レスターが回帰した「ファイトボール」。相手にフットボールをさせない岡崎慎司の存在【西部の目】

3月17日(金)12時32分 フットボールチャンネル

レスターが仕掛けた“現代版”ファイトボール

 プレミアリーグを制したレスターが戻ってきた。14日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦の2ndレグ。アウェイでの1stレグを落としていたレスターは、もはや時代遅れとも言われるような戦術を採用してセビージャを迎え撃った。自陣に築かれた強固な砦は稀代の戦術家ホルヘ・サンパオリでも落とせず。成し遂げんとした志をただ一度の敗北によって捨ててはいけない、という決意が勝利を呼び込んだ。(文:西部謙司)

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 かつてウェンブリースタジアムのロッカールームで、アウェイチームは青ざめていたという。ここでの試合では、背後からのタックルとGKへのチャージが黙認されていたからだそうだ。絶え間ないプレッシャー、(他国からみれば)乱暴なタックル、ハイクロスの雨……ある著名な英国人記者はイングランドのプレーを「ファイトボール」と評した。

 ファイトボールに関して、イングランドは世界一だった。ただ、ゲームがフットボールにスローダウンするとそうではない。イングランド代表監督だったテリー・ヴェナブルズが、相手がイングランドの勢いを「そぎ落とす」ことにすっかり慣れてしまったと指摘していたのは1990年代である。

 レスターがセビージャに挑んだのは現代版の「ファイトボール」だ。

 絶え間なく相手ボールにプレッシャーをかけ、奪いとったら手間をかけずに攻める。奪った場所が自陣ならロングボールを使って前進、ロストしても再びプレス。球際は激しく、執拗。ゲームのテンポを上げ続けた。

 プレミアリーグを制したレスターが戻ってきた。クラウディオ・ラニエリ解任とともに自らの、そしてイングランド・フットボールの原点に回帰した。

 逆にいえば、セビージャはゲームをフットボールに着地させることに失敗している。ボールを空中ではなく地面に転がし、正確なパスワークでプレスを回避し、テンポを落とす。少なくとも前半はそれがうまくできなかった。

チームを支えた岡崎慎司の献身。必然だった2つのゴール

 セビージャがファイトボールをフットボールに変えられなかった要因のひとつが岡崎慎司の存在だ。プレッシャーをかけ、球際で体を張り、難しい体勢でも着実に味方へボールをつないでいた。

 レスターの圧力がフィールドを支配しはじめた26分、FKからウェズ・モーガンの先制点が決まる。ハイクロスが抜けてきた場所にいたモーガンのシュートは偶然当たっただけだが、この時間帯に押し込んでいたレスターがセットプレーを得たのは必然だった。

 後半開始から、セビージャのホルヘ・サンパオリ監督は2枚替えを決断する。右SBをガブリエル・メルカドからマリアーノへ、右サイドMFのパブロ・サラビアをステバン・ヨベティッチに交代させた。

前半のセビージャは4-2-3-1のフォーメーションだった。ステベン・エンゾンジとビセンテ・イボーラを守備的MFに配し、右SBに攻撃力のあるマリアーノより守備の強いメルカドを先発起用したのは、レスターのホームでの勢いを警戒していたからだろう。

 しかし、先行されたことで勝ち抜けには点を取らなければならなくなった。後半から空中戦に強いイボーラをトップ下に上げて、中盤でダイヤモンド型を組む4-4-2に変更する。

 後半はセビージャがボールを支配して押し込む。もともとファイトボールはその性質上90分間はもたない。53分にはセルヒオ・エスクデロのミドルシュートがバーを叩く。ところがその直後にレスターの2点目。岡崎のシュートの跳ね返りを拾ったリヤド・マフレズがハイクロスを放り込むと、クリアボールがほぼ正面にいたマーク・オルブライトンに渡り、左足で決めた。

セビージャ“2枚看板”の失策。レスターの理想的な勝利

 2-0となって自陣に立て籠もるレスター。セビージャは包囲戦からクロスを合わせようとするが、ターゲットのイボーラには届かない。かつてのハイクロス王国は、当然それに対する守備が強い。球際で足を差し込んでいく強さ、クロスをぎりぎりで阻止するブロック……レスターが粘る。

 63分に疲労した岡崎がイスラム・スリマニと代わる。ファイトボールはおよそ60分で消耗する。岡崎の交代は象徴的で、ここからがレスターの正念場だった。

 セビージャの圧倒的な攻勢が続く中、致命的な出来事が起こる。サミル・ナスリがジェイミー・ヴァーディーの挑発にり、互いに額をぶつけ合う。するとヴァーディーが大げさにのけぞり、両者にイエローカードが示された。

 これが2枚目だったナスリは退場に。セビージャは攻撃の中枢を失った。この状態で、インスピレーション部門を一手に引き受けるナスリの退場は痛恨である。

 ただ、もう一度セビージャにチャンスが巡ってくる。ビトーロが裏へ抜け出してファウルされPKを得た。すでに10人とはいえ、これを決めれば延長へ持ち込める可能性があった。

 ところが、エンゾンジのシュートはカスパー・シュマイケルに読み切られてストップされる。牽引車だったナスリとエンゾンジのミスは、セビージャの日でないことを表していた。そしてサンパオリ監督も退席処分。終盤にセビージャのガス欠から、レスターが3回の決定機を作り、すべて外す。

 合計スコアは3-2のまま。ファイトボールでペースをつかんでいるうちに必要だった先制点を前半にとり、後半を耐え抜いたレスターの理想的な勝利となった。

(文:西部謙司)

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