角田裕毅の最高の1ラップとレース戦略への私見。雨で豹変するメルボルンのコース【中野信治のF1分析/第1戦】

2025年3月20日(木)6時0分 AUTOSPORT web


 2025年F1開幕戦となる第1戦オーストラリアGPは、ランド・ノリス(マクラーレン)がポール・トゥ・ウインでキャリア通算5勝目を飾りました。


 今回は予選で5番手、決勝は戦略が外れ入賞には届かずも好走を見せた角田裕毅(レーシングブルズ)、そして雨により多くの新人が罠にハマったアルバート・パーク・サーキットの難しさについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。



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 マクラーレンのノリスが2024年シーズンから続く好調ぶりを発揮し、難しいコンディションとなった開幕戦をポール・トゥ・ウインで終えましたが、やはり私を含む日本のファンにとって今回のオーストラリアGPの主役は裕毅だったでしょう。


 レーシングブルズは持ち込みのセットアップが良く、フリー走行から好ペースを見せていました。その良い流れを予選にもつなげ、裕毅がマシンのポテンシャルを100パーセント引き出せた結果が、予選5番手という結果を生みました。


 あの予選Q3での最後のアタックは、本当に素晴らしい集中力だったと思います。F1ドライバーはグランプリのたびに予選アタックを行いますが、そうそう完璧なラップを刻むことはできません。オーストアリアGPでのQ3最後のラップは、裕毅のこれまでの経験のなかでも最高の1ラップに数えられるアタックだったのではないかと思います。



2025年F1第1戦オーストラリアGP 角田裕毅(レーシングブルズ)

 レーシングブルズにとって、シーズン開幕戦から予選でフェラーリ2台の前という好位置につけたことは凄くポジティブです。レーシングブルズは開幕前のテストではしっかりとロングラン、レースディスタンスに取り組み、一発の速さというよりはクルマをじっくりと仕上げる方向に時間を割いているように見え、一発の速さがどれほどのものなのかは正直わかりませんでした。ただ今回の開幕戦で、マシンのポテンシャルが高いことが証明され、レーシングブルズに流れが来ていると感じるには十分でした。


 決勝でも裕毅は完璧な仕事ぶりを見せ、2度目のリスタート後にはシャルル・ルクレール(フェラーリ)から5番手を取り戻すなど、気持ちの良い走りを見せていました。ただ、決勝はその後も雨が降ったり止んだりで路面コンディションが目まぐるしく変わり、どのチームにも先を読み切ることが困難な状況となります。



2025年F1第1戦オーストラリアGP シャルル・ルクレール(フェラーリ)から5番手を取り戻した角田裕毅(レーシングブルズ)

 裕毅のドライビングはほぼ100点と言える完璧な仕事ぶりだったと思います。今回は雨が強まるなかコースにステイし、結果的に入賞を逃すことにはなりましたが、先を読み切ることができなかったチームの責任だとは私は簡単に断言はできません。というのも、あと少し歯車が良い方向にズレていれば、レーシングブルズの判断は、裕毅の初表彰台につながった可能性が十分にあったからです。結果的にその読みは外してしまいましたが、5位より上の、さらなる上位浮上を狙っての判断だったので、必ずしもネガティブなトライではなかったと思っています。


 44周目に2番手のオスカー・ピアストリ(マクラーレン)がターン13でスピンを喫し、それを見たノリスらは一斉にピットに滑り込むなか数台がステイを選択し、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が首位、裕毅が2番手で45周目を迎えました。



2025年F1第1戦オーストラリアGP 角田裕毅(レーシングブルズ)

 フェルスタッペンと裕毅はこの時ミディアムタイヤを履いていたこともあり、少しの雨であれば走り切れるのではないかという欲があったのかもしれません。それに、レーシングブルズ陣営にとっては兄弟チームであるレッドブルのフェルスタッペンの作戦(対ノリスの戦い)をフォローしようという意図もあったかもしれません。


