。ベルマーレのなかで、曹監督はいつしか「超能力者」と呼ばれるようになった。選手たちを愛し、どんな些細な変化も見逃さないように心がけているからこそ、ちょっとした立ち居振る舞いを介してその時々の心境がわかる。

 梅崎と面と向かって話したことはなかった。それでも、ベルマーレだけでなく川崎フロンターレでもアカデミーを指導した経験から、教え子だけでなく相手チームに所属していた選手の特徴をいまでも鮮明に覚えている。大分トリニータU-18でプレーしていた梅崎も、そのなかに含まれていた。

「彼らが中学生、高校生のときにどのような選手だったのか。得意とする、あるいはやりたいプレーの本質はそこにあるし、それが変わっていくというか、封印せざるを得ないような時期を迎えるケースが多々あるのは、(梅崎)司を含めて、プロの世界ではよくあることだと思っている。

 もちろんそれが悪いということではないけど、僕のなかで司は途中でベンチへ下がったときに『何でオレが代わるんだよ』と監督に言うくらい、勝負へのこだわりを誰よりも見せられる選手だった。そういう部分を見せてほしいし、30歳でもまだまだ伸ばしていけると思っているので」

「成果がすぐにピッチで表れるような指導」

 曹監督自身も新たな刺激を受けて、ヨーロッパ視察から帰国していた。今回のハイライトはイタリア北部の小さな町ベルガモをホームタウンとする、セリエAのアタランタBCを訪ねること。練習を見学し、ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督にぜひとも聞いてみたかった2点を尋ねた。

 徹底した育成主義を伝統としてきたアタランタは、就任1年目のガスペリーニ監督のもと、2016‐17シーズンのセリエAで4位に躍進していた。今年1月に還暦を迎えたイタリア人指揮官は若手の育成だけでなく、燻っている選手の再生にも長けていると、その手腕が広く知られていた。

 ガスペリーニ監督が一番大事にしている指導者としての哲学と、手塩にかけて育てた選手が他のクラブへすぐに移籍する近年の状況をどう思っているかを曹監督は尋ねた。特に後者に対する答えに感銘を受けたと、今月20日に株式会社カンゼンより発売される自著『育成主義 選手を育てて結果を出すプロサッカー監督の行動哲学』のなかでこう記している。

<忍耐強さの大切さを説いた「石の上にも三年」という言葉が日本だけでなくイタリアにもあるが、ガスペリーニ監督は時代が変わってきていると笑いながら語ってくれた。

「成果がすぐにピッチで表れるような、選手たちの努力がすぐにエネルギーに変わるような指導をすることがすごく大事だ」

(中略)今日はこれくらいでまた明日、という考え方は許されない時代になっていると感じずにはいられなかった。明日につながる「いま」を100%やっていかなければ、未来を語れないとガスペリーニ監督は諭すように語ってくれた。>

 アタランタの場合、すでに主力選手の何人かが、来シーズンからインテル・ミラノやACミランへ移籍することが決まっている。日々の指導が正しかった証であり、キャプテンにして「10番」を背負うFWアレハンドロ・ゴメスが成長を遂げ、昨シーズン、29歳にして初めてアルゼンチン代表入りしたことをむしろガスペリーニ監督は喜んだ。

共鳴した梅崎の思いと曹監督の育成哲学

 ベルマーレを率いた2012シーズンから誰に教わるわけでもなく、曹監督も「在籍したすべての選手が、成長したという実感をもってそのシーズンを終えてほしい」というテーマを自らに課してきた。ガスペリーニ監督の言葉を介して、一人の指導者として抱いてきた哲学のような思いが、より揺るぎないものになったと『育成主義』のなかで綴っている。

<現実には不可能だけれども、59歳のガスペリーニ監督は「2、3日でお前たちを上手くする。変えてみせる」という意気込みで日々の練習に臨んでいる。セリエA屈指の育成型クラブの矜持を感じたし、偶然に導かれて出会った選手たちも感謝の思いを抱き、やがては旅立っていくと感じずにはいられなかった。>

