大儀見優季が吐露した本音。“サッカーを語らない”メディアへの疑問。問われる報道姿勢

3月22日(火)16時45分 フットボールチャンネル

五輪予選期間中に現れた無責任なゴシップ記事

 リオ五輪の出場権を逃したなでしこジャパン。これまで残してきた実績が素晴らしかったこともあってか、ひとたび五輪予選出場が厳しい状況に追い込まれると、五輪予選期間中にはさながらゴシップのような報道があふれかえることとなった。本来サッカーメディアに求められる役割とは何なのか、今こそ改めて考えたい。(文・取材:小澤一郎)

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 女子サッカーのアジア最終予選を3位で終えたなでしこジャパンはリオ五輪の出場権を逃した。佐々木則夫監督が最終戦(北朝鮮戦)後に「負けた時にゴシップのような記事の内容を書くのがスポーツ新聞ではないと思います」と釘をさしたことで、記者の署名記事ではなく「特別取材班」というアンフェアな形でしかゴシップ記事を書けない一部のスポーツ新聞の報道姿勢に批判も出た。

 監督と選手の溝、主力と若手の不協和音などの信ぴょう性の薄いネタに関して、取材源の秘匿(ひとく)とは全く無関係で無責任な「ある関係者によると…」というコメントと憶測で固められたゴシップ記事が作られた。それによって最も被害を被ったのは主力の宮間あやと大儀見優季の2選手だ。

 主将の宮間にせよ、今大会からなでしこジャパンの10番を背負った大儀見にせよ、中心選手の自覚と責任感を持って、予選期間中は誠実なメディア対応を続けた。結果が出ない時、負けた時ほど選手にとってメディア対応は難しいものとなる。

 だが、彼女たちは言葉を選ぶことはあっても時間の許す限りミックスゾーンで立ち止まり、自らの言葉で伝えるべき内容を伝え続けた。彼女たちの目には、メディアの背後で彼女たちの肉声を待つファン、サポーターの姿があったはずだ。

 アジア予選最終戦から3日経った3月12日、あるイベントで大儀見に直接話しを聞く機会を得た。そこで彼女に「大会期間中、なぜあれほどまでコメントを悪用されたにもかかわらず、最後まできちんとメディア対応できたのか?」と質問した。すると彼女はこう答えた。

「んー、何でしょうね……。人としてそうではあってはならないとずっと思っていたし、どれだけ酷いことを言われてもされても、根本にあるものを大事にしなければいけないと思っていました。

『自分のため』ではなくて『チームが良くなるため』に発信しなければいけないのであれば、それを発信し続けなければいけないと自分の中で思っていました。最後までそういう姿勢を崩さず、自分の言葉で伝えるべきことを伝え抜いたという感じです。でも、TwitterもFacebookも何も見れませんでした。怖くて……」

発言者の意にそぐわないコメントの切り取り方

 イベント終了後の深夜便でドイツに戻った大儀見だが、「心身ともにズタボロです」と冗談まじりに話していた通り、しばらくはSNSやブログを見る気力も勇気もなかったに違いない。しかし、21日にアジア最終予選終了後初となるブログの更新を行なっている。

 その更新を受けて『デイリースポーツ』はすぐさま「大儀見、リオ予選中体調不良だった」という見出しの記事を配信した。大儀見はブログに一言も「体調不良」と書いていないし、実際に体調不良などではなかった。

 きちんと試合を取材していれば明らかだったが、10日間で5試合という連戦のなか、毎試合あれだけ前線で攻守にスプリントをかければ、肉体の限界を超えるのは普通のこと。実際、最終戦となる第5戦北朝鮮の前半で大儀見は内転筋を痛め、明らかにそれを気にした形で後半もプレーしていた。

