海外ライターF1コラム:移籍上手なハミルトンはなぜフェラーリを選んだのか。4つの説とその検証

2024年3月6日(水)17時45分 AUTOSPORT web

 ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。第1回では、ルイス・ハミルトンの2025年のフェラーリ移籍について考察した。


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 2024年シーズンはまだ始まったばかりだが、多くの点において人々の目はすでに2025年シーズンに向けられている。その最大の理由は、F1史上最も成功したドライバー、ルイス・ハミルトンがメルセデスからフェラーリに移籍するからだ。


 最初にこのニュースを知った時、私には、この移籍が理にかなっているとは思えなかった。メルセデスとフェラーリは、この数年、ほぼ互角であり、サー・ルイスは、今より良い環境に移るというよりは、単に横方向に移動するように思えるからだ。現状を見る限りでは、ハミルトンが単独での史上最多8回目の世界チャンピオンタイトルを獲得するチャンスを高めると断言できるのは、レッドブルへの移籍以外にはあり得ない。

2023年F1第10戦オーストリアGP カルロス・サインツ(フェラーリ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)


 それではなぜ彼はフェラーリに行くのか。いくつかの推測について分析してみよう。

2024年F1第1戦バーレーンGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)


■検証1:金銭的条件


 金銭的な問題でないことは間違いない。マラネロでハミルトンが莫大な報酬を受け取ることに疑いはないが、ハミルトンはすでに一生かけても使いきれないほどの富を築いている。それに、金銭面を重視するなら、メルセデスに残れば、生涯にわたってアンバサダーの役割を務めることになったかもしれず、それによって多額の収入を獲得し続けることができただろう。だが、サー・ルイス・ハミルトンのような億万長者にとって、金銭は動機にはならない。


■検証2:重圧からの逃避


 次に、メルセデスチームでチームメイトからのプレッシャーに耐えられなくなってきたという可能性について考えてみる。忠実で、自分より少し遅かったバルテリ・ボッタスとの平穏な5年間の後、ハミルトンは、今、若くて速いジョージ・ラッセルをチームメイトとしている。ボッタスからラッセルへとドライバーが変更されたことで、チーム内のダイナミクスも変わった。ハミルトンは依然としてスターだが、時間の経過とともに、その地位は揺らいでいく。ラッセルはそのポジションを受け継ぐための準備を進めており、いずれは後輩に道を譲らなければならないと知っていることは、ハミルトンにとって決して良い気分ではないはずだ。


 ふたりは今のところ良好な関係を維持しているが、昨年はチームメイト同士でコース上で激しくバトルをするシーンも見られた。こうしたことから見て、ハミルトンがキャリアの晩年にチーム内での闘争で疲弊することを避けようとして移籍を決めたと考える者もいる。

2024年F1第1戦バーレーンGP ルイス・ハミルトンとジョージ・ラッセル(メルセデス)


 そういう要素が全くないとは言わない。ラッセルが我慢がきかなくなりつつあり、公然とハミルトンに挑戦し始めそうな兆候は確かに見えていた。しかしそれでも、ハミルトンがメルセデスから離れる理由が、チームメイトからのプレッシャーだという理論は成り立たない。なぜなら、移籍先のフェラーリには、シャルル・ルクレールという優れたドライバーがいるからだ。そしてルクレールはフェラーリの育成出身でチームとの絆が深いのに対して、ハミルトンは突然飛び込んだ新入生のようなものだ。メルセデスでなら、12年の歴史を生かして自分の有利なポジションを守ることもできただろうが、初めて加入するフェラーリではそれができない。つまり、チームメイトからの脅威は、移籍の理由から除外される。


■検証3:子どものころからの夢の実現


 次に、ハミルトンにとって、フェラーリで走るのが昔からの夢だったという理由について考えてみよう。彼は、少年のころからフェラーリで走るのを夢見ていたと説明した。だが、フェルナンド・アロンソが最近示唆したように、これは純粋なPRトークにすぎない。「1年前に、彼はそんな夢を持っていなかったよね。数カ月前であってもそうだ」とアロンソは言っている。

2024年F1第1戦バーレーンGP シャルル・ルクレール(フェラーリ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)


■検証4:8度目の王座獲得への隠された裏付け


 それでは、ハミルトンがブラックリーを後にして、マラネロに向かう理由は一体何なのか。それは、彼自身が、「もう一度ワールドタイトルを獲得しようとするとき、メルセデスにいるよりフェラーリに行く方が可能性が高くなる」と考えたからだろう。


 外部の人間から見れば、それは驚くべき結論だ。繰り返しになるが、ここ数年、この2チームの力は非常に拮抗しており、そうであれば、今いる場所にとどまるのが最善だからだ。


 しかしもしかするとハミルトンは、メルセデスとフェラーリの舞台裏で起きていることについて何かを知っているのかもしれない。

2023年F1シンガポールGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)とフレデリック・バスール(フェラーリF1チーム代表)


 彼はかつて、誰よりもうまく未来を読んだことがある。2012年、彼はトップチームのマクラーレン(2010年から2012年の間に18回優勝)を離れ、当時中団のメルセデス(2010年から2012年の間に1回優勝)に移籍した。その時は、まるで自殺行為のように見えたが、結果的に、ハミルトンが両チームの将来について鋭い分析を行っていたことが判明した。その後、マクラーレンはたった1回しか優勝しておらず、メルセデスは115回勝利を挙げた。


 ハミルトンが、フェラーリでの未来がメルセデスのそれよりも明るいと信じる理由はたくさんあるのかもしれない。それは2026年の新しいエンジンに関することかもしれないし、若手の有望株キミ・アントネッリがラッセル以上に手強い相手になると考えているのかもしれない。また、もう少し想像力をたくましくしてみれば、メルセデスがF1への関与を縮小しようとしているという情報があるのかもしれないし、エイドリアン・ニューウェイの動きについて何か知っている可能性もある。


 ハミルトンはF1史上最も優れたドライバーのひとりであるだけでなく、適切なタイミングで適切なチームを選ぶ力も持っている。メルセデスからフェラーリへの今回の移籍は、サー・ルイスが再び披露する、素晴らしいチェスの一手なのかもしれない。

2024年F1第1戦バーレーンGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)


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