「どう考えても公平じゃない」メキシコの名伯楽はピカソ陣営に苦言 井上尚弥は“思わぬ障壁”をどう乗り越えるか
2025年3月1日(土)5時30分 ココカラネクスト

井上との対戦が間近に迫っていたピカソ。しかし、その交渉はここにきて停滞している。(C)Getty Images、(C)Lemino/SECOND CAREER
「イノウエの試合は全てが圧倒的な内容。本当に素晴らしい選手だ」
ボクシングの世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)の次戦の行方が錯綜している。
米スポーツ専門局『ESPN』など複数の海外メディアは、来る5月4日の井上との対戦を内定させていたWBC同級1位アラン・ピカソ(メキシコ)の陣営が辞退。交渉が暗礁に乗り上げていると報じた。
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まさに急転直下の出来事だ。5月3日に米国ラスベガスのTモバイルアリーナで「モンスター」と対戦する予定だったピカソ。この一戦は、ボクシング界屈指のビッグマッチが組まれるメキシコの記念日「シンコ・デ・マヨ」の一週間に当たるため、32戦無敗を誇る若きメキシカンへの期待は高まっていた。それだけに契約合意寸前での辞退に衝撃は広まった。
もっとも、以前から「世界最強」とされる井上に、果敢に挑もうとするピカソ陣営は「時期尚早」と疑問を投げかける声は上がっていた。とりわけ厳しい言葉を寄せていたのは、メキシコ・ボクシング界の名伯楽イグナシオ・ベギリスタイン氏だ。
手腕に疑いの余地はない。ベギリスタイン氏は、元世界4階級制覇王者のファン・マヌエル・マルケス(メキシコ)や同じく世界2階級制覇王者のダニエル・サラゴサ(メキシコ)らを指導してきた。ボクシングの酸いも甘いも知る重鎮は、メキシコの専門YouTubeチャンネル『El Clinch』に出演した際に、「正直に言うと、本人には申し訳ないが、ピカソは本当に危険な目に遭うと思う」と指摘。実力と経験値の差がある井上とピカソの戦いに警鐘を鳴らした。
無論、井上に対する不満や疑問があるわけではない。そこは「イノウエの試合は全てが圧倒的な内容。本当に素晴らしい選手だ」と認める通りだ。しかし、だからこそベギリスタイン氏は「無謀な戦いだと思う」と強調する。
「彼は完全にイノウエに沈められるだろうね。若いファイターをこういう試合に送り込むのは不思議でならない。どう考えても公平じゃない。でも、結局のところ、決めたのは人間的な良心の問題だろう」
ピカソ陣営の“逃亡”を受け、まさかの事態に
さらにベギリスタイン氏は「試合の重みを考えても、ここで戦うことは賛同できない。あの若者(ピカソ)は、彼の取り巻きに金稼ぎのために連れられているように見える」と指摘。揺れ続けるピカソ陣営の動きを糾弾した。
「あの“パンテーラ”ネリも決して悪いファイターじゃない。でも、イノウエは彼を完全に粉砕した。一気にバラバラにしたんだ。彼も再戦を望んでいるが、また叩きのめされるだけだろう。それなのに、そんなレベルの相手と試合をしたことがないピカソがどうなるか。彼はエリック・モラレス(元世界4階級制覇王者)のインタビューで、『僕がイノウエを倒す最初のメキシコ人になる』と語っていたが、それはさすがにイノウエや我々の知力を舐めすぎている」
ベギリスタイン氏が「舐めすぎている」と断じたピカソ陣営の“逃亡”を受け、まさかの事態に陥った井上。すでに『ESPN』などは、WBA同級2位のラモン・カルデナス(米国)との対戦を予測。この29歳のメキシコ系米国人も2月8日のブライアン・アコスタ(メキシコ)戦後に「ベストの相手と戦いたい。イノウエは最高の選手なので彼と戦いたい」と公言したが、急転直下での交渉に応じるかは不透明ではある。
これまでも「世界最強」と言われるがゆえに公平な相手がいなくなる問題は井上を悩ませてきた。一連の報道内容を整理する限り、今回の交渉においてモンスター陣営に全く非はないが、2021年6月以来となる米国での一戦を前に浮上した思わぬ障壁をどう乗り越えるか。人知を超えた強さを示し続けてきた偉才の真価が問われることになりそうだ。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]