なぜ持ち味のドリブルは減少? スーパーゴール連発の背景にある三笘薫の変貌「より簡単なゴールの方が難しい」【現地発】
2025年2月22日(土)7時0分 ココカラネクスト

三笘の突破力はどのクラブにとっても魅力的なものだ(C)Getty Images
「タッチのところは全部完璧でした」と自画自賛したプレー
去る2月14日、本拠地アメックススタジアムで行われたチェルシー戦。ブライトンの三笘薫は、観衆の度肝を抜く圧巻のテクニックで先制点を奪った。
GKバルト・フェルブルッヘンが自陣からけり込んだロングフィードを、絶妙なファーストタッチで足下に収めた三笘は、直後の2タッチ目で並走していたDFトレバー・チャロバーを置き去りに。そのままゴール前に駆け込み、最後は右足で鮮やかなフィニッシュ。
【動画】永久保存のスーパーゴール 三笘薫のチェルシー粉砕弾をチェック
試合後の囲み取材で「タッチのところは全部完璧でした」と自画自賛したプレーは、YouTubeやSNS上で何度も取り上げられ、イングランド国内や日本のみならず、世界のサッカーファンをも興奮させた。
日本が生んだ天才ウインガーの片りんを再び見せつけた三笘。一方で、今シーズンのパフォーマンスを一言で表現するなら「ハードワーク」。さらに加えるとすれば「献身」の方が当てはまる。
どちらもチームへの地道な貢献を連想させるワードだが、「チームの勝利が第一」という言葉を頻繁に使っている本人の言動を考えると至極自然なのかもしれない。常にフォア・ザ・チームを強調する、それが2024-25シーズンの三笘だ。
開幕戦のエバートン戦後、三笘は昨夏に就任したファビアン・ヒュルツェラー監督から「特に守備のところは全員求められている」と告白。「そこをやった上で前線で違いを出すっていうところ。よりポジショニングだったり、守備の立ち位置はよく言われますね」と話していた。
一連のコメントからは指揮官が選手たちに「規律」や「勤労」を日常的に要求する姿が容易に想像できる。そしてこれこそが、27歳の日本代表MFがここまでリーグ戦全試合で起用されている最大の理由といっても過言ではない。
シーズン開幕から間もない10月。英衛星放送『Sky Sports』のインタビューに応じた指揮官は「規律を重んじる」と強調し、加えて「Togetherness(一体感・連帯感)が私のアイデアであり、私のモットーだ」と断言。さらに昨年12月、サッカーに特化したYouTubeチャンネル『Rising Ballers』で、ドイツの古豪FCザンクトパウリを指揮した時代に成功できた理由を聞かれた際、自身のフィロソフィーを以下のように説明している。
「みんなが納得するようなアイデンティーの形成が大事。コミュニティーのような、連帯感も大切になる。そして、私にとって最も重要で欠かせないエレメントがワークエシック(労働倫理=仕事に対する姿勢)。何かを達成したいのであればハードワークをしなくてはならない。短期間で達成することはできないが、ハードワークに勤しめば1年、1年半で大きなことを達成できる。しっかり守ることから始めるのが第一で、そこからポゼッション時には試合を支配することを目指した」
同じく昨年末のプレミアリーグの公式サイトでは、現役時代にアーセナルに所属し、現在はメディアでデータ解析を行っている戦術アナリストのエイドリアン・クラーク氏がヒュルツェラー監督指揮下のブライトンを分析。「強い労働倫理を植え込んでいる」と題された章では、次のように論じている。
「ヒュルツェラー監督のブライトンには、新鮮なエネルギーを感じる。おそらくそれは、指揮官自身の若さとやる気から伝導しているのかもしれない」
「プレミアリーグのクラブにおいて、90分間毎でブライトン以上の走行距離を記録しているのは、昇格組のイプスウィッチのみ。シーガルズ(ブライトンの愛称)イレブンの一試合平均の走行距離は112.1kmである。選手たちのランのインテンシティー、それこそが昨シーズン、前任のロベルト・デゼルビ前監督下のチームとの決定的な違いといえる」