 そういったことから、レーシングブルズのステイの判断は全部がネガティブではないと感じます。むしろ、今回のようなトライは今後もどんどんしてほしいなと思います。今回の決勝、あのステイの判断に関しては外しましたが、それ以外の部分ではチームも裕毅も素晴らしい仕事ぶりを見せていますし、クルマのポテンシャルの高さも証明しました。



2025年F1第1戦オーストラリアGP 角田裕毅(レーシングブルズ)

 予選でのフェルスタッペンと裕毅の比較データも見ましたが、レーシングブルズのマシンはレッドブルに対し、大きく溝を開けられている訳ではありませんでした。高速コーナーではレッドブルが上ですが、低速コーナーではレーシングブルズがレッドブルを上回るほどのパフォーマンスを見せています。


 兄弟チームではありますが、今後のレッドブルとレーシングブルズの戦いは個人的には楽しみです。レッドブルにはリアム・ローソンがおり、裕毅とローソンを直接的に比較することもできますからね。それが何を意味するのかは……(苦笑)、言わずもがなだと思います。



2025年F1第1戦オーストラリアGP リアム・ローソン(レッドブル)

■経験の差が出る。雨で豹変するアルバート・パーク・サーキットの難しさ


 決勝で雨が降ったこともあり、新人ドライバーの多くがクラッシュを喫するなど苦戦していましたね。アルバート・パーク・サーキットは雨が降ると本当に難しくなります。まず、アルバート・パーク・サーキットは公園の周回路(公道)と駐車場を繋いだ半公道コースのため、路面にバンクがあまりついていません。


 路面にバンクがあればレーシングラインを選ぶ選択肢が生まれますが、バンクがないとレーシングラインが1本に絞られてしまいます。さらに、ランオフエリアがほとんどないことで、ミスに対する許容範囲が極端に低い。また、路面のミュー(摩擦係数)も低め、路面そのものにうねりがあることもあって、アルバート・パーク・サーキットはかなりリスキーなコースです。


 今回は雨に加え、路面のうねりを読み切れず、コーナーの立ち上がりや低速域からの加速で変にパワーをかけてしまったことでミスを犯してしまった新人が少なくはなかったと思います。新人たちはFIA F2を経験してコースを知っているかもしれませんが、F1とFIA F2ではパワーの掛け方がぜんぜん異なります。


 ドライであれば新人にとってもそこまで難しい状況ではなかったと思います。ただ、ウエットコンディションではパワーユニット(PU)の使い方、パワーの出し方からそのパワーに対するクルマの反応まで、F1とFIA F2ではすべてが別物になります。そこは、やはり経験の差が出るなと改めて思いました。



2025年F1第1戦オーストラリアGP アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)

 ただ、そんななかでも16番手から4位に入った新人アンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)は、一度はスピンを喫した場面もありましたが、総じて素晴らしい仕事をしたと思います。あのスピンに関してはコースサイドの芝生にリヤタイヤを落としたことが要因ですが、FIA F2からステアップアップをした新人たちは結構こういったミスをしていましたね。


 F1とFIA F2ではパワーも違いますが、車幅もリヤタイヤの幅も異なります。また、アルバート・パーク・サーキットはコースの幅が狭いため、ドライバーには狭いなかでコースを広く使いたいという意識が働きますが、同時にFIA F2時代に馴染んでいた癖が無意識のうちに浮上し、それがミスのきっかけのひとつになったかもしれません。


 さて、次戦中国GPは今季初の完全なパーマネント(常設)コースとなる、上海インターナショナル・サーキットが舞台となります。低速コーナーから、しっかりとダウンフォースを使う中低速コーナーもあり、本来のマシンパフォーマンスを知る機会になりそうです。また、鈴鹿サーキットで開催される第3戦日本GPを占う意味でも、そして2025年シーズン全体を占う意味でもひとつの指標となる一戦になると感じています。



2025年F1第2戦中国GPの舞台となる上海インターナショナル・サーキット(写真は2024年開催時)

【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)


1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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