「トヨタの“パレード”はゴメンだ」2年目のグリッケンハウス007 LMH、ブレーキシステムを変更

2022年3月11日(金)17時24分 AUTOSPORT web

 WEC世界耐久選手権にル・マン・ハイパーカー(LMH)規定の『グリッケンハウス007 LMH』を投入して2年目のシーズンを迎えようとしているグリッケンハウス・レーシングは、このオフの間、マシンにブレーキシステムの変更を含めた改良を加えたことを明らかにした。


 アメリカの少量生産マニュファクチャラー、グリッケンハウスのオーナーであるジム・グリッケンハウスは、「007に対し、多くの作業を行なった」と説明する。


 昨年のル・マン24時間を最後にWECのレースに参戦していないグリッケンハウス007 LMHは、これまでと同様にイタリアのポディウム・アドバンスド・テクノロジーズ社のエンジニア、そしてヨースト・レーシングのサポートの下、アメリカのセブリングで開幕する2022年シーズンに挑む。


「我々はクルマを完全に分解し、セブリング向けに組み立て直した」とグリッケンハウス。


「調べてみると、マシンはなんとか持ち堪えている状態だった。驚きはしなかった。分解し、ボディとモノコックを点検した。その作業ができてよかった」


「シリーズからの要求に合わせ、我々はバイオガソリンへと切り替える。そして、ブレーキ・バイ・ワイヤシステムを導入した。これはいい助けになると思う」


「昨年のように、24時間レースでブレーキ交換を行わずに戦うことは、非常に重要だ。だがそこには、フロントとリヤの間で性能劣化に差がある。ブレーキ・バイ・ワイヤを使用することにより、その過程でより良いブレーキングをすることができる」


「我々はセットアップとクルマの扱い方について、多くのことを学んだと思う。これらのハイパーカーではわずかな調整で大きな違いが生じるため、我々はファイン・チューニングを続けている」


「2021年、我々のクルマには大きな問題は発生しておらず、(トヨタがル・マンで経験したような)燃料吸い上げのトラブルやいかなるエラーも起きなかった。ブレーキ・バイ・ワイヤと、新たなタイヤサイズの規定が我々を助けてくれると思う」

708号車グリッケンハウス007 LMH 2021年ル・マン24時間レース


■FIA・ACOとのBoPをめぐる議論から、ブレーキシステム変更案が浮上


 ボッシュが提供するブレーキ・バイ・ワイヤのシステムは007 LMHの主要な技術的変化だが、これはLMHカーのホモロゲーション期間に5回使うことができる“エボ・ジョーカー”のひとつにはカウントされない。


 ブレーキ・バイ・ワイヤ搭載の可能性についてグリッケンハウスは、007 LMHのBoP(性能調整)についてどうアプローチするかについての、WECオーガナイザーとの話し合いから生じたものだと述べている。


「皆が知っていることだと思うが、(2021年の)ル・マンの後、我々はFIAとACO(フランス西部自動車クラブ)と、非常に真剣な話し合いを持った」とグリッケンハウスは語る。


「我々は“トヨタのパレード”という砲弾の餌食になることには興味がない、と言ったんだ。彼ら(オーガナイザー)は我々がフェアなBoPをル・マンで手にできなかったという点については同意しているものと、私は考えている。トヨタは2台ともに問題を抱えていた(のに勝てた)し、我々はもっと速くあるべきだった」


「我々は、いくつかのことを議論した。タイヤの規則の変更、そしてウエットコンディションにおいて(フロントモーターの作動により)4輪駆動を使える条件についての規則の変更だ」


「トヨタは雨やダンプコンディションの際、4輪駆動を活かしてスリックタイヤを使うことができたため、昨年は大きなアドバンテージを得た」


「我々はACOに、“雨”の定義を少し変える必要があると指摘した。正直なところ、彼らも我々にレースしてほしい、そして、BoPをフェアにしたいと考えていると思う」


「それは、我々にとって学習曲線上の出来事であり、我々はたくさんのことを実際に学んでいる。そして彼らは、我々ができる限り速くなることを助けたいと思っているのだろう」


「彼らはブレーキ・バイ・ワイヤを許可した。我々にとってそれは非常にコストがかかることではあったが、我々は誠意を示したかった。何もせずただ座っているだけで『クルマを速くする作業は終わった』とは言いたくなかったのだ」


 実際に第1戦セブリング向けに発表されたBoPでは、トヨタGAZOO RacingのGR010ハイブリッドは、昨年はドライで120km/h以上、ウエットで140km/h以上とされていたフロントモーターの作動条件が、今年はドライ・ウエットともに190km/h以上へと改められている。完全な2駆である007 LMHとの差は縮まる方向だ。


 グリッケンハウスは、007 LMHの新たなブレーキ・バイ・ワイヤのシステムが、スティントの間じゅう、より高いレベルのブレーキ性能を維持することに役立つよう、望んでいる。


「ABSを使用することは許可されていないが、新たなシステムを使用すると、ドライバーはブレーキバランスをある程度制御できる」とグリッケンハウスは述べている。


「早い段階でブレーキが劣化したり、壊れたりといったことにはならない方法で、ブレーキを使えるようになる」


■「セブリングやスパで勝てるとは思っていない」とル・マンに照準


 グリッケンハウス007 LMHhは、2022年開幕戦のセブリング1000マイルレースにおいて、母国アメリカでのWEC初レースを迎える。セブリング・インターナショナル・レースウェイでの決勝は、3月18日に予定されている。


 007は最近、フィルミング・デーにフェラーリチャレンジ・ノースアメリカのクラス王者であるジェイソン・マッカーシーの手により、セブリングを周回した。


「ジェイソンがセブリングを走った際の速さに、とても感銘を受けた。それは昨年仕様のより硬いタイヤだったし、セットアップも変えていなかったんだ」とグリッケンハウス。


「我々は、まだセブリングで(レースコンディションに近い)怒りに任せたような状態でマシンを走らせたことはない。セットアップについては未知なので、多くのチューニングを行う必要がある。我々にとっては、習熟になると思う」


「我々がセブリングや(第2戦)スパで勝つとは私は思っていないが、本当に全開で走って、FIAとACOにデータをもたらすつもりだ。(第3戦)ル・マンまでには、勝てるチャンスがとても高くなることを願っている」


 なおル・マン以外のWECのシリーズ戦では708号車の1台となるグリッケンハウスのエントリーだが、ドライバーラインアップはそのときの空き状況とスケジュールに応じて「変更される可能性がある」とグリッケンハウスは語っている。


 第1戦セブリングのエントリーリストでは、ロマン・デュマ/オリビエ・プラ/ライアン・ブリスコが名を連ねている。チームはル・マン24時間レースに2台目として709号車を投入、エントリーリストではピポ・デラーニ/リチャード・ウエストブルック/フランク・マイルーがドライブする予定となっている。


 709号車はイタリアのポディウム・アドバンスド・テクノロジーズに送られ、ル・マンに向けて準備が進められる。708号車は3月7日、開幕前週のプロローグテストに備え、アメリカ・セブリングに到着している。グリッケンハウスはオフシーズンの間、2台のLMH車両をニューヨーク州北部の施設に保管し、イタリアからのクルーが作業にあたっていた。

初参戦のル・マン24時間レースで総合4位となったグリッケンハウス・レーシングの708号車グリッケンハウス007 LMH

AUTOSPORT web

「ブレーキ」をもっと詳しく

「ブレーキ」のニュース

「ブレーキ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