「よりテンポ良い走り出しでゲームに臨み、選手たちは一試合平均152.4本ものスプリントをしている。昨季は同123.1本でリーグ18位だったが、今季は同6位である」

タフに戦い、指揮官が標榜する「献身」を体現し続ける三笘。(C)Getty Images
三笘が重宝され続ける理由
さて、これらを羅列したうえで、特筆すべきは何か。それは日本代表ウインガーのチーム内での立ち位置だ。
今季のプレミアリーグ全試合(※2月14日のチェルシー戦終了時点で25試合)出場はチームで唯一。公式戦も、これまでに消化した30試合中28試合に出場、これもチーム内最多の数字である。さらに出場時間も守護神のフェルブルッヘン(2250分)とDFヤン・ポール=ファンヘッケ(2219分)に続く3番目(2181分)である。
無論、冒頭で触れたとおり、チーム内でトップクラスの攻撃スキルを備える三笘が、こと攻撃において欠かせない存在なのは間違いない。しかしながら、オフェンスのみに特化すれば、ほかにもシモン・アディングラやヤンクバ・ミンテ、ジョルジーニョ・ルターを優先的に起用する試合が多くてもいいはずだ。
実際、昨年12月30日(現地時間)のアストンビラ戦、25年の初戦となったアーセナル戦と2戦連続で三笘がスタメンを外れた際には、彼らが先発で使われたが、それも束の間。直後のFA杯3回戦のノーリッジ戦からは当たり前のように背番号22が左サイドハーフの定位置に戻ってきていた。
なぜなら彼は、前述のとおり、31歳の青年指揮官が最重要とするハードワークを厭わず、守備の局面においても高い位置からの積極的なプレッシングを繰り返し、ボールロストした場合には必死にトラックバックもする。時には自陣のボックス内でボールを跳ね返すこともある。
現地時間2月8日に行われたFA杯4回戦、チェルシーを迎え撃った試合後の囲み取材で、三笘が考えるヒュルツェラー戦術とはどういったものなのかという質問が飛んだ。これに「相手に合わせて、自分たちのやりたいことはブラさずにやりますけど……」と前置きした27歳は、こう続けている
「より強度の高い守備をしないと難しい戦術をやりますし、一人ひとりのインテンシティーがないと難しいところがあるので、そこは求められてます。毎試合いろんな形でトライしてるので、その形がより後半戦で出てくればなと思ってます」
また、1月下旬に行われたU-Nextのインタビューでは、インタビュアーが「三笘選手の守備での貢献度の高さが攻撃面で影響が出ているのではないか」という趣旨の質問をしている。
これに対して本人は、こう答えている。
「それは少なからず出ていると思いますけど、チームが勝利するためのプレーはどんなプレーでもしないといけないと思っている。守備を10回してドリブル1回でも勝てばいい。逆にドリブル10回、守備1回で負けては意味がない。すべてをやらなくてはならない。その両方のクオリティーを上げないといけないと思っていますけど、成長過程かなと思っています」
これこそが、今季の三笘のプレースタイルの変化であり、個人的には“肝”だと考えている。

今季のベストゴールとも称賛されたチェルシー戦での一撃は、三笘の名を世界に知らしめるゴラッソとなった。(C)Getty Images
攻撃面で存在感が消えても……
以前のコラムでも触れたが、筆者は今シーズンのパフォーマンスに躍動感が欠落しているように感じていた。ドリブルで仕掛ける場面は少なく、プレミアリーグデビューを飾った2022-23シーズンのような力強く相手を抜き去るシーンが大幅に減少していたからだ。
だが一方で、攻撃の際には効率よく得点に絡んでいる印象がある。これは、直近の公式戦6試合で4得点を奪っているように、シーズン中盤に入ってからは特に顕著になっている。記述したFAカップのチェルシー戦では、攻撃面ではほとんど存在感が消えていたものの、いつもの“ハードワーク”でチームに貢献していた。
