【J1開幕戦】モデルチェンジに成功した「シン・清水エスパルス」
2025年2月17日(月)18時0分 FOOTBALL TRIBE

2025シーズンの明治安田J1リーグが2月14日に開幕。2月16日には国立競技場で東京ヴェルディと清水エスパルスが対戦し、1-0で清水が勝利。J1で実に2022年8月17日の京都サンガ戦(IAIスタジアム日本平/1-0)以来、904日ぶりのJ1勝利となった。
同舞台で行われた2023シーズンJ1昇格プレーオフ決勝(2023年12月2日/国立競技場)の再戦となったこの一戦。当時は後半アディショナルタイムのPK献上によって同点に終わり、規定により東京Vが大逆転昇格を決めた。そんな因縁の対戦とあって、特に清水の選手やサポーターは入れ込み気味と感じるほどにリベンジに燃えていた。
ここでは清水の開幕戦の様子を詳細に見ていく。

ベールに包まれていた清水の先発メンバー
開幕直前にFWアブドゥル・アジズ・ヤクブの中国スーパーリーグ青島西海岸足球倶楽部への期限付き移籍や、FWカルリーニョス・ジュニオの退団といったネガティブなニュースが報じられた清水。プレシーズンマッチも雷雨で途中中止となったジュビロ磐田戦(2月1日2-0)以外はほとんどが非公開とあって、先発メンバーの予想も困難なほどベールに包まれていた。同時に、J1初采配となる秋葉忠弘監督がどのようなアプローチでチーム作りしたのかも注目されていた。
しかしながら、フタを開けてみれば1トップには主将のFW北川航也、トップ下にMF乾貴士と昨2024シーズンと同じ並び。サイド右にはサガン鳥栖から加入し、前述のJ1昇格プレーオフ決勝では東京Vの一員としてプレーしていたMF中原輝。左にはセレッソ大阪からの新加入MFカピシャーバが並び、ボランチには町田ゼルビアからのレンタルから完全移籍に移行したMF宇野禅斗、その相棒にグアラニから加入したブラジル人MFマテウス・ブエノが抜擢された。
DFラインは昨季から大幅な変更点はなかったが、名古屋グランパスに移籍した右サイドバック原輝綺の大きな穴を埋める存在として、センターバックからコンバートされキャンプでも溌剌とした動きを見せていた大卒3年目のDF高木践が先発。海外移籍を目指し退団した元日本代表GK権田修一の後釜には、2020-2021シーズンにかけ鹿島アントラーズの正GKとして実績がある沖悠哉が座った。

激しい球際勝負でことごとく競り勝つ
ボール支配率ではほぼイーブンだったが、清水の変化が見受けられたのは激しい球際勝負でことごとく競り勝った部分だろう。東京Vのチャンスは前半31分の右CKからのDF綱島悠斗のシュートくらいだったが、沖のファインセーブによって防がれた。
清水は4人もの初先発選手がいながらもコンビネーションは抜群で、カピシャーバ、マテウス・ブエノといった外国人助っ人にも”秋葉イズム”が浸透し、前線からのプレスはもちろん、プレスバックも早く、対人守備での強さを発揮し幾度もボール奪取に成功した。
さらに清水はパス回しで崩すだけのチームではなかった。実際、前半40分に生まれた決勝点は、DF蓮川壮大がスルスルと上がっていた高木にロングパス。この浮き球を高木はワンタッチで折り返し、ゴール前で待ち受けていた北川が頭で決めたものだ。まさに一瞬の隙を突いた電光石火のゴールだった。
清水はその後、後半7分、敵陣でのインターセプトから宇野、北川とつなぎ、カピシャーバがGKと1対1となったが、ここはGKマテウスが体を張って守った。基本的にはポゼッションを重視しながらも、蓮川とDF住吉ジェラニレショーンの縦パスも随所に効いていた。
以前から「上手いけど、それだけ」と揶揄されることもあった清水。テクニックの上に球際の強さが加わり、東京Vの城福浩監督も、後半11分という早い時間にFW染野唯月、MF平川怜、MF新井悠太を同時投入する3枚替えや4バックへのシステム変更など手を加えたが、決定的チャンスは与えなかった。
しかしながら、問題点が何もなかったわけではない。
後半22分、北川を下げ、新加入のブルガリア人FWアフメド・アフメドフ投入を合図に、高木をセンターバックとする3バックに変更。これに対し東京VはMF翁長聖、FW白井亮丞を投入し、徐々にボールを支配し始める。1点差を守り切りたい秋葉監督の思いが強かった故でもあるのだが、この試合に関して言えば、それまでほぼ完璧に見えたバランスを自ら崩しに行くような采配には疑問も残った。
守り切るという選択をしたことで、プレーオフの悪夢がよぎった清水サポーターも多かったはず。アフメドフがなかなか見どころのあるポストプレーを見せ、カピシャーバも疲れ知らずのチェイシングでチームに貢献し、乾も終盤の交代まで走れていただけに、2点目を狙いに行く姿勢が今後の課題となろう。

