菊池雄星を超える逸材がまさか。横浜・及川雅貴に異変が起きていた

3月25日(月)7時55分 Sportiva

「無残」と言わざるを得ない結果だった。試合後、敗戦校のお立ち台に上がった横浜高(神奈川)の及川雅貴(およかわ・まさき)は、険しい表情で試合を振り返った。

「自分の持ち味である真っすぐを投げるべきところに投げられませんでした。調子は自分のベストではなかったとしても、悪くもなかったです。ただ自分の実力がなかっただけです」

 横浜は選抜高校野球(春のセンバツ)の関東・東京最終枠に滑り込みで選出された。選考委員の「決め手は大会屈指の投手・及川」という選出理由は、大いに話題になった。高校2年秋時点での最高球速は153キロ。同じサウスポーの菊池雄星(マリナーズ)ですら、初めて150キロを超えたのは高校3年春である。

 さらに横浜の試合前日(3月23日)には、星稜(石川)の奥川恭伸(やすのぶ)が強敵・履正社(大阪)相手に17奪三振完封という衝撃的な投球を見せつけたばかり。大会前には「右の奥川、左の及川」と注目を二分していただけに、及川にかかる期待は大きくふくれあがっていた。


明豊打線につかまり3回途中で降板した横浜のエース・及川雅貴

 だが、最終スコアは5対13。九州屈指の強力打線を擁する明豊(大分)に、横浜は叩きのめされた。

 2回終了時点では、4対0と横浜がリードしていた。ワンサイドゲームの気配も漂うなか、3回表に落とし穴が待っていた。及川は明豊の8番・若杉晟汰(せいた)と9番・野上真叶(まなと)に連続四球を許し、さらに集中打を浴びて一挙5失点。逆転されたところで2年生の大型左腕・松本隆之介にマウンドを譲り、ライトのポジションに移った。

 及川本人は「調子は悪くなかった」と言い、投手指導を担当する金子雅部長は「よかったのは立ち上がりだけ」と言った。だが、異変は試合開始前から始まっていたように感じる。まっさらなマウンドに立った及川は、投球練習のほとんどの球を引っかけ、地面に叩きつけるような暴投を繰り返していたのだ。

 立ち上がりは先頭打者から6球連続スライダーで2アウトを取った。ストレートは制御が難しく、比較的コントロールしやすいスライダーでゲームメイクしたいバッテリーの意思が透けて見えた。とはいえ、スライダーを軸に投球を組み立てることは、昨秋の神奈川県大会でも見られたシーンである。

 だが、3回表に入るとスライダーでもストライクを取るのに四苦八苦するようになる。三塁側ベンチで見守っていた金子部長は、及川のフォームに異変を感じ取っていた。

「軸足(左足)でしっかり立つ前に、軸足のヒザが折れてしまっていました。角度がなくなって、バッターにとっては打ちやすいボールになっていたと思います」

 実は、及川はしっくりくる投球フォームを探し続けている。昨夏の甲子園では、「これは」と思ったフォームが球審から2段モーションと指摘され、フォーム再変更を余儀なくされた。昨冬も試行錯誤を繰り返し、フィットする動作を追求してきた。及川は明豊戦の試合前、フォームについてこう語っている。

「まだ完璧ではないんですけど、徐々にいい方向は見えてきているので、順調にきていると思います。去年までは右足を上げた時に、右肩がセカンド側に入りすぎていたんですけど、それを見直しました」

 本来であれば、今春は「ニュー及川」を見せる大会のはずだった。新球・チェンジアップを解禁する予定だったのだ。2年秋まで将来を見据え、あえてストレートとスライダーの2球種に絞って精度を高めていた。だが、フォームが定まらず、肝心のストレートとスライダーのコントロールがままならない状況では、チェンジアップを試す以前の問題だった。

 及川は試合後、こうも述べている。

「前々からの課題だったピッチングの波が出てしまいました。まだ改善し切れなかったのは、自分の脆(もろ)さなのかなと感じます」

 及川の投手としての資質は疑いようもない。この日も全体的に制球がまとまらなかったとはいえ、惚れ惚れするようなボールは何球もあった。だが、自分のフォームが固まっていないからなのか、今ひとつ自分自身を信じ切れていない節がある。

 明豊戦の試合前、及川にこんな質問をぶつけてみた。

—— 及川投手の学年にはすばらしい投手が何人もいますが、自分が誰にも負けないと思っているところはどこですか?

 すると及川はわずかに首を傾げ、「勝っているところは、とくにないですね」と答えた。自身がこだわっているストレートの質についても、「一番ではないと思うので、すべてにおいてレベルアップしないといけないと思います」と威勢のいい言葉は聞けなかった。

 今となっては、自分のことが客観的によく見えているともとれる。だが、及川が持っているポテンシャルからすると、物足りなく感じたのもたしかだ。

 期待を大きく裏切る形になった春のセンバツを終え、これから夏の甲子園に向けた準備が始まる。横浜の平田徹監督は「課題は及川です」と断言しつつ、こうも述べている。

「潜在能力の高い選手ほど成長スピードが遅い子もいます。あまり我々が焦らせるのではなく、じっくりとやらないといけないところもあると考えています」

 もしかしたら高校3年間という短い時間では、及川の課題は解消し切れないのかもしれない。とかく結果を求められ、忘れられがちだが、高校野球は育成年代なのだ。それもまた仕方がないことだろう。及川の野球人生のゴールは、もっと先にある。

 それでも、佐々木朗希(大船渡)、奥川恭伸(星稜)、西純矢(創志学園)ら逸材投手が次から次へと出現する特別な年代だからこそ、つい期待してしまう。及川が見違えた姿を夏までに見せてくれることを。

 いつか「こんな時期もあった」と笑って振り返れる日はくるのか。及川雅貴はまだ、その器の底を見せていない。

Sportiva

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