プロ野球観戦で健康に!? パ・リーグが始める異例の試み、その狙いは?

3月23日(水)19時7分 フルカウント

2016シーズンからスタートさせる「パ・リーグ ウォーク」とは

「プロ野球コンテツを活用して、日本の社会にもっと貢献できる取り組みはないかな? 今までにはない新しい考え方で」

 パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)の代表取締役社長、村山良雄は昨夏にマーケティングの責任者である根岸友喜氏にこう問いかけた。

 その数日後に根岸氏は、出張でボストンにいた。MLBボストン・レッドソックスの球団職員である吉村幹生氏に紹介されて訪れたのは、ハーバード公衆衛生学大学院のイチロー・カワチ教授の研究室である、ソサエティアンドヘルスラボ(SHL)。テーブルの向かいには、研究員である林英恵氏と鎌田真光氏が座っていた。

 2人とも日本人で初対面。根岸氏には当初、「ハーバードの方々と何を会話するのかな」との疑問もあったというが、約2時間の会話の後、「それでは、パ・リーグ6球団で“国民みんなの健康を実現する取り組み”を一緒にやってみましょう」と方向性が定まっていたという。

 パ・リーグ6球団とPLMは、2016シーズンより「パ・リーグ ウォーク」という取り組みをスタートさせる。“国民みんなの健康を実現すること”をビジョンとして掲げて、“歩く行為を習慣化させること”をゴールとする試みだ。そのツールとして、プロ野球(パ・リーグ)ならではのゲーム化要素を盛り込んだスマートフォンの歩数計アプリを活用する。

 この「パ・リーグ ウォーク」は、全てのスマートフォンに対応しており、ファンは一度アプリをダウンロードすれば、後は自動的に歩数が計測される仕組みになっている。ファンはまず自分が応援する球団を選択。日常的な利用では、「本日の歩数はダイヤモンド何周分です」と表示が出たり、応援する球団の選手が画像で「今日はたくさん歩いたね!」などと呼びかけてくれる。試合日の利用では、応援する球団ごとにファンの合計歩数を競ったり、合計歩数の順位を表示したりする。(※1)

 根岸氏は「そのような取り組みにより、従来は健康的なイメージがなかったプロ野球観戦行為を、健康的な行為へと置き換えることができます。プロ野球観戦といえば、ビールや唐揚げなどのイメージがあり、あまり健康的なイメージはないと思います。でも実はプロ野球観戦行為は健康的なんですよ、というのが今回の活動でのファンへのメッセージです。具体的には、試合観戦日にファンはたくさん歩いています。例えば、自宅から最寄り駅、最寄り駅から球場と。球場に到着してからも自分の座席に着くまでや、飲食購入時やトイレなど、結構な距離を歩きます。実際に、私が仕事で西武プリンスドームへ行った際は、その日の歩数は12000歩でした」と話す。

「社会的にも大きなインパクトのある取り組みになるのでは」

 成人男性の1日の平均歩数は7000歩程度らしいが、確かにそれを大きく上回っている。今回の取り組みのポイントは、試合観戦するだけでかなりの距離を歩く(試合観戦≒健康的)ことにファンに気付いてもらうこと、さらに、日常や試合日での歩く行為を習慣化させて今まで以上にアクティブになってもらい、再度試合観戦に来てもらうサイクルを回そうとしていることだ。

 また、球場を訪れていないファンも、アプリを通して球団とつながり、楽しみながら自然と健康になる仕組みを作ろうとする点も新しい。

 運動と健康の研究を長年続けて、現在はSHLに所属する鎌田氏は期待を込めてこう話す。

「世の中には健康になることを目的とした、たくさんの歩数計や活動量計、アプリなどがあります。でも、それらを利用する人は限られており、さらに運動を習慣化してもらうことは本当に難しい。そして、ただ“健康のために歩こう”と訴求しても、運動不足の方々には響きません。

 今回のパ・リーグとの取り組みは、これまでの健康増進施策とは全く異なり、プロ野球コンテンツを使うことで、パ・リーグファンの皆さんが楽しみながら自然と歩いてしまう仕組みを目指しています。ファンの皆さんには20-40代といった若い世代や男性が多く含まれます。こうした層は、国や自治体等の健康増進施策で全くアプローチ出来ていなかった層です。パ・リーグファンの数や昨今の伸びを考えると、社会的にも大きなインパクトのある取り組みになるのでは」

 また、今回の取り組みで得られる実証データは、今後のSHLでの学術研究に活用し、日本の社会がもっと活動的になるように示していくという。そのデータのエンジンを開発しているベンチャー企業KiNE Inc.のファウンダー平山太朗氏は、「今回のパ・リーグでの取り組みが社会的・学術的にも成功するようであれば、プロ野球以外のコンテンツにも展開していきたい」と語る。

先進国で深刻化する肥満や生活習慣に対する課題

 日本のプロスポーツ界では現状、このようにコンテンツホルダー自身が健康的な活動を通じて社会貢献していこうとする試みは少ない。一方で米国のプロスポーツ界ではいくつかの取り組みがされている。代表的なのは、プロバスケットボールのNBAが行う「FIT」というプログラムだ。

 米国を始め先進国で深刻化する肥満や生活習慣に対する課題を認識し、バスケットボールクリニックなどを通して、身体を動かすことの楽しさや食事のバランスについて学ぶ取り組みである。日本でも今後は2020年東京五輪が開催されることから、このような運動の取り組みへの熱も高まり、今回のように「観るスポーツ(試合観戦)」と「するスポーツ(運動・歩く)」を組み合わせる活動が増えていくことが期待される。

 話を冒頭に戻そう。なぜ根岸氏が初対面のその場で、SHLとともに取り組みを始めようと考えたのか。その理由は「鎌田さんと林さんが取り組まれている公衆衛生学(パブリックヘルス)の考え方が素晴らしく共鳴したことと、社長の村山の考え方であるパ・リーグがもっと社会に貢献できることを探す、と2つのことが整合したから」と語る。

 今回の活動は、パ・リーグ6球団とPLMが中心となるパ・リーグウォーク実行委員会が主催し、SHLが共同企画と学術研究を担当する。そして、プロ野球界では珍しいことだが、経済産業省が後援としてバックアップしている。プロ野球(パ・リーグ)を中心とした「産官学」一体となった取り組みとなっており、まさに村山氏の言う「社会に貢献できる取り組み」を実現しようとしている。

 村山氏はこう語る。

「ファンの皆さまが歩くことを楽しみながら、健康であり続けられる。健康であり続けることによって、また球場に来場してもらえるようになる。プロ野球コンテンツを活用しながら健康を通じて、日本の社会に貢献できる。こんなに楽しいことはない」

 数々の革新的な試みを行っているパ・リーグ6球団とPLM。今後の取り組みの広がりに注目していきたい。

(※1)一部の機能は2016シーズン中から順次実装していく予定。

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