JFA審判委員会が述べたレフェリング課題。乱れた接触プレーの判定標準【現地取材】
2025年3月24日(月)15時0分 FOOTBALL TRIBE

日本サッカー協会(JFA)審判委員会は3月18日、東京ミッドタウン(ミッドタウン・タワー)にてレフェリーブリーフィングを開催。今年のJリーグ序盤戦における審判員の判定について、見解を示した。
今年のJリーグ序盤戦では、接触プレーの判定に対する批判が各方面より噴出。サンフレッチェ広島を率いるミヒャエル・スキッベ監督も、3月2日のJ1リーグ第4節横浜FC戦後に「日本のサッカーは間違った方向に進んでいます」と不満を露わに。「(今季開幕前の)宮崎でのキャンプのときに、審判から説明があった。今シーズンはプレーイングタイム(※)を長くしていこうという話があったが、それによってファウルを流される、ファウルを何回受けても、ひどいファウルがあったにも関わらず、カードが出ずに流されている現状がある。非常に残念です」と、今季序盤のレフェリングに苦言を呈した。
Jリーグ担当審判員への不信感が募るなかで、JFA審判委員長の扇谷健司氏と審判マネジャーJリーグ担当統括の佐藤隆治氏(元国際審判員)は何を語ったのか。ここでは本ブリーフィングにおける彼らのコメントを紹介するとともに、サッカーにおける接触プレーの判定基準を改めて整理したい。
(※)アクチュアル・プレーイングタイム。サッカーの試合において、実際にプレーが動いている時間のこと。

「競技規則が変わったわけではない」
本ブリーフィングの冒頭で、扇谷氏は今季序盤の騒動に言及。アクチュアル・プレーイングタイム(APT)を伸ばす目的で、ファウルと判定すべき事象を黙認するような方針は審判委員会として打ち出していない旨を強調した。
「我々としてはAPTを伸ばすために、何か判定基準を変えたというのは一つもございません。そういう記事(Jリーグ担当審判員がAPTを伸ばす目的で、あえてファウルをとらないと書かれた記事)を拝見しましたので、今日この場でお話しさせていただきたいと思いました。競技規則が何か変わったわけでは決してありません」
「ただ、“判定の標準”は全体として上げていきたいと思っています。2050年までに日本代表がFIFAワールドカップを制するという(JFAとしての)目標があるなかで、これは我々審判員にとって新たなチャレンジとなっています。また、日本サッカーの象徴であるJリーグがより魅力的なものとなるよう、レフェリーサイドとして何ができるかを常に考えています」
「我々がレフェリーたちに伝えているのは、反則ではない事象に笛を吹くのはやめようということ。レフェリーたちはピッチ上でベストを尽くしてくれていますが、試合を映像で振り返ったときに、『この反則をとるの?(これをファウルにするの?)』、『これは何の反則なの?』と疑問を抱く場面が少なからずありました。判定の標準を上げていくなかで、反則ではないプレーに笛を鳴らすのはやめようと。これに改めてトライしようと、レフェリーたちには伝えています」
「逆に言うと、反則にあたるプレーには笛を鳴らす。レフェリーが反則を確認したうえでプレーを続けさせるのであれば、アドバンテージ(※)が本来採用されるべきです」
「ただ、皆さんも試合をご覧になって分かる通り、本来反則と判定しなければならない事象に笛が吹かれなかった場面が、残念ながらあります。これに関しては、今シーズンからいきなりファウルの笛を吹かなくなったわけではなく、今まで(昨年以前)もあったと思うんです。先日もプロフェッショナルレフェリーのキャンプがあったなかで、反則にあたるプレーには笛を吹きましょう。(反則を確認したうえで)プレーを続けさせるのであれば、アドバンテージのシグナルをしっかり示しましょう。そして反則でないものに笛を吹かない。その見極めをしっかりしましょうとレフェリーには伝えています」
(※)審判員が反則を確認したが、試合を止めないほうが攻撃側チームに有利になる場面において、プレーを続けさせること。

