戦術大国イタリアのトレンド。もはや“カテナチオ”だけではない、監督たちのマニアぶり

3月21日(火)11時25分 フットボールチャンネル

変化するイタリアの戦術トレンド。セリエAから消えた“カテナチオ”

 かつては「カテナチオ」と呼ばれる堅守でワールドカップを制し、守備戦術の先駆けとして知られていたイタリア。しかし、近年のイタリアは決して守備戦術だけではない。攻撃にも様々な戦術が用いられるようになり、もはや「カテナチオ」と呼ばれる守備戦術を採用するセリエAのチームは見られなくなった。では、現在のセリエAではどのような戦術がトレンドとなっているのだろうか? 戦術大国イタリアの今に迫る。(文:神尾光臣【ミラノ】)

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「イタリアでは、戦術が支配を効かせる状態から脱却しつつある。以前は2番は2番の、4番なら4番の、そして9番なら9番の役割に徹することが求められていたが、今ではプレーを構築することがサッカーの中心にある。ナポリやフィオレンティーナ、エンポリやサッスオーロのようなクラブを思い浮かべるが、それらはそういったクラブだ」

 昨年1月の『ラ・レプッブリカ』紙上のインタビューで、あのゾーンプレスをミランに持ち込んだアリゴ・サッキはそんなことを言っていた。

 これまでイタリアサッカーといえば、戦術的な守備のイメージが強かった。攻撃は2、3人のアタッカーに任せてあとは守備に徹する。しかもそれぞれの選手にはゾーンを維持するため、あるいは相手選手をマークするための厳しいタスクが割り振られていた。そうやって、なりふり構わず守備を固める様子は錠前になぞられ「カテナチオ」と呼ばれた。その伝統の中で攻撃サッカーを展開するチームは少数派だったが、近年はその数が徐々に増えた。

 そしてサッキの発言から1年後、その傾向は一層強くなった。今や逆に、カテナチオに徹するクラブを見つけるのは難しい。堅守を武器とするユベントスも、最近はもっぱら攻撃的な選手を多く並べたフォーメーションで戦っている。降格圏に沈む下位チームも攻撃的に戦う。イタリア代表を含め、カテナチオの守備戦術オンリーで戦っているチームなど、もはやセリエAには存在しないのである。

 ただしそれは、決して攻撃のために戦術上の縛りをなくした、ということを意味しない。むしろ攻守両面を機能させるために戦術はさらに細分化しており、漫然と戦うチームは通用していない。フランク・デ・ブール監督のもとラインを高く上げたポゼッションサッカーを目指したのはいいが、結果が出ずに解任の憂き目にあった今季序盤のインテルが良い例である。

 その戦術的なトレンドとは何か。集約すれば、次の通りになる。

アタッカーも厳しい守備に参加。全チームが採用するトレンド

1.GKを除いた10人による守備組織の形成

 攻撃的になったといっても、守備を全く考えなくなったというわけではない。むしろ前線のアタッカーも厳しい守備のタスクが課せられるようになった。以前よりも最終ラインを上げて、高い位置で相手の攻撃を捕まえるようになったからこそ、前線の守備参加は重要なものとなった。

 例えば4-3-3のシステムを例にとってみれば、両ウイングは中盤まで引いてサイドのスペースを埋めて4-5-1状になる。サイドにも中央のエリアにも数的な不利は発生せず、DFラインの前のスペースはきっちりと埋められ、ボールホルダーを複数の選手で厳しく囲いに行く。もちろんセンターフォワードに配置される選手にも、相手のパスの出所を潰すためのプレスが求められるようになったのは言うまでもない。

 ナポリやミランにトリノ、またサッスオーロなど4-3-3で戦うチームを中心に、今は全クラブがほぼこのトレンドに沿った守備をしている。そして攻撃にも、それを破るための戦術的な工夫が必要となった。

DFラインで行われる攻撃の組み立て。速攻重視のチームも

2.後方での組み立てと縦への速攻

 前線はともかく、中盤にもスペースがない。そのために組み立ては、DFラインから行うようになった。ユベントスのレオナルド・ボヌッチやフィオレンティーナのゴンザロ・ロドリゲス、またナポリのラウル・アルビオルなど足技の上手いセンターバックを配置することはもちろん、そのような人材がいなくとも、フォーメーション練習を通して後方からの組み立てが叩き込まれるようになった。

 そして、ハーフウェイライン上からは手数を減らし、縦への速攻を仕掛ける。前述の通り高い位置から組まれた相手の守備組織を破るためだ。今季のインテルは、そのトレンドに沿って復調した。デ・ブール監督の時代は高い位置でのボールポゼッションを敷いたものの、相手のプレスに捕まっていた。

 一方で後任のステファーノ・ピオーリ監督は縦へのスピードを重視。前線の選手はもとより、サイドバックにも高い位置でボールを奪いに行くことを奨励し、一度奪えばイバン・ペリシッチやアントニオ・カンドレーバを縦に走らせて一気に攻め込ませる。インテルの緩慢な攻撃はこのようにして解消された。

 ルチャーノ・スパレッティ監督率いる今のローマもまた速攻を重視している。トップ下にはテクニカルなアタッカーではなく、激しく相手に当たりに行きながら前線に飛び出していけるラジャ・ナインゴランを用いて、守からへ攻へ転じるテンポの向上を図っている。また上位争いに堂々と食い込んでいるラツィオも、このトレンドに沿ったチームだ。彼らの場合は両センターバック、またアンカーのルーカス・ビリアから縦一本にパスを出し、高速アタッカーを走らせる。

時代遅れとなったシステムの固定化。戦術マニアぶりが見えるイタリアのいま

3.システムの柔軟化

 そしてこれらの戦術を実現させるため、4-4-2や4-3-3といった選手の並び、つまりシステムも固定されたものでは機能しなくなった。試合中でも3バックや4バックに切り替えるのは当然のこと、攻撃と守備で別のシステムを使い分けるチームも出現している。

 守備時には3-5-2、だが攻撃時には両ウイングバックを極端に前に上がらせて3-3-4といった風情のシステムを取らせたアントニオ・コンテ監督(現チェルシー)時代のユベントスがその先駆だが、それも伝播している。守備時には4バックで守りながら、攻撃時にはパス回しに長けた3バックを最終ラインに残すフィオレンティーナもしかり。ミランのヴィンチェンツォ・モンテッラ監督に至っては、攻撃時には前線に5人を張らせるシステムを運用している。

 また、守備においてもシステムの固定化は古くなった。ローマのナインゴランはただトップ下にいるのではなく、プレスを掛けるべき相手によって中央にもサイドにも移される。またインテルも、2トップを備えた相手には右サイドバックを中央に絞らせ、3バック状の対応をさせることがある。ジャンピエロ・ガスペリーニ監督のもとフィールドプレーヤー全員にマークを振り分けているアタランタは極端な例だが、局地的にはどのクラブもシステムを“崩し”、相手の攻撃に対応する傾向が顕著になっている。

 以前よりも攻撃的になったと言われるセリエAだが、各チーム、各監督の戦術マニアぶりは守備のみならず、別の方向で活かされるようになった。これが、戦術大国イタリアの今のトレンドである。

 キエーボやカリアリなどの地方クラブも、後方からのビルドアップや速攻を駆使し面白いサッカーを見せている。こういった駆け引きを読み取るのも、セリエA観戦の楽しみ方の一つだ。

(文:神尾光臣【ミラノ】)

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