長友は森保ジャパンに必要か不要か。W杯に臨む日本代表の“アニキ枠”を考察

2025年3月24日(月)14時0分 FOOTBALL TRIBE

長友佑都 写真:Getty Images

3月20日、2026FIFAワールドカップ(W杯)北中米大会アジア最終予選のバーレーン代表戦(2-0埼玉スタジアム2002)に勝利し、3試合を残して世界最速でW杯本大会出場を決めたサッカー日本代表。


同試合後、森保一監督にポリバケツの水を頭から掛ける手荒い祝福をし、盛り上がるイレブンやスタッフの中ひと際目立っていたのが、この日筋肉痛でベンチ外だったもののスタンドで勝利を見届け、主将のMF遠藤航から締めのマイクを託され「みんなブラボー!」と絶叫したDF長友佑都だ。


38歳の長友は、日本代表として5度目のW杯予選突破を経験した。過去4回と異なるのは、ここまでの最終予選の全7試合でベンチ外である点だ。2010年南アフリカW杯から2022年カタールW杯までの4大会では全15試合全てに先発出場。日本代表キャップも142試合(現役選手で2位は68試合の遠藤)。既に生きたレジェンドとなった感のある彼に対し、例え戦力になっていなくとも「長友は不要」と出来ないでいるのが実情だ。


W杯を戦う日本代表の歴史を紐解くと、グループリーグを突破した大会では常に代表歴が長く経験豊富な選手が選出され、ピッチ外で「兄貴分」として精神面でイレブンを支えていた歴史がある。ここでは過去の“アニキ枠”について触れ、彼らがチームにもたらしたものや長友の存在についてを考察したい。




川島永嗣 写真:Getty Images

過去W杯での日本代表兄貴分的選手


まずは日本代表がW杯で過去、ベスト16に進出した際の兄貴分的選手を挙げよう。


2002日韓W杯:FW中山雅史(当時34歳、ジュビロ磐田所属、出場時間18分)


2002年の日韓W杯では、それまでエースナンバー「10」を着けていたMF中村俊輔の落選というサプライズとともに、フィリップ・トルシエ監督が背番号10を託したのは、1998年フランスW杯で日本代表W杯初ゴールを記録したFW中山雅史(現アスルクラロ沼津監督)だった。


「中山待望論」とは裏腹に直前の海外遠征のメンバーから外れ、所属のジュビロ磐田でも不調だったことで、選出は絶望視されていた中での抜擢は日本国民を驚かせた。出場したのは日本がW杯初勝利を挙げたグループリーグ第2戦のロシア代表戦(横浜国際総合競技場/1-0)、後半27分、FW鈴木隆行に代えて投入されたわずか18分間だけだったが、前線からの守備で警告を貰いながらも、虎の子の1点を守り切ることに成功した。


2010南アフリカW杯:GK川口能活(当時34歳、ジュビロ磐田所属、出場時間0分)


2010年の南アフリカW杯では、岡田武史監督がグループリーグ初戦のカメルーン代表戦(フリーステイト・スタジアム/1-0)を前にGK楢崎正剛、MF中村俊輔、FW岡崎慎司らの主力を先発から外し、本来MFの本田圭佑を1トップに据えるという大ナタを振るった。


しかし、このW杯で3大会連続の選出となり、アトランタ五輪ではブラジル代表を破る大金星を演出、さらには日本人GKとして初めて欧州移籍(ポーツマス、ノアシェラン)を果たした経験豊富なGK川口能活がキーマンとなり、中村らは腐ることなく自ら進んでサブ選手として裏方の役割を果たし、チーム崩壊を防いだ。


2018ロシアW杯:FW岡崎慎司(当時32歳、レスター・シティ所属、出場時間67分)


2018年のロシアW杯では、直前にヴァイッド・ハリルホジッチ監督が解任され、西野朗監督が就任するというドタバタ劇があった。テストマッチも同年5月30日の行われたガーナ代表戦(日産スタジアム/0-2)の1試合しかないまま本大会に臨むこととなったが、既にエースストライカーの座に君臨していたFW大迫勇也(当時ケルン)の控えに甘んじていたものの、2015シーズンにプレミアリーグのレスター・シティに移籍し、いきなりチームの初優勝に貢献したFW岡崎慎司の存在が大きかった。


