歴史的逆転劇くらったPSGの悲哀。屈辱、恥、大惨事…失望のフランスメディア

3月15日(水)10時0分 フットボールチャンネル

言うなれば、まさに「カンプ・ノウの悲劇」

 UEFAチャンピオンズリーグのラウンド16でバルセロナと対戦したパリ・サンジェルマン(PSG)。1stレグでは4-0で完勝し準々決勝進出は確実と見られていたが、カンプ・ノウで行われた2ndレグでは衝撃的な逆転を許してしまった。この歴史的な「事件」を経た今、フランスは悲嘆にくれている。(取材・文:小川由紀子)

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 2月14日のCLラウンド16、PSG対バルセロナの1stレグでPSGが4-0と快勝したあと、当コラムで『このバルサ戦の夜は、エメリはPSGの指揮官に着任して初めて、枕をいつもよりほんのすこし高くして眠れたのではないか、という気がする』と書いた。

 しかし、高くした分、落ちたショックは余計に大きくなってしまった。

 1stレグに苦戦したあとでの敗退なら傷口もまだ浅かったが、UEFAさえもが『かつて1stレグに4-0で勝利して次ラウンドに勝ち抜けなかったチームは0』などと”100%”説を銘打ったあとでのこの敗退は、ショックやダメージ、などという言葉では言い表せない。

 屈辱、恥、大惨事……フランスのメディアにはありとあらゆるネガティブな単語が並んだ。

 翌日のレキップ紙の見出しは、その、”言葉では表せないようなとんでもないこと”を意味する『INQUALIFIABLE』。これは1993年のW杯欧州予選最終戦でブルガリアに試合終了直前に決勝ゴールを入れられ、1-2で敗れて94年のアメリカ大会出場を逃した翌日の紙面と同じものだという。まさに言うなれば『カンプ・ノウの悲劇』だ。

 PSGの地元パリジャン紙の翌日の一面は、“バルサを破って準々決勝進出!”を派手に扱おうとしていた目論見が外れて急遽差し替えた、という感じがアリアリの、大統領候補マクロン氏の話題で、PSGの敗退についてはその横でひっそりと報じられていた。

 ……と、直後はサッカー史に残る大逆転劇についての悲喜こもごもが語られていたが、日が経つにつれ、次第にこの敗戦が意味することについて、冷静な分析がなされ始めている。

 まずは、この大失策がカタールのPSG構想に影響するのではないかという問題だ。

 試合翌日のレキップTVでも、視聴者アンケートの結果7割以上が「ある」と回答していた。エメリ監督の去就問題もその一部だが、カタールがPSGから撤退、ということもなくはないと多くの人が考えている。

 事実アル・ケライフィ会長は、試合の翌日カタールへ飛んだ。以前から決まっていた会合とのことだが、オーナーたちに持ち帰る手土産は予想とはまったく違うものになってしまったから、ミーティングの内容も当然変わるだろう。

チーム作りの体制が一枚岩になっていないPSG

 出発前、会長はパリジャン紙に、「そんなことはありえない。我々の計画は長期的なもので、それはフットボールへの情熱、パリ市への愛に裏付けられている」と答えている。ただし会長は「シーズン後にはいくつかの修正は必要になってくるだろう」とも答えた。

 これはおそらく主にクラブ内人事についてだ。現在スポーツダイレクターを務めるオリビエ・レトンは、カタール勢参入とともに同職に就いたレオナルドから呼ばれて昨年まではアシスタント・ダイレクターについていたが、以前からクラブ内の他のスタッフと折り合いが悪く、「レトン派」「反レトン派」に分裂させる要因となっていると漏れ伝わっている。

 とくに、昨夏フットボール・ダイレクターという肩書きで雇われた元オランダ代表のパトリック・クライファートとは口をきくことすらない、とも言われ、現在のPSGは、チーム作りの体制が一枚岩になっていない状態にある。

 この冬ドラクスラーを連れてきたのもクライファートの手腕であったから、どちらかを残すとなれば、おそらく彼だろう。

 そして監督の去就については、これはアンチェロッティ、ブラン、いずれの場合とも同様に年内の交代はまずない。昨年の12月ごろだったか、成績が振るわなかった時期にカタール側はエメリを即切りたがっているという噂も流れたが、アル・ケライフィ会長が信頼をアピールして事を収めた。

 会長はこの件について「彼は着任以来、このクラブを成長させるべく尽力してくれている」と語るに留めているから来季についてはなんともいえないところだが、残る3冠——リーグタイトル、フランス杯、リーグ杯——を勝ち取ることができれば、続投の可能性も上がるだろう。

バルサ戦の戦犯にあげられたチアゴ・シウバ

 個人的にはアル・ケライフィ会長自身はエメリ監督の残留を望んでいるという感じがするが、彼に決定権があるわけではないので微妙なところ。レキップ紙などメディアの間では、ディエゴ・シメオネやマッシミリアーノ・アッレグリらの名前が次期監督候補に挙がっている。

 次に指摘されている問題点は、現チームの限界説だ。

 実際、今年のチームを見ていて思うのは、リーダー不在。主将はチアゴ・シウバだが、彼はグイグイ引っ張るというタイプではない。その場にいるだけでリーダーシップがあったイブラヒモヴィッチも去ったいま、クルザワやマルキーニョス、ルーカスといった若手やムニエなどの新加入の選手たちには精神的に頼れる支柱の存在が必要だと感じる場面が、国内の試合でもたびたびある。