粋な起用も見せた秋葉監督
後半40分には、2年前のプレーオフ決勝でPKを与えてしまったDF高橋祐治にも出番を与え、“トラウマ”を払拭させる粋な起用も見せた秋葉監督。さらに後半48分には3枚替えを決行し、大津高校のエースとして先月まで全国高校サッカー選手権に出場していたMF嶋本悠大をプロデビューさせた。
嶋本は、まだ卒業式を終えていないため立場的には高校生であり、体にも線の細さを感じさせるが、5分弱の出場時間にも関わらず、試合の流れを呼んでベテランのようなボールキープを披露し、テクニックとサッカーIQの高さを感じさせた。同時に、ピッチに入るなり自陣深くでファールを犯し、相手にFKのチャンスを与えてしまったDF吉田豊とは対照的だ。嶋本の堂々としたプレーぶりには、秋葉監督も「末恐ろしい」と賛辞を惜しまなかった。
この日、ベンチ入りしたものの出番のなかったMF松崎快や、キャンプから絶好調をキープしているFKドウグラス・タンキ、さらにはベンチ入りがならなかったMF矢島慎也、新加入のMF小塚和季、プロ2年目のFW郡司璃来も控えている。出場機会を巡る高いレベルでの競争が繰り広げられているのだ。
思えば現在、京都サンガのGM(ゼネラルマネジャー)を務める大熊清元GM(2019-2023)時代に獲得した選手も数少なくなり、2024年からGMに就任した反町康治氏の下での獲得戦略が実を結びつつある。
昨季加入したドウグラス・タンキに加え、カピシャーバもマテウス・ブエノもアフメド・アフメドフも“当たり”の匂いがする。大熊氏が無能だったとまでは言わないが、J2に所属しながらもJ1クラブに入ってもトップ10に入る約20億円を超える人件費に見合うチーム編成ができなかったことは事実だ。いかにGMという職務が重要なのかが分かる。

試金石となる新潟戦で快勝なれば
次戦はIAIスタジアム日本平でのホーム開幕戦(2月22日)、相手は地元で練習できないというハンデを背負いながらも、開幕戦の横浜F・マリノス相手にアウェイ(日産スタジアム)で勝ち点1をもぎ取ったアルビレックス新潟だ(2月15日1-1)。前評判は決して高くなかった新潟だが、横浜FM戦では相手の3倍となる15本のシュート数を記録。受け身に回れば必ず痛い目に遭う気が抜けない相手だ。
最高の形で開幕した清水だが、J2時代には他クラブから“難攻不落”とも呼ばれたホーム戦を落とすようなことがあれば、せっかくの上げ潮ムードは消え失せてしまう。試金石となる新潟戦で快勝すれば、一気に勢いに乗る可能性を秘めている。
開幕前は決して評価が高くなく、降格候補にも数えられていた清水。開幕戦のような球際の強さを維持すれば、J1序盤戦を大いに賑わせるポテンシャルを秘めている。そう予感させる一戦だった。