イニエスタとメッシ、“偽9番”の決定的な違い。豪華「VIP」擁する神戸が進むべき道とは?

2月25日(月)12時35分 フットボールチャンネル

リージョ監督が新シーズン開幕で目指したもの

 今年のJ1第1節で最も大きな注目を集めたと言っても過言ではないのは、ヴィッセル神戸だ。アンドレス・イニエスタやルーカス・ポドルスキに加え、元スペイン代表のダビド・ビジャも補強。日本代表クラスの新戦力も複数加え、どんなチームが出来上がるのか。開幕戦の戦いぶりからJ屈指のスター軍団の現状を読み解く。(取材・文:舩木渉)

——-

 記者会見はさながら「白熱教室」のようだった。ファン・マヌエル・リージョ監督が熱のこもった口調で語る言葉は示唆に富み、戦術の講義を受けているかのよう。10分強だったと記憶しているが、時間が許すなら気になることをもっと聞いてみたいと好奇心を掻き立てられた。

 22日に行われたJ1開幕戦で、神戸はセレッソ大阪に0-1で敗れた。前線にはダビド・ビジャ、アンドレス・イニエスタ、ルーカス・ポドルスキの豪華“VIP”トリオが並び、山口蛍や西大伍、初瀬亮といった新加入の注目選手たちも揃って先発出場。大きな注目を集めながら、結果は振るわなかった。

 神戸のリージョ監督は、イニエスタを最前線の中央で“偽9番”とも呼ばれる役割に据え、左サイドにビジャ、右サイドにポドルスキを起用した。奇抜ともとれる戦術について記者会見で問われると、指揮官として事細かにその意図について説明してくれた。

「ビジャという選手自体、そもそもあの(左サイドの)スペースからプレーを始めて得点を取るスタイルなんだ。彼に聞いてもらってもいいが、彼はあそこがそもそもの(得意とする)プレースペースで、点を取ってきた選手。バルセロナでもスペイン代表でも常に、彼がプレーしていたのはあのスペースからだった。

その中でチーム全体として目指していたのは、ビジャとポドルスキの2人で相手の5人(両ウィングバックと3人のセンターバック)を引きつけることだった。そのうえでイニエスタは今日はトップではプレーしていないが、相手のセンターバックからより遠くでプレーさせることによって、相手センターバックが常に両サイドからビジャやポドルスキが裏を取りにくる脅威に晒されながら、どうイニエスタに対応するか。その反応を見ながらプレーするのが今日の狙いだった」

 ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督率いるセレッソは、3バックを採用して3-4-2-1の形で神戸を迎え撃った。キャンプでは4バックを基本に練習してきたようだが、指揮官が東京ヴェルディ時代にも採用していた、自身の戦術を最も表現しやすい形で開幕戦に挑んだのである。

イニエスタとメッシ、その決定的な違い

 もちろんビジャが中央ではなく、サイドで起用されることも織り込み済みだった。右ウィングバックとしてスペイン代表の歴代最多得点者と対峙した舩木翔は「分析の中でビジャが自分のサイドにくることは想定していた」と明かしている。

 一方、神戸の狙いがハマったとは言い難かった。もちろんボール保持の面ではセレッソを上回り、その点で成果が見られた反面、“偽9番”を採用したが故にゴールが少々遠ざかってしまったのも事実だ。「バルサ化」を掲げる神戸が実践した“偽9番”は、かつてそのバルサが用いていた同様の戦術とは似て非なるものであることにも触れておかなければならない。

 ビジャがバルサに在籍していた時期、ペップ・グアルディオラ監督はリオネル・メッシを最前線で“偽9番”として起用し、その戦術の1つの完成形をピッチ上で表現した。なぜメッシがそのポジションで機能したか。それは稀代の10番が、“9番”としての機能性も兼ね備えていたからに他ならない。

 メッシは1トップとして構えるのではなく、基本的には相手の最終ラインとセントラルMFの間のスペースをスタート地点としていた。そこから時に中盤まで降りてゲームメイクに絡みつつ、ゴール前にも飛び出していく。

 目の前のセンターバックからすれば、自分の手の届かない場所で世界最高の選手に自由に動かれるほど恐ろしいことはなかっただろう。それに加え、メッシはボールを持てば自分で前を向いてドリブルで仕掛けることもできるし、ラストパスも、フィニッシュも一級品。放っておくことなどできはしない。

 すると対峙するセンターバックの意識は目の前のメッシに向き、後ろが疎かになる。そのタイミングで両ウィングのビジャやペドロが、サイドバックとセンターバックの間のギャップを狙って斜めにカットインしてくればひとたまりもない。一瞬でゴールを陥れられてしまう。

 イニエスタは当時、彼ら3トップの力を引き出すためのサポートキャストの1人であって、必ずしも主役ではなかった。スタートポジションは相手の右サイドバックと右センターバック、右セントラルMFが形成するトライアングルの中央で、誰がマークにつくか曖昧な立ち位置で前を向いてボールを運び、アタッカーたちに動き出しを促す役割だ。針の穴を通すような正確さで放たれるラストパスは芸術的だった。

神戸が抱える致命的な弱点とは

 彼がなぜ高い位置でパスを受けられるかというと、その背後にシャビやセルヒオ・ブスケッツといった世界最高クラスのボールマスターたちがいるからであって、あくまで最終的にメッシら3トップが最大限の力を発揮できるよう構築されたチームだからこそ、“偽9番”が機能していたとも言える。

