J1最年少出場、FC東京の北原槙は類まれなる逸材か。森本、久保らと比較検証

2025年3月6日(木)14時0分 FOOTBALL TRIBE

久保建英(左)森本貴幸(中)中井卓大(右)写真:Getty Images

3月1日に開催された明治安田J1リーグ第4節、鹿島アントラーズ対FC東京(カシマサッカースタジアム/2-0)において、FC東京の“スーパー中学生”ことMF北原槙がJ1最年少出場記録(15歳7か月22日)を樹立した。


北原は第3節の名古屋グランパス戦(味の素スタジアム/3-1)で初のベンチ入り。鹿島とのアウェイ戦で、しかも1点ビハインドというなかなかシビアな状況での初起用は、今2025シーズンから指揮を執る松橋力蔵新監督からの期待が大きいことを物語っている。


後半38分、MF高宇洋に代わってボランチの位置に入り、アディショナルタイムも合わせ14分ほど出場した北原。ボールタッチ数は3回にとどまり、縦パスは簡単にカットされ、自陣深くでファウルを取られてしまうなどまだまだ甘さを見せ、後半46分には鹿島FW師岡柊生にダメ押しゴールを喫しほろ苦いデビュー戦となったが、ボディーフェイントで相手をかわすシーンを披露するなど、“片鱗”は見せた。


体付きを見るとやや線の細さが目立ち、まだ成長期であることを感じさせるが、ジュニアユース(FC東京U-15むさし)所属であることを考えれば、“2段飛び級”でトップチームの試合に出場したこと自体奇跡的なことであり、視察に訪れていた森保一日本代表監督も「日本の将来を担っていく素晴らしい選手」と目を細めた。


プロへの大きな一歩目を記した北原だが、デビューした以上この先は当然結果を求められ、若くしてプロデビューを果たした先人と比較されることになる。


チームリーダーのDF長友佑都(38歳)とは親子ほどの年齢差がある。その長友は当時31歳だった2018FIFAワールドカップロシア大会前に、「年齢で物事判断する人はサッカー知らない人」とTwitter(現X)に投稿し賛否両論を呼んだ。この出来事から7年。長友は未だFC東京でレギュラーを張り、現役日本代表選手だ。ピッチに入れば年齢など関係ないことは、彼が身をもって教えてくれている。北原にとっても良い環境にあるといっていいだろう。


ここでは、北原が持つポテンシャルの高さに焦点を当てながら、若くしてプロデビューを果たしたFW森本貴幸(2024年引退)、MF久保建英(現レアル・ソシエダ)、さらにMF中井卓大(現スペイン4部ラージョ・カンタブリア)と比較し、その将来を検証していきたい。



  • MF北原槙(15歳7か月22日デビュー)174cm、66kg

  • FW森本貴幸(15歳10カ月6日デビュー)180cm、77kg

  • MF久保建英(16歳5カ月22日デビュー)173cm、67kg

  • MF中井卓大(16歳の誕生日にレアル・マドリードとプロ契約)178cm、73kg




森本貴幸 写真:Getty Images

森本貴幸の記録


今回、北原に記録を破られる形となったのがFW森本貴幸だ。当時東京ヴェルディに所属していた森本は、オズワルド・アルディレス監督に見い出された形で、ジュニアユース所属(1998-2004)にも関わらず、2004シーズン開幕戦のジュビロ磐田戦(ヤマハスタジアム/0-2)に後半6分から出場し15歳10か月6日で公式戦出場を果たした。


同年5月5日の第8節ジェフユナイテッド市原・千葉戦(味の素スタジアム/2-1)で途中出場から後半41分に決勝点を決め、15歳11か月28日というJ1史上最年少得点記録も樹立。その後も活躍しシーズン4得点を挙げ、Jリーグ最優秀新人賞(現在は「ベストヤングプレーヤー賞」に改称)を獲得している。


東京VではJ2降格も経験した森本だったが、2006シーズン途中に18歳の若さでセリエAのカターニャへ移籍(当初はレンタル移籍で2007シーズンに完全移籍に移行)。2007年1月29日のアタランタ戦で後半39分から移籍後初出場した4分後の後半43分に初ゴールを決めてみせ、自身の能力を示してみせた(出場・ゴールともに現在までセリエA日本人最年少記録)。


一見するとややずんぐりした体型だが、「和製ロナウド」の異名通り迫力十分のドリブル突破が武器だった森本。しかしそのプレースタイルゆえ故障も多く、キャリア中盤からはケガとの闘いを強いられ、UAEのアル・ナスルを経てJ復帰。


千葉(2013-2015)、川崎フロンターレ(2016-2017)、アビスパ福岡(2018-2020)と渡り歩く度に徐々に輝きを失っていき、2020シーズンには再び海外に活躍の場を求め、ギリシャ3部のAEPコザニ(2020-2021)、パラグアイ1部のスポルティボ・ルケーニョ(2021)、台湾社会人甲級の台中Futuro(2022-2023)、セリエDのアクラガス(2023-2024)と移籍を繰り返す。


度重なる負傷や新型コロナによるリーグ戦中止、書類不備による登録不可などといった不運も重なり、35歳となった2024年、20年に渡るプロ生活にピリオドを打った。


五輪代表として北京五輪に出場したもののチームは3戦全敗に終わり、A代表でも印象的な活躍が出来なかった(10試合3得点)上、キャリア晩年には飲酒運転で事故を起こすなどの不祥事もあった森本。「早熟」という印象を残したが、セリエAで通算7シーズンも過ごしたことは、その実力が認められたことの証明でもある。


