女子サッカー発展の起爆剤は“女性らしさ”? 男女の違いを無視した「平等」による弊害

3月17日(木)10時0分 フットボールチャンネル

「女子サッカーを文化に」の実現には何が必要?

 アジア予選で敗退し、リオデジャネイロ五輪への出場権を逃したなでしこジャパン。「女子サッカーを文化に」ということがしばしば語られるが、どのような方策によってそれは達成されるのだろうか。「男女の違い」をキーワードに、2つの提案をする。(文:鈴木肇)

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「男子サッカーと女子サッカーを比べることは出来ない」

 2013年12月、スウェーデン代表FWズラタン・イブラヒモビッチが自国のメディアに対して上記のような発言をしたことが大きな波紋を呼んだ。これは「女子選手の個人的偉業には高級車ではなく俺のサイン入り自転車をやるよ」という「イブラ節」とセットで報じられたことによってゴシップ的なニュースとして扱われてしまったのだが、男子サッカーと女子サッカーを考えた場合、とても示唆に富んだコメントである。

 周知のとおり、なでしこジャパンはリオデジャネイロ五輪のアジア予選で敗退し、本大会への出場権を逃した。これを受けて、女子サッカーの人気が低下するのではないかと危惧する声は少なくない。

 女子サッカーリーグは14日、三井住友カードらこれまでのスポンサーと継続して契約を結び、新たに三越伊勢丹ホールディングスと契約したことを発表した。だが、相次ぐスポンサー撤退や観客数の減少が今後ないとも言い切れない。

 よく「女子サッカーを文化に」という言葉を目にする。だが「文化にするためにはどうすればよいか」という視点が決定的に欠けているように思えてならない。今後、日本だけでなく世界の女子サッカーがさらに発展していくにはどうすればよいか。そのためには、女子サッカーを男子サッカーと別のスポーツとしてとらえてみるのもよいかもしれない。その点をふまえて、ここでは2つ提案したい。

ユニフォームにミニスカートを採用

 1点目は、ユニフォームをより“女性らしく”することだ。

 2008年11月、オランダの「FCデ・ラクト」というクラブが大きな注目を集めた。選手たちの要望によってユニフォームにミニスカートを採用したのだ。当初は規則に反するということでオランダサッカー協会の反対を受けていたが、スカートの下にホットパンツを履いていることから最終的に許可。

 この決定によってクラブの人気は爆発的に上がったという。選手いわく「従来の男性向けショーツよりもはるかに優雅だし、より快適だ」とのことで、スカートだから動きづらいということはないようだ。

 スカートは極端な例かもしれない。だが、“女性らしさ”を押し出したユニフォームを試験的に取り入れるのは一考の価値があるのではないか。ここで、ゴルフの例を紹介したい。

「男性の趣味」というイメージが強かったゴルフだが、近年は女性の間で人気が急増しているという。その理由のひとつに宮里藍上田桃子といった、華やかな色使いと洗練されたデザインのウェアを身にまとった女子プロゴルファーの出現が女性たちのゴルフへの関心を高めたと言われている。

 日本サッカー協会前専務理事の平田竹男氏は著書『なでしこジャパンはなぜ世界一になれたのか』において、専務理事として女子サッカーに携わっていたときに重視していたことは「勝利」「資金」「普及」の3つをバランスよく発展させるということであり、「あまり裾野が広くない女子サッカーの場合には、単に『勝利』を目指すだけでなく、競技人口や関心層を広げる『普及』がどうしても必要だと考えていました」と記している。

 普及のために重要なカギは、女性からの人気を獲得することである。スポンサーとサポーターの2つの視点から女子サッカーの歴史を記した石井和裕氏の『サポーター席からスポンサー席から:女子サッカー 僕の反省と情熱』に「同性の支持を得られない女性スポーツは普及しない」とある。私はこの意見に同意する。

競技規則を男性と同一にする必要はあるか

 とはいえ、ピッチ外の点が変わっても、肝心の競技自体に娯楽性が感じられなければ人気は一時的なもので終わってしまう恐れがある。そこで2点目に挙げたいのが、競技規則の変更だ。女性の運動面や身体面を考慮したルールに改正することが必要だと考える。具体的にはボールサイズの変更や試合時間の短縮、ハード面で困難かもしれないがゴールサイズやピッチコートの縮小化だ。

