横浜FMを救ったキューウェル監督の英断。緊急事態乗り越えACL4強入り

2024年3月15日(金)14時0分 FOOTBALL TRIBE

宮市亮(左)ハリー・キューウェル監督(中)渡辺皓太(右)写真:Getty Images

AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2023/24の準々決勝第2戦が3月13日に行われ、横浜F・マリノスが山東泰山に1-0で勝利した。これにより3月6日に開催された第1戦との合計スコアが3-1となり、横浜FMの準決勝(ベスト4)進出が確定している。


両チーム無得点で迎えた後半2分、横浜FMのDF永戸勝也が敵陣左サイドでボールをコントロールしようとしたところ、山東DFトン・レイの足を踏んでしまう。この反則直後、前半に警告を受けていた永戸に再びイエローカード及びレッドカードが提示され、横浜FMは10人での戦いを余儀なくされた。


数的不利の状況下で後半30分に先制し、これ以降も山東の猛攻を凌いだ横浜FM。この背景には、昨年12月にケヴィン・マスカット前監督からチームを引き継いだハリー・キューウェル現監督による、ある英断があった。


横浜FMがいかにして勝利を手繰り寄せたのか。ここでは横浜国際総合競技場にて行われた準々決勝第2戦を振り返るとともに、現地取材で得たキューウェル監督と同クラブMF渡辺皓太の試合後コメントを紹介。そのうえで同クラブの勝因を検証・論評していく。




横浜F・マリノスvs山東泰山、先発メンバー

機能しなかった山東の[4-1-2-3]


本拠地での第1戦を1-2で落とした山東は、まず[4-1-2-3]の布陣で横浜FMに対抗。クリサンとフェルナンジーニョの両FW、及びMFバレリ・カザイシュビリの3トップを起点にハイプレスを仕掛けると思いきや、自陣へ撤退。ゆえに横浜FMがキックオフ直後から攻め込んだ。


また、山東は[4-1-2-3]の泣きどころである中盤の底の選手(DFガオ・ジュンイー)の両脇を埋めきれず、ここを横浜FMのFWアンデルソン・ロペスやFW植中朝日、渡辺皓太にキックオフ直後から突かれる。このスペースをインサイドハーフとセンターバックのどちらが守るのか。この点が曖昧だった。




山東は布陣を微調整し、喜田を捕捉し始めた

功を奏した山東の微調整


守備が機能していないことを受けてか、山東は前半途中に基本布陣を[4-1-2-3]から[4-2-3-1]に近い形へ微調整。これによりMFポン・シンリーとMFリー・ユェンイーのいずれかがトップ下を務め、基本布陣[4-1-2-3]の横浜FMのMF喜田拓也(中盤の底)を捕捉するように。また、[4-1-2-3]では埋めきれなかったセンターバック手前のスペースを2ボランチにしたことで守れるようになり、ゆえに横浜FMの攻撃が停滞し始めた。




永戸の退場により、横浜FMは[4-3-2]の守備隊形を形成

後半に難局を迎えた横浜FM


横浜FMが攻め手を探るなか迎えた後半2分、同クラブDF永戸がこの日2度目の警告を受け退場。布陣を組み直す必要性が出てきたなかで、キューウェル監督のある決断が勝敗の分かれ目となった。


4バックのチームがひとり退場者を出した場合、[4-4-1]の守備隊形を敷くのがサッカー界では主流だが、この日キューウェル監督が選んだのは[4-3-2]。永戸の退場直後は[4-4-1]の隊形で構えたが、後半8分にDF渡邊泰基とMF山根陸を投入し、布陣を[4-3-2]へ組み直し。ロペスと宮市亮(前半43分より出場)の両FWを最前線に残し、速攻からの得点を狙った。




横浜F・マリノス FW宮市亮 写真:Getty Images

威力を発揮した[4-3-2]


[4-4-1]ではなく[4-3-2]。このキューウェル監督の決断が、横浜FMの最大の勝因だ。


[4-4-1]であれば4バックと4人の中盤でサイドと中央を満遍なく埋められるが、最前線がひとりになるため、奪ったボールを速攻へ繋げにくい。また、山東の布陣が4バックのため、相手2センターバックと横浜FMのワントップで1対2の数的不利が発生する。これを山東に利用され、2センターバックを起点にボールを自由に運ばれたり、パスを好き放題散らされる可能性があった。


キューウェル監督が[4-3-2]を選んだことで、相手2センターバックと横浜FMの最前線が同数に。ロペスと宮市(2トップ)が相手2センターバックの配球やボール運びを制限し、山東のパスワークをサイドからに限定。山東の空中戦は脅威だったが、横浜FMとしてはこれさえ凌げば良い展開となった。