佐藤氏が力説したグレーゾーンとの向き合い方
扇谷氏の冒頭コメントを受け、佐藤氏も今季序盤の騒動に言及。「ルールが大きく変わったわけでもなければ、APTを増やすためにレフェリーが恣意的に判定を変えるというのは一切していない」と前置きしたうえで、ファウル(黒)とノーファウル(白)の間にあたるグレーゾーンの事象とどのように向き合うかを報道陣に説明した。
「僕らが目指しているのは、去年までノーファウルとしていた事象には今年も笛を吹かない。逆に去年までファウルと判定していたものには、今年も笛を吹くということです」
「ただ、試合後に判定を分析するなかで、間違っている(明らかな誤審)とは言わないけど、期待されるのはノーファウルだよね(ノーファウルと判定するのが望ましい)という事象もありました。今年はこうした接触プレーを、自信を持ってノーファウルにしていこうと。つまり、判定の標準を上げるということです」
「ファウルの判定というのは、必ずしも白か黒か(0か100か)という話ではありません。絶対にノーファウルというものから、ファウルかもしれないというもの、そしてそのグレーゾーンの先に、『これはファウルだよね』(明らかな反則行為)というように考え方が変わっていくと思うんですよね」
「ノーファウルに近いけど(白に近いグレーだけど)、ファウルの要素が一定数含まれているプレーについては、去年まで笛を吹いていたと思います。そのゾーンの事象については、判定の標準を上げましょうと。選手同士の接触プレーがあったときに、それをどこまで許容するのか。これをレフェリーサイドだけでなく、チーム側にも理解してもらいたい。去年までファウルだったもの(まごうことなき黒)が、今年からいきなりノーファウル(まごうことなき白)へ変わったわけではありません」
「ファウルかノーファウルか。(審判員たちで)議論したときに、意見が分かれるものもあります。そのなかで判定の標準を上げて、こういったもの(白に近いグレー)はノーマルコンタクトと見なして笛を吹かない。口で言うのは簡単ですけど、現場のレフェリーは悩みながらやっています。(大事なのは)判定の標準の微調整ですね」
「ただ、判定の標準の微調整は、やってみると意外と難しいです。その標準をいかにみんな(審判員たち)で自信を持って上げていくか。この点を突き詰めていきたいです」

求められる判定標準の微調整
本ブリーフィングでは、今季序盤のJリーグにおける接触プレーがいくつか紹介され、佐藤氏による解説が加えられている。正しい判定もあったなかで、本来であればビデオアシスタントレフェリー(※1)の力を借りずに、ピッチ上の審判員たちでファウルと判定すべきだった場面も紹介された。
この最たる例が、2月22日の明治安田J1リーグ第2節京都サンガvs浦和レッズで、京都FWマルコ・トゥーリオの得点がオンフィールド・レビュー(※2)の末に取り消された前半アディショナルタイムの場面。ここでは自陣ペナルティエリアでヘディングを試みた浦和DF荻原拓也を、トゥーリオが後方から手で押してしまっている。佐藤氏もゴール取り消しの判定を支持したうえで、ピッチ上の審判員による判定精度の向上を課題に挙げた。
「僕ら(審判委員会)はこのジャッジを正しいと考えます。ただ、この判定をビデオアシスタントレフェリーの力を借りずに下したいですね」
「荻原選手がボールにプレーできるチャンスが無いなかで接触が起きているなら、違う導き方(判定)もできたと思います。ただ、このシーンで荻原選手はボールにプレーできる。その状況でトゥーリオ選手がプッシングをして、荻原選手のバランスを崩した。ボールにプレーできるチャンスが荻原選手にあったけれど、それが(反則によって)阻害されている。このように考えて、シンプルにファウルの笛を吹こうと。この場面は戦わせる(接触プレーを許容する)かどうかという話ではないです」
この場面以外にも、選手がプッシングやホールディング(相手選手の体やユニフォームを掴む)の反則を犯しているものが複数紹介され、この2つの反則を黙認しない姿勢も佐藤氏は打ち出している。“白に近いグレー”にあたる接触プレーと、不用意なプッシングやホールディングを分別する。現状選手たちがすべきはこの作業だろう。
日本代表の活動(FIFAワールドカップ26アジア最終予選)により中断していた明治安田J1リーグは、3月28日に再開される。Jリーグ担当審判員による判定標準の微調整が、適切に行われているか。引き続き検証していきたい。
(※1)フィールドとは別の場所で試合映像をチェックし、主審をサポートする審判員。
(※2)ビデオアシスタントレフェリーの進言を受け、主審が自らリプレー映像を見て最終の判定を下すこと。