物足りなさを感じながら観戦していた後半途中、突然、三笘が左サイドを駆け上がり、跳ね上がるようなスプリントから好機を演出。そこから結果的として自身の決勝点という“褒美”にたどり着いている。このゴールシーンについて、彼はこう振り返っている。
「(自分のパスからタリク・)ランプティがあそこまでシュートを打ち切ってくれた。僕自身もいいポジションを取る時間を取れましたし、あそこからまた中に入って打ち切れればいいですけど、まあ高いレベルでなかなか難しいところがありましたし、味方を使いながらいいポジショニングができたのが一番かと思います」
バランスを意識し、チームプレーを重視する今季は、とりわけ守備に重きを置いている。それを象徴する場面だった。そのため以前のようなドリブルでのフレア(閃き)を見せられていないのは確かだ。翻って、ゴール前でのフィニッシュの局面で集中力が一気に上昇し、一瞬の輝きが放たれるのではないだろうか。
今季のプレミアリーグでマークした6得点は、「メッシのようだ」(英衛星放送『Sky Sports』の解説者であるジェイミー・キャラガー氏談)と評された先日のチェルシー戦でのスーパーゴール以外は、すべてワンタッチでフィニッシュしたものばかり。左サイドからカットインして持ち込み、自らフィニッシュする類のものはなく、ボックス内でボールを受けて数回タッチしてシュートという場面も少ない。
文字通り効率良くプレーをゴールに繋げている三笘。筆者はチェルシー戦後に、この変化について聞いた。
「ワンタッチの方が確率も高いですし、再現性も高いんで、そっちの方が増えてるっていうのはいいことだと思います。より簡単なゴールの方が難しいところもあると思うんで、そこを何回もやり続けてきたところで、ワンタッチが増えてるのは嬉しい。こういうゴールも増やさないといけないのは、もちろん感じてます。でもゴールはゴールなんで。どんなゴールでもチームの勝利に貢献すればいいかなと思います」
弱気なコメントも減り、成長は止まらない
さらに左足を含めてシュート精度自体が高くなった点も見逃せない。自身が以前から課題としてきたフィニッシュ面で向上しているように、オンターゲットの回数が増えている。これについては、次のように私見を教えてくれた。
「そこは課題でしたし、取り組んでいるところでもあります。やっぱたくさん打つことでわかってくることもありますし。でももちろん2本目も決めないといけないシチュエーションでしたけど、それはもう練習している過程なので、いずれ出ればなという風に思ってますし、今後もっともっと出さないといけないなっていうのは感じてますね」
ドリブルで相手DFを置き去りにする場面は少ないかもしれないが、これも以前に本人が「周りで見ていると分からないと思う」と話した通り、効果的な動きを優先しているがゆえの結果だ。スピードがなくなったわけではなく、ただ要所でグッとギアを上げて、ゴールに絡もうとしているだけのこと。簡単に言えば、今季の三笘は“量より質”に移行しているのだ。
今季、英国のブライトン担当の記者と話していると、「ミトマやジョアオ・ペドロにハードワークを求めた結果、攻撃力が低下しているのではないか」という指摘も少なくなかった。つまりはヒュルツェラー監督の功罪を問うような意見である。しかしながら、三笘のシフトチェンジに関して言えば、逆に守備を重きに置くことが奏功しているのかもしれない。
付け加えれば、今季の三笘は非常にタフだ。ここまで怪我はなく、毎試合走り切っても、表情に疲弊感は見られない。過去2シーズンは走り続けた後の囲み取材で疲れた表情を見せた回数は幾度かあったし、実際に「疲れている」と弱気なコメントをしたこともあった。
だが、今季は、本人が納得していない時もあるとはいえ、常時一定以上のパフォーマンスができるようなコンディション維持を継続している。
ピッチ上でアップダウンを繰り返しながら、ボックス内で違いを見せる。オールマイティーなアタッカーへとバージョンアップしつつある三笘。その進化がどこまで続くかは非常に興味深いところである。
[取材・文:松澤浩三 Text by Kozo Matsuzawa]