 1895年にイングランドで世界最初の女子サッカークラブが誕生して以来、女子サッカーは今日まで少しずつではあるが発展してきたわけだが、ルールは男子と同じではなかった。日本では、全日本女子サッカー選手権(2012年より皇后杯に名称変更)も、1980年の第1回大会と続く第2回大会では8人制で行われ、試合時間は25分ハーフ、使用ボールは4号球、ゴールはジュニア用のものを使用していた。

 女子サッカーの大きな転機となったのが、1986年にメキシコシティで開かれたFIFA総会だ。ノルウェーサッカー協会を代表して出席したエレン・ヴィレ氏が「人類の半数は女性である。FIFAは女子サッカーにもっと力を入れるべきだ」と演説し、女子W杯の開催、五輪種目への女子サッカーの追加、男女同一ルールの適用を提案した。女子の国際大会開催を訴えたのは良かったが、同一ルールの適用に関しては、女性と男性の違いを無視してしまった結果のように思う。

 バレーボールでは、1999年のW杯より、1セット15点でサーブ権を持つチームがラリーに勝った場合のみ点数が入るサイドアウト制から、サーブ権の有無にかかわらず点数が入る1セット25点(第5セットのみ15点制)のラリーポイント制に変わった。

 変更の理由のひとつが、選手の体力的な問題だ。変更前はサーブ権のある方にしか点が入らず、決着がつかないまま試合時間が長くなるケースが少なくなかった。だが、ルール変更の結果、1試合ごとの試合平均時間は約20分短縮され、そのおかげで選手の体力が持続し、選手寿命が延びるという効果をもたらした。実際、30歳を過ぎてもプレーを続けた選手のなかには「長く現役を続けられたのはラリーポイント制のおかげ」と話している選手もいる(Sports Graphic Number PLUS 2006年12月号『【永久保存版】全日本バレーのすべて』より)。

状況改善のために必要な、「タブーなき」議論

 ボールについても他スポーツを例に挙げると、ハンドボールの場合、一般男子は3号球、女子は2号球を使用し、バスケットボールでは一般男子は7号球が、女子は6号球が採用されている。バレーボールに関してはボールの大きさは男女同じだが、ネットの高さは一 般男子が2.43メートルであるのに対し、女子は2.24メートルだ。男性と女性の運動能力の差を考慮したルール適用であることは言うまでもないだろう。

 一般的に、女子サッカーのトップレベルの試合におけるボールの移動時間は男子のそれと比較して約10〜15%長いと言われている。プレーのスピード性を上げることによってより娯楽性のある試合を披露できるかもしれないという動きがあったのがスウェーデン。

 2010年夏、同国サッカー協会のラーシュ・オーケ・ラグレッル会長(当時)が女子サッカーの地位と人気を上げるためにボールのサイズを変更するという提案をし、著名ジャーナリスト/作家のヤン・ギュイー氏もボールとピッチを小さくすべきだと主張したことがあった。最終的にこの案は実現しなかったのだが、女性の条件に合ったルール適用を試す価値はあるのではないか。

 以上2点を挙げた。異論や反論はもちろんあるだろう。スポーツに“女性らしさ”を持ち出すのは不適切かもしれないし、ルール変更は現実的ではないかもしれない。大事なのは、決して良いとはいえない女子サッカーの環境を改善させるにはどうすればいいのか、ということをつねに意識して議論していくことではないか。

 2012年秋、スウェーデンのリンハムン・ブンケフロー2007というクラブチームが、男女トップチームに所属する選手の給与を同一にするという決定を下し、賛否両論を巻き起こしたことがあった。

 その後筆者はクラブの担当者に会って取材をしたのだが、あわせて、この件で専門家の意見も聞こうと思い、スウェーデン最大のサッカー誌『Offside』のヨハン・オレニウス編集長にもインタビューをした。

 オレニウス氏は「チケット収入やスポンサー収益という点で男子選手のほうがクラブに利益をもたらしている。市場価値を考えればクラブの決定は不公平だ」としながらも、「(女子サッカー選手の待遇という)重要なテーマについて議論を巻き起こしたことはよかった」と話した。

 女子サッカーを文化にするには具体的に何をすべきか。われわれは真剣に考えていかなければならない。

(文:鈴木肇)

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