森本のサッカー人生を決定付けたのは、15歳の彼を大抜擢したアルディレス監督の慧眼であり、実戦経験を積ませたことにある。今後、北原がレギュラーポジションを奪取できるかは本人の努力も必須だが、松橋監督が忍耐強く起用できるかどうかにかかっている。


久保建英 写真:Getty Images

久保建英の記録


現在、レアル・ソシエダにとって欠かせない存在となったMF久保建英の場合は、川崎フロンターレのアカデミーに所属した小学3年生の時に、スペインの超名門FCバルセロナの下部組織「ラ・マシア」の入団テストに日本人で初めて合格。


2011年、10歳の若さでスペインに渡り年代別チームで活躍していたが、2015年にバルセロナがFIFA(国際サッカー連盟)から18歳未満の外国人選手獲得および登録違反による制裁措置を受けたあおりで久保の公式戦出場が不可能に。「日本に帰国するよりも、ここで練習していた方が成長できる」というバルセロナ幹部の言葉にも反発し帰国を決意した久保は、プレー機会を求めてFC東京U-15むさしに入団。2段飛び級でトップチームに登録された。


しかし久保は、当時J3に所属していたFC東京U-23を主戦場としていた現状を良しとせず、トップチームの試合で自身を起用しようとしない長谷川健太監督(現名古屋グランパス)の慰留も突っぱね、横浜F・マリノスへ期限付き移籍(2018)する。アンジェ・ポステコグルー監督(現トッテナム・ホットスパー)は彼を重用し、J1初ゴールも決め(2018シーズン第24節ヴィッセル神戸戦)、たった4か月の所属だったにも関わらず強烈なインパクトを残した。


2019シーズン、FC東京に復帰して開幕スタメンに名を連ね一皮むけた姿を見せると、同年6月、移籍金200万ユーロでレアル・マドリードへ完全移籍した久保。しかし世界一のビッグクラブでは当然出場機会もなく、マジョルカ(2019-2020、2021-2022)、ビジャレアル(2020)、ヘタフェ(2021)へとレンタル移籍を繰り返して実戦経験を積み、2022シーズン、レアル・ソシエダへの完全移籍を果たした。その後の活躍は今さら記すまでもないだろう。


10代であっても、監督との相性が合わないとあれば、出場機会を得られるチームへの移籍にも迷いがないその姿には“プロ魂”を感じさせ、現在、若くして海を渡る若手選手の道標となっている。




中井卓大 写真:Getty Images

中井卓大の記録


最後に挙げるのは、「ピピ」の愛称で知られ、レアル・マドリードの下部組織で育ち将来を嘱望されていたMF中井卓大だ。10歳でセレクションに合格し、スペインの地を踏んだ中井。ここまでは久保と同じ足跡で、カンテラ(下部組織)では17歳のフベニールBからの飛び級で、19歳以下のフベニールAでプレーし、すぐさま3部所属のレアル・マドリード・カスティージャでプレーするなど、久保を超える順風満帆なキャリアを歩んでいるように見えた。


しかし20歳を迎える頃、彼は大きな壁に突き当たる。トップ昇格どころかカスティージャでの出場機会もなくなり、3部のCFラージョ・マハダオンダ(2023-2024)、同じく3部のSDアモレビエタ (2024-2025)へと“都落ち”していき、今2024/25シーズンはついに4部のラージョ・カンタブリアへのレンタル移籍を余儀なくされた。


目標の4部残留が厳しい中でもスタメン起用されない辛い状況のままシーズンを過ごしており、今シーズン限りで中井とレアル・マドリードの契約は切れる。「レアル・マドリード」という肩書きにこだわった末の“悲劇”ともいえるが、すでに「終わった選手」との評価を受け始めている中井にオファーするJクラブは現れるだろうか。


その歩みはかつてアトレティコ・マドリードのユースで育ち、元スペイン代表FWフェルナンド・トーレスと2トップを組んでいたがトップ昇格はならず、東京V入りしたもののJ通算7シーズンで6得点に終わったMF玉乃淳(2009年引退)と重なる。


少年時代のプレー集を見ると久保を凌ぐテクニックを披露していた中井だが、結局は試合で使われてナンボの世界だ。「レアル育ち」という自負が、彼のキャリア形成の障害となったとすれば、これほど皮肉なことはないだろう。




以上の例から、いかに実戦経験が重要か一目瞭然だ。北原の才能に気付き、トップチームの試合に起用した以上、松橋監督には今後継続的に起用する責任が伴う。トップチームの試合を経験させたことで、今さらユースの試合に出場させたとしても、「新たな経験」には繋がらないからだ。


10代選手の起用は監督にとっても勇気がいることであろう。そこで敗戦に繋がる大ミスを犯せば「トラウマ」になってしまう危険性もある。そして起用した後も、多少のミスを受け入れながら、その成長を見守る必要が生じる。


J1第4節終了時点で2勝2敗とまだその実力がつかみ切れていない中で、FC東京は北原という中学生を戦力として組み込めるかどうか。アルビレックス新潟時代(2022-2024)若手育成には定評があった松橋監督の本領が問われていると言えよう。

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