この頃の岡崎はレスターでもポジションを失い難しい立場にあった(実際、翌2019シーズンにスペイン2部のウエスカに移籍)が、そんな苦悩は微塵も見せずグループリーグ3戦に途中出場し、戦力としても十分に貢献した。年齢的には主将のMF長谷部誠(当時34歳)よりも年下だが、日本代表得点数3位(50得点)を誇る一方で、チームプレーに徹することも出来る岡崎の貢献度は計り知れない。ピッチ上の監督としてリーダーシップを発揮した長谷部が“学級委員長”だとすれば、岡崎はさしずめ“イジられキャラのムードメーカー”だったと言えるだろう。


2022カタールW杯:GK川島永嗣(当時39歳、ストラスブール所属、出場時間0分)


2022年のカタールW杯で、長友と共に歴代4人目のタイ記録となる4度目のW杯日本代表選出となったGK川島永嗣は、前2大会でレギュラーを張り、2019年に開催されたコパ・アメリカ(南米選手権)にも出場した。川島の場合、英語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、オランダ語、フランス語を習得している点が大きなアドバンテージだった。


渡欧後、リールセ(2010-2012)、スタンダール・リエージュ(2012-2015)、ダンディー・ユナイテッド(2015-2016)、メス(2016-2018)と渡り歩き、第2GKとしての役割を与えられていたものの、いつの間にかレギュラーポジションを奪取していた川島。実力も遜色なく、特にPKストップの技術は歴代日本代表GKナンバーワンとの呼び声も高い。そして42歳となった今でも、J2ジュビロ磐田でJ1復帰に向けての戦いを続けている。


長友佑都 写真:Getty Images

長友、日本人初となる5度目のW杯出場へ?


20日のバーレーン戦後のテレビ中継から伝わる長友のハシャギぶりは、本来、主役であるべきである遠藤や、1ゴール1アシストのMF久保建英の存在をかき消すほどで、ポジティブな意見が多い一方で、「オチに使われた」「見ていられない」という声もSNS上で上がっていた。


最終予選での長友は残念ながら、ただの盛り上げ役だ。本大会の登録人数が26人に限られる中、“ガヤ”に1枠を使うよりも、有望な若手に譲りコーチングスタッフとして帯同させたらどうかという意見が出てくるのも理解できる。


しかし、森保監督は「合宿での紅白戦では三笘のドリブル突破を一番多く止めているのが長友」と語り、あくまで戦力として招集している。


長友は昨2024シーズンにはFC東京で右サイドバックにコンバートされ、今2024シーズンは3バックの左ウイングバックとして6節終了時点で4試合に先発、うち2試合でフル出場するなど、プレーの幅を広げつつ、相変わらずのタフガイぶりを見せ付けている。


おそらく森保監督は、長友が負傷でもしない限り、来年に迫ったW杯本大会のメンバーに招集するだろう。そして、日本人初となる5度目のW杯出場の達成も現実味を帯びてくる。




長友佑都 写真:Getty Images

出場時間以上にチーム全体に好影響


日本代表のほとんどが欧州組である今、能力は確かだがピッチ外でまとめ役を務められるような人材がいるかと問われれば、適役が見当たらないのが現状だ。今や代名詞となった「ブラボー!」というポジティブな発言や、チームメートを鼓舞する姿勢のみならず、若手や海外組とも積極的にコミュニケーションを取り橋渡し役を担っている長友は、森保監督がチームの一体感を重要視する中、欠かせない存在となっている。


長友とて、セリエAのインテル(2011-2018)で7シーズンもの長き間レギュラーとして活躍し、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)も経験した世界を知る選手だ。さらにW杯の舞台ではグループリーグ敗退(2014ブラジルW杯)と決勝トーナメント進出(2010南アフリカW杯、2018ロシアW杯、2022カタールW杯)の両方を味わっている。


この経験は、若手が多い現在の日本代表にとって、プレッシャーのかかる大舞台でのメンタルを支える上で貴重なものだ。そして何よりも、今もってなお欧州クラブを渡り歩いていた頃の“ギラギラ感”を失っていない。


確かに長友の年齢(2026年W杯本大会時には39歳)や現在のコンディションでは、試合での貢献は限定的かも知れない。同ポジションにDF菅原由勢やDF中山雄太らが台頭する中、純粋なプレーヤーとしての役割が後退しているのも事実だ。


しかし、長友の存在価値は出場時間以上にチーム全体に好影響をもたらすことだろう。それは過去、“アニキ枠”としてチームに貢献し、好結果に繋げた先人たちが証明しているとは言えないだろうか。

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