 このバルサ戦のあと、お通夜のような雰囲気だったロッカールームで、ただ一人声を出して鼓舞しようと努めていたのはマクスウェルだったらしい。しかし彼も今季はサブ要員で、ピッチ上ではその役を務められない。

 その意味もあってこのバルサ戦での敗戦で戦犯にあげられているのはチアゴ・シウバだ。前半のガッツリ引いてのブロックディフェンスは、常にGKの前に張り付いていた彼のせいであり、エメリは必死にラインをあげようと指示を送っていたがシウバが引いているために他も下がらざるを得なかった(そのわりに失点は防げていない)、と。

 シウバは軽い負傷のため1stレグを欠場しており、そのときは若いキンペンベが出場した。『スピードのあるキンペンベとマルキーニョスのコンビのほうが機能していただろう。シウバを起用したのはエメリの失策』という意見もテレビや新聞の分析コーナーでさんざん取り上げられている。

 これでカンプ・ノウの雰囲気にキンペンベが飲まれたりしていたものなら、「ベテランのシウバを使うべきだった」となるだろうからこの起用説は”タラレバ話”でしかないが、シウバはこの試合に限らず、14年のW杯後のシーズンに精神面の弱さを露呈してから、信用を回復できずにいる。

国内リーグに競合相手が乏しいことのデメリット

 そしてもうひとつ、大きく浮き彫りになりつつあるのが、フランスリーグのレベルについての疑問だ。

 PSGは、文句なしにリーグアンで最強のクラブであるが、その彼らが、100%の可能性を覆されて6-1で敗れるという失態を犯した今、メディアや識者、ファンたちは、ふと自分たちのリーグの立ち位置を考えてしまった。

 昨季まで3年連続でCLベスト8進出を果たしているといっても、蓋を開ければ、グループリーグでも強豪にはそれほど勝っていないという現実が浮かび上がる。

今季はアーセナル(いまやそこまで強豪でもなくなったが……)にホームで1-1、アウェイで2-2とともにドロー。昨年はレアルに1分1敗と一度も勝っていない。一昨年はグループステージでバルサとあたり、ホームでは3-2で勝ったが、カンプ・ノウでは3-1で敗れた。

そしてその前の年に立ち返ると、グループステージの相手はアンデルレヒト、ベンフィカ、オリンピアコス。いわゆるCL上位常連国はなく、しかもベンフィカには敵陣で敗れている。ラウンド16でレヴァークーゼンとチェルシーに勝利した以外は、強豪相手に敵陣で勝ったことはこれまでもないのだ。

彼らにとって大きなデメリットは、国内リーグに競合相手が乏しいこと。現在首位にいるモナコにしても、同じ週に両軍と対戦したマルセイユのDF酒井宏樹が「PSGはケタ違いに強い。モナコならプレスをかければまだボールは奪えるけれど、PSGの選手はいなしてきますから」と圧倒的な力の差を語るように、歴然とした力の差がある。

そんなPSGだから、彼らが相手の試合では、どのクラブも恥とも思わず完全に守備モードで応戦してくる。たまにマルセイユのようにプライドに賭けて真っ向勝負を挑んだりすると、5-1などと玉砕してしまう。いくらPSGでもガチガチの守備ブロック相手には思うような攻めはできないが、オープンゲームになればなるほど、真価を発揮できるからだ。

よって彼らにとってはCL戦だけが本来の姿で戦える場所ともいえるのだが、ふだんがそんな状況だから、試合中に相手の出方に合わせて臨機応変に戦術を変更するような経験はほとんどしていない。バルサ戦のように守備ブロックで戦うなどというのも、彼らにはめずらしい姿だった。

バルサ戦直後のリーグ戦では勝利を収めるも……

 ブラン監督時代のチェルシー戦やマンチェスター・シティ戦もそうだったが、アウェイ戦になると、ふだんやりなれていない戦術を突然繰り出してきて、そして自滅する。

 これはPSGのチーム強化だけでは解決しない問題かもしれないが、リーグアンではライバルでも、UEFAランキングを引っ張るPSGにはフランスを代表するクラブとして欧州で活躍してもらいたい気持ちがサッカーファンにはある。

 リーグアン底上げを担う存在とさえいえるだけに、この歴史的大敗で、あらためて「リーグアン、ダメだ……」という空気が漂ってしまっているというわけだ。

 パリジャン紙が会長に、「このようなPSGに移籍してこようというビッグネームがいるでしょうか?」という質問を浴びせると、会長は「このクラブには20人の代表選手がいて、監督は3回ヨーロッパリーグ優勝を実現している。近い将来、世界最高クラスのトレーニング施設も完成する。トッププレーヤーというのは目先の結果ではなく、こういうことすべてを含めたクラブのプロジェクトに賛同するものなのだ」と、「問題ない」ことを強調した。

 だが、「同じサラリーなら選手はCL優勝のチャンスがあるところへ行く」というのが識者たちの意見だ。なると是が非でも、今いるカバーニ、ヴェッラッティ、マルキーニョスらの契約延長をものにする必要がある。

 この敗戦のあと、レキップのアンケートでは、87%が『今季、PSGはリーグアンで優勝できない』と答えた。バルサ戦の4日後の12日、彼らはロリアンを2-1で下したが、「対戦相手が最下位のクラブでラッキーだった」と報じる声は、なんとも虚しかった……。

(取材・文:小川由紀子【フランス】)

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