 だからこそ、「最後の試合は、肉体の限界はとうに超えていた感じで かろうじて精神が肉体を引っ張っていた、そんな感覚でした」、「ようやく、少しずつ身体が正常に戻りつつあります」というブログの内容から恣意的に「体調不良」という見出しを付け、リオ五輪出場を逃した結果に対する言い訳のように見せるデイリースポーツの手法はかなり悪質なもの。それもあってか大儀見は切り取られたブログの箇所に修正を加えている。

 こうした記者は間違いなく、大会中も宮間や大儀見に面と向かって直接質問せず、ミックスゾーンで囲み取材を受ける選手のコメントを後方から盗み聞きするかのように拾っていたに違いない。

 あるいは選手コメントを記者仲間と共有する「読み合わせ」と呼ばれる手法でコメントを入手し、自らの記事内容に合わせるよう前後の文脈を無視して切り取った一部コメントを使っていく。そこには誠実にメディア対応する選手へのリスペクトもなければ、報道やサッカーに携わる者としての矜持もない。

 ブログ内で大儀見は「ちゃんと伝わることもあれば、誤解されることもある。それはそれで、自分の未熟さとしてしっかりと受け止めています」と気丈なコメントを残している。だが、SNSを見ることが「怖くて……」という本音を明かしていることからもわかる通り、一連のゴシップ記事や悪意あるコメントの使われ方に深く心を痛めたのは想像に難くない。

他国の進歩に応じて日本がトライした新戦術

 ただし、もはや一部スポーツ紙の卑劣なゴシップ記事を糾弾すること自体が時間の無駄。今回彼女が更新したブログにはゴシップ記事への悲しみや怒り以上に強いメディアへの要求が行間に含まれていた。それは「勝った時にサッカー的視点で評価され、負けた時にはサッカー的視点で質の高い批判をされるように、全力で日々精進していきたいと思います」という部分だ。

 大儀見は大会中、「結果が出てもサッカーで評価されなくて、結果が出なくても、サッカーで批判されない。サッカー選手として、これほどの屈辱はない」ということを口にした。だからこそ、ここからはなでしこジャパンのサッカーについて触れる。

 退任会見で佐々木監督は「現実的にドイツの女子W杯後、ロンドン(五輪)、年々の世界大会で本当に各国の世界レベルが、個の質も技術も上がってきています。戦術的な要素も、以前はアバウトな状況の攻守にわたっての戦術だったのが非常に密になってきた」という認識を改めて披露した。

 会見の席で日本サッカー協会の大仁邦彌会長は「なでしこスタイル」という言葉を用いて「今はなでしこスタイルを世界が真似している」というコメントを残したが、昨年3月のアルガルベカップあたりから佐々木監督は狭い距離感で攻撃ではショートパスをつないで前進する、守備では複数人で囲い込んで奪い切るサッカーだけでは世界で勝てないジレンマに立ち向かうべく新戦術を試してきた。

 具体的にはロングパスを用いた「チェンジサイド」、「高い位置での起点作り」という2つの戦術で、なでしこスタイルに内在されていた「いい(=狭い)距離感」という強みを捨てる勇気を持ったサッカーにチャレンジしてきた。

 だからこそ、オーストラリアとの最終予選初戦でDFラインが下がる傾向と重心の低いサッカーについて質問された佐々木監督は論理的な回答をしている。

「止める・蹴るの質が上がってきたのは現実にアジアでもあると思う。そこをかいくぐられてしまうと、どうしても後ろは状況が厳しくなって下がらざるを得なくなり、そういう状況があって自分たちがイニシアチブをとろうと思ったところが、第1戦などは特に、相手から守備にわたっても展開にしてもイニシアチブを取られた状況になった」

 その上でこれからのなでしこジャパンに必要なことについて佐々木監督は「個の質を上げていくこと」と述べた。具体的に個の質がどういう要素なのかまでの踏み込んだ言及はなかった。

 だがリオ五輪の出場権を獲得したオーストラリアと中国との試合において、なでしこジャパンが狭いエリアで攻守に渡りイニシアチブを握られてしまった現実からして、もはや「なでしこスタイル」、「パスサッカー」などという曖昧な言葉で日本の女子サッカーの進むべき方向を語るべきではない。

