レスター、完全復活の要因。CL8強進出にリーグ戦も連勝。岡崎が語る超守備戦術からの「解放」

3月16日(木)10時50分 フットボールチャンネル

遅すぎたラニエリの解任。疑問残る采配でチームは残留争い

 昨季のプレミアリーグで奇跡の優勝を果たしたレスター・シティ。しかし今季は残留争いを演じ、優勝に導いたクラウディオ・ラニエリ前監督は解任の憂き目にあった。それでもレスターはリーグ戦で2連勝を収め、クラブ史上初のチャンピオンズリーグでもセビージャを下して準々決勝に進出するなど完全復活を遂げている。これまでラニエリ前監督のもとで守備的な役割を与えられていた日本代表の岡崎慎司も、「解放された」と振り返っている。(取材・文:Kozo Matsuzawa / 松澤浩三【イングランド】)

———————————–

 2月23日の夜。ついに待っていたニュースが報道された。

「レスター、クラウディオ・ラニエリ監督を解任」

 すでにこのコラムでは何度も触れてきたが、今季のラニエリ前監督の采配については、疑問ばかりが浮かんでいた。選手起用と戦術的な観点からは古さばかりが目立った。さらに言えば、昨季はマンマネジメント力やモチベーターとしての資質が高い評価を受けたものの、翻って今季は、選手の求心力となるべきマネージャーとしての能力の面でも限界のように映った。

 それだけに、今回の人事は個人的には遅すぎると感じた。もともと筆者の持論は、「新監督には最低でも2年、願わくば3年を与えてあげるべき」というもので、結果がでなければ即解任という現在のサッカー界の風潮には嫌気が差している。しかし盲目的にこれをするのではなく、時間の猶予を与える際には“最低限の結果を残しつつ、将来的に向上していく可能性を感じさせるのであれば”という条件も付けるべきだとも思う。

 開幕から7か月が経過していたが、イタリア人の老将がプロデュースするサッカーに可能性を感じていたかと聞かれれば、答えは「ノー」だった。しかもそのノーには“絶対的な”と付け加えたい。

 2016年の最終戦となった12月31日のウェストハム戦で1-0と勝利し、特に前半は昨季のレスターを垣間見るプレーぶりだった。だがその2日後、イングランド北東の寒空のなかで行われたミドルズブラ戦は、0-0の引き分けで終了したとはいえ、目を覆いたくなるほどのパフォーマンスだった。相手は降格候補筆頭ともいえるチームで、指揮官のアイトール・カランカはホームであってもまず守備ありきのスタイルのサッカーを好む。

 そんなボロ(ミドルズブラの俗称)を相手に、ラニエリ前監督は中盤に3ボランチを配し、岡崎にはトップ下とは名ばかりの守備的なタスクだけを課した。前節ウエストハム戦で久々に勝利を挙げ、後半戦に向けてチームに勢いを取り戻すべき状況だったが、終始守備的なプレーを最優先して、さらに試合後の記者会見では「勝ち点1を取れて嬉しい」とのたまった。

超守備的戦術から「解放」された岡崎。レスターはリバプールに快勝

 その後1、2月は結果面においても一部メディアが「フリーフォール」と表現したように、順位表を真っ逆さまに下っていく。ボロ戦後はリーグ戦5連敗を喫し、その間得点はゼロ。勝てない以上に、あまりの内容の乏しさと戦術の定まらないラニエリ前監督の迷走ぶりに辟易させられたが、ピッチのうえの選手たちはより一層そう感じたに違いない。

 ラニエリ前監督解任後の最初の試合となったリバプール戦後、岡崎慎司は慎重に言葉を選びながら、ラニエリ政権の最終章についてこう触れている。

「(この試合で)とにかく整理したのは、相手チームじゃなくて、自分たちが前から行こうっていうこと。(これまでに足りなかったのは)前から行こうっていう、たぶん簡単なことだったと思うんですよ。でも、みんなもたぶん行きたかったと思うんですよね、心の中では。だからそれが解放されてというか。その辺はあったと思う」

 3-1で勝利したこの試合では、これまでとは大きく異なり、ハツラツと動き回る選手たちの姿があった。つまり、超守備的なラニエリ前監督のスタイルが足かせになり、積極性を失っていたのである。

 かくしてレスターのタイ人オーナーは、チャンピオンズリーグ(CL)のセビージャとのファーストレグの翌日に大ナタを振るったわけだが、英国メディアのほとんどはこのアクションを言語道断だと批判した。

 例えばガーディアン紙のチーフ・フットボールライター、ダニエル・テイラー氏は自身のコラムで、レスターのラニエリ前監督解任について、「選手が力を持ち過ぎで、監督とオーナーの間に信頼関係がなくなった。すべてはカネの時代になったから」と記している。

 確かに現代サッカーは資金力で大きくその状況は変わり、選手たちにもパワーが備わった。当然これを歓迎すべきとは考えづらいし、カネのせいでフットボールが悪くなった部分もあると思う。それでも、だ。実力の世界でラニエリ前監督は、2年目のレスターで自身の持つ力を発揮できなかった。もしくは、限界を露呈したのである。

 マンチェスターの両チームの試合を主に取材しているテイラー氏だが、ビッグゲームであればロンドンの強豪チームの試合に足を運び、当然今季は昨季王者であるレスターの試合にも訪れてる。レスターの本拠地であるキングパワーで何度かその姿を目にしているが、彼はいったい何を見ていたのだろうか。個人的には、レスターの戦いぶりをしっかりと見ていれば、このような結論には至らないはずだと感じてしまう。

主力選手のラニエリに対する“造反報道”は真実だったか?