 選手を育てて売るというビジネスが確立されているか否かの違いはあるものの、目の前にいる選手たちを成長させたい、と望む指導者の熱意に国境はない。しかも、同じチームでプレーする時間がどんどん短くなるのが世界的な流れであるならば、指導者も育成するスピードを上げなければいけない。

 気持ちも新たに7年目のシーズンへ臨もうとしたときに、梅崎と交渉の席をもった。レッズでのプレーを見ながら、梅崎が自分を押し殺している、チームに徹しようとしていると感じられたからこそ、まだまだ成長できるという檄を込めて「もったいない」という言葉に凝縮させた。

 レッズから受けていた契約延長のオファーに、梅崎はほどなくして断りを入れている。暮れも押し詰まった12月27日にベルマーレ、レッズ両クラブから発表された完全移籍による梅崎の加入を、曹監督はあらためてこう振り返っている。

「ただ単に僕が司のことを知っているから、このチームに来てもらったわけではない。司がこれからどうなりたいのか、どうしたいのか、そして僕がどうしてほしいのかという点が、日本のJリーグの市場のなかで最も一致したというか、そういう思いを共有することができた。

 交渉の席で司はいろいろなことを話してくれたし、言い方は変だけど、僕のほうがそうなのかと学べたことも多かった。その意味でも人と人との出会いというのを大事にしなければいけないし、その延長で司が思っていることに、僕が応えていくことがチームの勝利につながると思っている」

「このチームにベテランはいない」オールドルーキーの再出発

 新体制が始動した1月11日。練習を前にした約1時間にわたるミーティングで、曹監督は初めて顔をそろえた31人の選手たち(現在は33人)に対してこんな檄を飛ばした。

「新人はルーキーと、経験のある選手はベテランとよく呼ばれるけど、このチームにはベテランはいない。ヤングルーキーとオールドルーキーが同居しているだけだ。全員がルーキーのような新鮮な気持ちをもって、サッカーを楽しんでいってほしい」

 事前にベルマーレ出身のDF遠藤航やレッズ時代の先輩で、ベルマーレをへて今シーズンからレノファ山口でプレーするDF坪井慶介から新天地に関する情報を収集。始動する前日にはベルマーレに期限付き移籍していた3年間で輝きを取り戻し、今シーズンからレッズへ復帰したMF山田直輝とも食事をともにした梅崎は、気持ちが高ぶってくるのを感じずにはいられなかった。

「(山田)直輝が再び輝いたことは、心から嬉しかった。僕と似たような境遇というか、アイツもけがを繰り返したことで、自分自身のパフォーマンスができない時期も長かったので。それでもサッカーに対してすごく情熱的で、真摯に向き合うやつなので。食事したときは、そんな話にも花が咲きました。

 (遠藤)航や坪井さんも含めて、間違いなく成長できる環境だと言ってもらえました。どんな相手にも怯まず、アグレッシブに向かっていくベルマーレの姿勢は、敵として対戦していてすごく嫌でした。そのチームの一員としてプレーできることに、いまからワクワクしています」

 右太ももの裏を痛めていた関係で、スペイン・マラガでのキャンプを含めて別メニューが続いているが、レッズ時代に引き続いてベルマーレでも託された「7番」を、早くファンやサポーターに見せたいという熱い思いは萎えない。

 新天地ベルマーレで再び輝きを放ち、成長していきたいと誓うオールドルーキーは、キャプテンのFW高山薫を支える副キャプテンの一人にも就任。ともに昇格を果たしたV・ファーレン長崎をホームのShonan BMWスタジアム平塚に迎えるJ1開幕戦前日の23日には、31回目の誕生日を迎える。

(取材・文:藤江直人)

フットボールチャンネル

「湘南」をもっと詳しく

「湘南」のニュース

BIGLOBE
トップへ