迎えた後半30分、横浜FMのDF松原健(右サイドバック)が放ったロングパスに宮市が反応。同選手が敵陣右サイドでボールを収め、ペナルティエリア右隅へ走った山根にパスを送ると、山根がすかさずクロスボールを供給。このパスに逆サイドで待っていたロペスがダイレクトボレーで合わせ、横浜FMが先制した。


後半35分にも快足FW宮市がロペスのヘディングパスに反応し、敵陣ゴール前で山東DFガオ・ジュンイーと並走。相手GKワン・ダーレイとの1対1になりかけたところで転倒した。


オンフィールド・レビュー(※)の末、主審はガオと宮市が接触したと判断。これが著しく不正なプレーと見なされ、ガオにはレッドカードが提示されている(退場理由は公式記録より)。横浜FMの先制ゴールと相手選手を退場に追いやった場面は、宮市とロペスを前線に残す[4-3-2]への布陣変更を決断したキューウェル監督によってもたらされたと言えるだろう。


(※)ビデオアシスタントレフェリーの提案をもとに、主審が自らリプレイ映像を見て最終の判定を下すこと。


横浜F・マリノス MF渡辺皓太 写真:Getty Images

渡辺皓太「最低限のことはできた」


この試合で気を吐いたのが、後半途中から守備隊形[4-3-2]の左インサイドハーフを務めた渡辺皓太。自陣中央やサイドのみならず、相手サイドバックにも適宜プレスをかけ、山東の最終ラインからのパス回しを封印。気迫溢れる守備でチームを牽引した。


渡辺は試合後に報道陣の囲み取材に応じ、布陣変更の経緯を明かしてくれている。勝敗の分かれ目となったキューウェル監督の決断は、渡辺の存在なくしてできなかっただろう。


「(永戸の退場で)ひとり少なくなりましたけど、相手も攻めなきゃいけない展開(点を取らなければならない状況)だったので、耐えていればどこかでチャンスが来ると思っていました。ひとり少ない分みんなでハードワークして、チャンスを逃さないよう意識していました」


「(自分としては)最低限のことはできたかなと。自分が2人分走って、チームを助けたいという思いはありました。そうした姿勢を示すことで、チーム全体が下を向かずに済むと思っていましたし、(10人でも)勝ちに行く気持ちを伝えたかったです」


「布陣を[4-4-1]から[4-3-2]に変えて、自分が真ん中とサイドを必ず(埋める)。そこはうまく回った(できた)かなと。多分チェンジ(布陣変更)が良かったのだと思います。[4-3-2]にしたからこそ点を取れました」


「[4-4-1]にするかという話を(ピッチの)中でしたんですけど、自分は中盤3枚でやりたいと。(中央もサイドも)カバーできる自信はあったので、([4-3-2]で)やりたいと言いました」




横浜F・マリノス ハリー・キューウェル監督 写真:Getty Images

キューウェル監督「渡辺皓太は素晴らしかった」


キューウェル監督も試合後の会見で、筆者の質問に回答。渡辺をはじめ全選手の奮闘を称えている。クラブ史上初のACLベスト4進出は、選手への厚い信頼に基づく同監督の英断と、それに応えた選手たちによってもたらされた必然の結果だった。


ー理想とする戦い方ではなかったかもしれませんが、そのなかでも選手全員がハードワークし、点をとって勝ちきった。本当に素晴らしかったと思います。全ての選手がハードワークしたという前提でお訊きしますが、特に渡辺皓太選手の守備時の縦方向や横へのスライドが素晴らしかったですね。この点について、監督の率直な評価をお伺いしたいです。


「自分たちはこうして次のラウンドに進めますし、アジアチャンピオンズリーグも終盤に差し掛かっています。(大会)終盤になるほど相手も強くなっていきますし、簡単(な試合)ではなくなっていきます。今日のように10人になれば難しさというのはより増しましたし、仰る通りカバーリング(スペースを埋める作業)の部分で渡辺皓太も素晴らしいプレーをしてくれました。彼だけでなく喜田もそうです。上下左右に(動いて)お互いを助け合うなかで、彼らだけでなく選手たち全員で補っていく。その姿勢は本当に素晴らしかったです」


「やはりこういう大会というのは、個で勝つ(特定の個人の力だけで勝つ)というのは難しいです。一丸となってプレーするチームが勝つと自分は信じていますし、難しい試合になりましたが、最後まで諦めずプレーしたことで自分たちは次のラウンドに進めました。選手たちがどれだけやったか(奮闘したか)というのは計り知れませんし、素晴らしい試合をしてくれたと思っています」

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