 翻って神戸の“偽9番”はどうかといえば、“9番”としての機能は基本的にないと見ていい。なぜならそこにいるのはイニエスタだから。セレッソ戦でも相手最終ラインの背後に飛び出したり、ペナルティエリア内で勝負するようなプレーも基本的には彼の頭の中の選択肢にない。相手センターバックから離れた位置でプレーすることはできても、メッシのようにそのDFたちの意識を完全に自分に向けるほどではないので、両ウィングが「5人」を相手にしなければならなくなる。

 役割としては“10番”的な要素が強く、あくまで中盤で数的優位を作るための1人としてのプレーが目立っていた。そう考えると、神戸のシステムは4-3-3ではなく、中盤をダイヤモンド型にして2人のウィングFWを置いた変則的な4-4-2のように見えてきた。

 確かに両サイドの逆足ウィングの積極的な仕掛けによって、リージョ監督の言う「攻撃のベクトルが中央に向かっていく」様子は見てとれたが、ビジャやポドルスキで「5人」全員を引きつけるのは難しい。個人で目の前の選手に対して質的優位な状況を作れてはいても、単独で仕掛ける際にはゴールから遠い位置でのプレーを余儀なくされ、決定的なフィニッシュに持ち込む回数が少なくなっていた。「相手が中央に集まる」ことによって外から初瀬や西がチャンスを作る場面もあったものの、やはり重要なのはアタッカーがゴールの近くで決定機に絡むことだ。

 中盤がイニエスタを含めて4人になることで、数的優位を生かしてボールポゼッションの時間を長くすることはできていたし、セカンドボールの掃除役として役割が整理された三原雅俊のように本来の力を存分に発揮でいる環境を得た選手もいたので成果がなかったわけではない。

 だが、パサーとしての機能性を十分に備えた選手が不足しているようにも見え、インサイドハーフの山口や三田啓貴の不用意なボールロストからセレッソにカウンターを食らうこともしばしば。両サイドバックは高い位置を取ってボールポゼッションに参加するため、ボールを奪われる場所とタイミングが悪いとカウンターから容易に決定機を作られ、今後もその傾向は続くように思う。

 リージョ監督は「長い時間ゲームをコントロールできており、相手に支配される時間は試合を通じてほとんどなかった」と振り返りつつ、「ボールを奪いたいという気持ちが先行したときに、チームが間延びしてカウンターを受けたり、縦に速い殴り合いの状況になってしまった」と分析していた。また「あれだけ引かれるとカウンターを全く受けないというのは避けられない」とも語っている。

豪華な陣容。神戸は最適解をどこに見出すか

 もう1つの課題として挙げられる“VIP”トリオの運動量の不足を考慮すれば、神戸は守備には常に大きなリスクを抱えることになるだろう。彼らは30代中盤を迎えて加齢による体力の低下という避けられない現実と直面している。それ故にほとんどプレスバックをしないので、必然的にフィールドプレーヤー7人で相手の攻めのエネルギーを受け止めなければいけない時間帯が長くなる。これからリージョ監督が攻守のバランスをどこに見い出すかにも注目すべきだ。

 もしイニエスタを“偽9番”的に起用し続けるなら、前線や中盤の組み合わせを再考する余地はある。ポドルスキだって立場が安泰というわけではない。バルサ時代のようにサポートキャストが揃っているわけではないし、彼がそもそも“9番”タイプの選手でないことも考慮しながらチームを作っていく必要があるだろう。

 リージョ監督やイニエスタをよく知るある指導者は、ある時、空を飛ぶ鳥の群れを見て「あれがフットボールだ」と表現したという。この言葉を聞いて最初は「どういうことだ?」と不思議だったが、神戸の試合を見ていると考えが徐々に整理されてきた。

 鳥の群れはそれぞれがかなり近い距離で飛んでいるのに、お互いにぶつからず、同じ方向へ隊列を崩さず進んでいくことができる。きれいなV字型など描く形も様々だが、群れを形成するのには1羽では敵わないような天敵から身を守るために存在を大きく見せることなど、しっかり意味がある。

 そして、それぞれが他の全ての個体と相互に影響を与え合いながら、先頭なら目的地へ他の鳥を導く、外周の鳥は周囲を警戒するなど、飛行しながら各ポジションの役割を忠実にこなす。しかも群れに明確なリーダーはいない。あるのは「一定以上の距離に近づかないよう飛ぶ」「隣の鳥との距離を一定に保つ」「一定の距離にいる鳥と並行に飛ぶ」というたった3つのルールだけ。こういった習性は、フットボールにもつながるところがある。

 神戸はおそらく今後もイニエスタがチームの方向性を定めるうえで最も重要な鍵になる。彼を先頭に、他の選手たちはそれぞれのポジションごとに定められた役割を正確にこなし、1人では実現できない、11人だからこそ表現できる最適解を見つけていかなければならない。もちろんこれがフットボールと鳥の群れを結びつけた考えに対する正解とは限らないが、リージョ監督の戦術を体現するならば、鳥の群れのようにはっきりと整理された集団である必要がある。

 現時点で表現したい戦術の要諦は見えつつあるが、まだまだ課題は山積み。とはいえイニエスタは試合後に「これをやり続けて、どんどん改善するのが進むべき道だ」と強調し、指揮官への信頼も戦術への自信も失っていない。神戸は世界クラスのスター選手たちを生かしながら、チームとして勝つためのバランスをどこに見出すか。リージョ監督の采配から、まだまだ学びたいことはたくさんある。

(取材・文:舩木渉)

フットボールチャンネル

「イニエスタ」をもっと詳しく

「イニエスタ」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