リザーブ就任は可夢偉からのオファー「最初は『半分冗談だろう』と」【中嶋一貴TGR-E副会長インタビュー】

2023年3月16日(木)10時48分 AUTOSPORT web

 2021年シーズン限りで現役を退き、2022年初頭からTGR-E(トヨタ・ガズー・レーシング・ヨーロッパ。旧TMG)の副会長に就いた中嶋一貴。彼は2023年、テスト&リザーブドライバーに就任し、レーシングカーのシートへと復帰した。


 すでに1月にはレギュラードライバーとともに2023年シーズン向けにアップデートされたGR010ハイブリッドをドライブ。さらにこの後も、テストでステアリングを握ることが決まっているという。


 気になる“ドライバー復帰”の経緯、テストで乗った最新型マシンの感触や、引き続き務めることになるチーム・マネジメントの視点から見た現状などについて、第1戦セブリング走行初日後に行われた日本メディアとのリモート取材セッションで聞いた。


■復帰後初テストは「筋肉痛が酷かった」


 昨シーズンはニック・デ・フリースが務めていたTGR・WECチームのテスト&リザーブドライバー。デ・フリースのF1参戦決定によりその座が空くことになったが、スポーツカーレースのトップカテゴリーはLMH(ル・マン・ハイパーカー)、LMDhともに盛り上がりを見せるタイミングということもあり、「ドライバー市場も非常に盛況な状況になっていて、短期・長期的に考えてうまくフィットするドライバーを見つけづらかったというのが、そもそもの出発点」と一貴副会長は説明する。


 その状況で一貴副会長にスポットを当てたのは、昨年からチーム代表とドライバーを兼務する小林可夢偉だったという。


「可夢偉が最初に言い出したんじゃないかな、という気がします。『それ(一貴副会長がテスト&リザーブ)でいいんじゃね?』みたいな感じのことを。最初言われたときは『半分冗談だろう』と思っていたんですが、意外とその冗談を真に受ける人が多く(笑)、こうなったという感じです」


 まさかの一言をきっかけにしたドライバー復帰。一度は引退を決意したゆえ、「最初はもう1回乗るということに対して『どうなんだろうなぁ』という気持ちもありました」と、自身の中では葛藤もあったようだ。


「ですが、その後チームの中とか、いろいろな人たちとそういう話をするにつれて、僕がTGR-Eにいて、リザーブもやるということに意味があるなぁと思えたので、最終的にはとくにネガティブな部分はありませんでした。他に適任がなく、必要とされて乗るのはありがたいことなので。ただ『現役復帰』と書かれると、ちょっと違和感はあります。そういう(積極的にレースを戦う)つもりはないけど、何かあったときのために準備をしなければ、という感じです」


 今後はTGR-Eに常駐する一貴副会長が、シミュレーターでのドライバーを担当する機会も増えそうだという。


「僕自身もテストで乗って、楽しく、真剣に走れる機会というのはなかなかないですし、このクルマ、結構乗っていて楽しいクルマになってきているので、そういう意味でも非常にありがたい機会をもらったな、と思っています」

セバスチャン・ブエミと談笑する中嶋一貴TGR-E副会長


 すでに1月にはヨーロッパでのテストでレギュラードライバーたちとGR010ハイブリッドをシェア。「12月の(2023年仕様の)シェイクダウンで、ドライバーたちがみんな降りてきては満面の笑みでコメントしているのを見て、『すごい変わったんだなぁ』と思っていた」と一貴副会長は言うが、各部がアップデートされたGR010を“実体験”した感触については、次のように語った。


「空力の扱いやすさであったり、軽量化の影響も大きいと思うのですが、去年までのクルマに比べて非常に俊敏というか、機敏というか、ドライバーが思ったように反応にしてくれて、かつちゃんとグリップが欲しいところでグリップを出してくれるようなクルマになったんじゃないかと思います」