なでしこジャパンに足りなかった“個の質”

 選手やポジションによって「上げるべき個の質」の要素は変わってくるが、例えばこの1年、佐々木監督がロングボールを有効利用するべく選手一人一人のプレーエリアを広げる戦略を採った時に、技術、戦術、フィジカルの3要素でそのオーダーに応えることができたのは筆者の評価の中では大儀見優季、熊谷紗希、宇津木瑠美の3選手のみ。

 個人名を挙げて申し訳ないが、DF岩清水梓がDFラインを後ろに引っ張ってしまう現象はカナダの女子W杯でも初戦のスイス戦から出ており、一方で自陣深い位置までラインが下がった時の岩清水は前線にスピードと正確性を持ったロングパスを配球できない。そうなると必然的に高い位置での起点作りの戦術は成立しなくなる。

 韓国との第2戦で岩清水に代わって右センターバックに起用された田中明日菜は「前線の動きとスペースを認知する」という面では岩清水より多少秀でていたが、トップ下の宮間がスペースを空け、マーカーを振り切って空いたスペースにタイミングよく走りこむ大儀見を認知しながらもロングパスを入れることができなかった。

 結局のところ、この2選手は佐々木監督が求めるセンターバックとしての長いパスのレンジを技術として習得していなかったということ。それは昨年の女子W杯から個人の課題として明らかに出ていたことであるが、それを数ヶ月も同じ状態で放置していたということになる。

 これはあくまで「個の質を上げてこなかった」という一例であり、二人が今大会の敗因ではない。他の選手、たとえば大儀見にも個人としての課題は見えた。大会直前でアウトカーブのシュートに磨きをかけ自信を深めたことでインカーブの方がベターな場面でもアウトカーブのシュートに固執し、枠外に飛ばしてしまう場面が複数回あった。

ピッチ上の問題点を指摘することがなでしこの成長につながる

 大儀見、熊谷、宇津木はなでしこジャパンの中ではフィジカルに優れた選手に映るかもしれないが、彼女たちの共通点は「海外に出たことでプレーエリア、パスのレンジを広げた」ことだ。

 大儀見は12日のイベント時に「(海外では)味方のポジショニングがかなり遠いので遠くに蹴らざるを得ない。一人一人の距離感も広いから守備エリアも広くなるし、自分がプレーしなければならないエリアも当然広がる。その中で結果を出さなければいけないとなれば、プレーエリアを広げざるを得ない環境」だと説明した。

 また、「日本には日本の良さがあり、海外のチームが全てでもなければ、一概に海外の方がレベルが高いとも言えない」と前置きした上でこう続けた。

「海外に出ると結局、サッカーに向き合わないといけない。否が応でも自分自身と向き合う時間が出てくるので、精神的にも人間的にも成長できる。日本にいるとどうしても現状に満足してしまいがちな環境があると思うが、海外に行くと生活面も含めてハングリー精神を持たなければいけない」

 サッカーに限らず、現状維持は後退である。

 選手として、人間としての成長を求めて自ら厳しい環境に身を置き、そこで挑戦と創造的破壊ができる選手は、アジア最終予選を戦ったなでしこジャパンにほとんどいなかったのが実情だ。

 リオ五輪を逃し、夏の予定がぽっかり空いた選手たちは今、日常たる所属クラブでの活動に戻った。今回のアジア最終予選で出た課題や宿題をどのように克服し、個の質を上げてまた代表に戻ってくるのか。

 我々メディアとしては、ゴシップ的な事柄ではなくピッチ上での現象について厳しい目を向け、問題点を指摘することが求められるだろう。それによって彼女たちはまた大きく、強くなって新たな「なでしこジャパン」の時代を作ってくれるに違いない。

(取材・文:小澤一郎)

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