 もちろん、ほかにも多くの識者がこの一件に関しては物申した。すでに方々で報道されているように、クラブOBで生粋のレスターファンであるガリー・リネカーは「間違った行いだ」と一刀両断し、解任のニュースが出た翌日に『BBC』のインタビューで「昨晩は涙を流した。クラウディオのために、フットボールのために、そして私のクラブのために…」と、クラブ、いやサッカーにおける歴史に残る偉業を果たした監督解任を憂いだ。

 しかしこれらはあくまでノスタルジアであり、ロマンチシズムだ。上述したとおり、筆者も短絡的な監督交代には大反対なのは同じである。

 だがラニエリ前監督のチームは瀕死の状態にあった。もともと「今季は残留がノルマだ」と話しており、オーナーも同意していたようだった。そのため、このターゲット成就に向けて指揮官には立て直しの機会が何度も与えられ、選手獲得のために十分な予算も渡された。しかしこれらのチャンスを生かせずに降格圏内にチームを引きずり込んだ張本人はラニエリ自身で、それに加えてそんな状況から抜け出す手立てがまるで見つけられなくなっていた。

 過去の資料を見ると、優勝チームが翌シーズンに降格したのは1937/38シーズンのマンチェスター・シティの例があるのみだった。ラニエリ政権下最後のリーグ戦となった2月12日のスウォンジー戦もひどい内容だったが、さらにその後のFAカップでは、試合途中で退場者を出して一人少なくなっていた下部リーグ所属のミルウォールにも敗戦。そしてCLセビージャ戦も、終始相手ペースのまま1-2で負けていた。

 また主力選手の造反が話題になった。これに対してGKのキャスパー・シュマイケルとエースストライカーのジェイミー・ヴァーディーは、「クラウディオを尊敬している。絶対になかったことだ」と反論したが、まるで影響がなかったとは考えづらい。

 番記者から聞いた話を総合的にまとめると、一部選手がオーナーと対話の場を持ったのは確かのようだ。そこでは、あくまで推測になってしまうが、オーナーに聞かれた選手たちは現状に対する不安と不満について相談した。そこから先は経営陣の判断であり、選手側としては解任要求した覚えはないと考えてもおかしくはない。しかしオーナーとしては、選手の信頼を失ったと考えて早急な対応の必要性を感じたのではないだろうか。

CLでも逆転で準々決勝進出。岡崎が掴んだ手応え

 いずれにしろ、ラニエリ前監督のレガシーはこれからも残る。彼はレスターをトップリーグで優勝に導いた唯一無二の監督で、解任を報告する声明文で経営陣は「クラブ史上最高の監督」と称している。それは決して変わることのない事実だ。

 しかしリアリティーに目を戻すと、チームは開幕から波に乗ることが一度もなく、年明けからは不振を極め、降格ゾーンにも落ち込んだ。苦渋の選択だったが、プレミアリーグに残留するためには必要な一手だったと考えたのである。

 そしてこの決断は、ここまでのところは完璧に奏功している。助監督から格上げされて暫定監督となったクレイグ・シェイクスピア(その後シーズン終了まで指揮を執ることが決定)は、すぐさまメンバーを昨季のミラクル・レスター仕様に戻した。すなわちチェルシーへ移籍したエンゴロ・カンテをウィルフレッド・ヌディディに替えただけで、ほかの10人の面子は変えずにシステムは昨季重用された4-4-2としたのである。

 全体的に激しいプレッシングをするようにしたことで、高い位置でボールを奪うことができるようになり、前線と中盤の選手の間にスペースがなくなった。そして、結果的にリバプール戦とハル戦の両試合を3-1でモノにしたのである。

 完璧な戦いぶりを見せたリバプール戦後、岡崎は満足した表情で、次のように解説している。

「やっぱり前からプレスでいけば、絶対にはめられると(シェイクスピア監督が)言ってくれたので、自分もやりやすかった。やっぱり2個(1人の選手だけではなく、ボールが渡った2人目のボールホルダーまで)追えば確実にそれが還元できる。今までは2個追っても、あんまり意味がなく終わるとモチベーションも下がる。それが今日は2個追うとそれがロングボールを誘って、それで(相手の流れを)切れた。かなりチームとして良い戦いができた」

 そして直近のCLセビージャとのセカンドレグでは、完全に昨季のレスターがキングパワーに戻り、まさかの逆転で準々決勝進出を決めている。ここでも、岡崎は高いワークレートで勝利に貢献している。

完全復活を遂げた昨季王者。ファンの夢はいつまで続くか

 解任後の3戦を見ているといまのレスターは完全復活を遂げたように見える。しかしサッカーは生き物である。今後これが続くかはわからない。いまだに今季のレスターはアウェイで勝利がないままだ。

 だがリバプール戦後の岡崎は、ここが新たなスタート地点だと考えていると語った。

「またチームが整理されて、自分がそこにチャレンジできるっていうのは、やっとスタートできるっていう部分は、自分はあると思います」。そのうえで、「ゴールをすることを忘れずにやっていく」ことが不動のレギュラーになるための最短の近道だと考えている。

 遅ればせながら目を覚ました昨季王者は今後リーグ戦ではどこまで順位を伸ばし、CLでもファンに夢を見続けさせることができるのか。そして岡崎は、運動量だけではなく、ゴールでもチームに貢献できるのか。

 シーズンは佳境を迎えるが、昨季とはまた違った意味で、レスターから目を離せない状況になりそうだ。

(取材・文:Kozo Matsuzawa / 松澤浩三【イングランド】)

フットボールチャンネル

「レスター」をもっと詳しく

「レスター」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