「正直、同じベースなのにこんなにクルマって変わるんだ、というくらい印象も違いますし、軽量化もあってかタイヤへの攻撃性みたいなところもすごく良くなっていると思うので、一発のタイムだけではなくて、ロングランに向けてもタイヤをマネージしやすいクルマになっていると思います」


 引退した2022年は「ドライバー時代に比べたら、ほとんどしてないっていうくらいしてなかった」というトレーニングも、テストで乗ることが決まった後、年末年始は「元通りとまでは言えませんが、多少準備はしていた」と一貴副会長。1月のテストでは「まだ乗れるんだな、と安心できるくらいには」パフォーマンスを発揮することができたという。だが、さすがのル・マンウイナーもブランクを実感する瞬間はあったようだ。


「普通にダブルスティント乗れるのですが、乗ったあとの反動はそこそこあって……終わった後、3日間くらいは筋肉痛が酷かったです(笑)」


 セブリング後にTGRが行う“居残りテスト”でも一貴副会長はドライブ予定だが、バンピーな高速コースとあって「心配は(1月のテストの)倍くらい多いのですが、なんとか乗り切りたい」と本音を吐露した。

第1戦セブリングのFP2でトップタイムを記録したトヨタGAZOO Racingの7号車GR010ハイブリッド


■ポルシェ963は「バンプでの跳ねが一番大きい」


 自身のテストでのドライブはておき、チームはライバルの増える重要なシーズンを迎えている。


 3月11〜12日の公式テスト『プロローグ』、そしてレースウイークの走行初日を終えたチーム全体の状況について、一貴副会長は「順調にテストを進めることができていますし、周りに比べても非常に良いラップタイムで走れています」と語る。


「ただ、今日になってだいぶフェラーリもペースを上げてきていて、ロングランのペースを見ていると非常に油断ならない、かなり近いところにいるのではないかと思うようなパフォーマスを見せてきていますし、キャデラックも安定してタイムシート上位に顔を出しているので、おそらくセブリングのレースは彼らとの戦いになるのではないかなと思います」


 一貴副会長はまた、現状ではトヨタ、フェラーリ、キャデラックに匹敵する速さを見せていないポルシェについて、「苦労しているように外からは見えますけど……こればっかりは公式なセッションで走ってみないと、なんとも言えません」と前置きしつつ、次のように印象を語った。


「テストのときに外から見ていると、結構跳ねているというか、バンプでの跳ねが一番大きいように見えるので、なんとなく運転するのに苦労するクルマなのかな、という風には見ていますけど、どうだろう……あれが(持てるパフォーマンスの)全部ではないとは思っています。フェラーリは“プロローグは本気ではなかった”というのを今日見せてくれましたけど、ポルシェはまだそこは出てないですね」


 2023年はル・マン100周年という、スポーツカー/耐久レース界にとって特別な年となる。


 新たな役割も背負う一貴副会長はセブリングの開幕戦に向け、「ライバルが誰であれ、速さがどうであれ、まずは自分たちの戦いをしっかりとしなければいけないというのが、耐久レースの鉄則だと思いますし、我々もちょっとしたトラブルであるとかミスなんかも(テストで)起こっていないわけではないので、しっかりと僕自身もマネジメントして、チームと一緒に気を引き締めながら開幕戦を戦っていきたい」と話す。


「第4戦ル・マンは100周年の特別なレースになります。我々は周りのメーカーに比べるとテストの数をこなせていない部分もあるので、レースの中で経験を積み重ねていき、今年進化したクルマをしっかり理解して、万全の状態でル・マン24時間を戦って、100周年のトロフィーをしっかりとみなさんと一緒に掲げたいと思います」


 これまでにない立場から、どうチームを支えていくのか。『誰もが勝ちたい100周年』イヤーに、チーム内での一貴副会長にかかる期待も大きくなりそうだ。

2023年はテスト&リザーブドライバーも務めることになった中嶋一貴TGR-E副会長

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