【独占】坂元達裕の這い上がり力「このままプレミアまで」インタビュー後編

2024年3月26日(火)18時0分 FOOTBALL TRIBE

コヴェントリー・シティ MF坂元達裕 写真:Getty Images

イングランド2部のチャンピオンシップで戦う若きサムライMF坂元達裕(コヴェントリー・シティ)。かつてFC東京ユースに上がれなかったサッカー少年は、いまや日本代表に選ばれ海外でプレーするまでに成長している。しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。


コヴェントリーでの活躍で、今や地元サポーターから愛されるほど現地ファンの心を掴んでいる坂元だが、2月23日に行われたリーグ戦(対プレストン・ノースエンド0-3)で今季絶望の大怪我を負った。


この独占インタビュー後編では、セレッソ大阪への移籍、ベルギーやイングランド移籍の裏側、そして大怪我を負った現在の心境についてお届けする。


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MF坂元達裕(セレッソ大阪所属時)写真:Getty Images

セレッソ大阪への移籍と清武弘嗣との出会い


モンテディオ山形(J2)での活躍が認められた坂元は、2020年にJ1のセレッソ大阪に完全移籍。Jリーグデビュー年での移籍としては異例の個人昇格だった。C大阪に加入した当時の経緯について坂元に訊いた。


坂元:セレッソは普通にオファーをいただいて、当時は他の2チームくらいからもオファーをもらってて迷っていたんですけど、セレッソには結構熱量が高く誘ってもらって。そこで決めました。


ー自身初のJ1はどうでしたか?


坂元:(当時のミゲル・)ロティーナ監督のとき、とても楽しかったです。監督が守備もすごく気を遣って、立ち位置とか練習の中でちょっとのズレとかも修正してくる監督でした。僕はそれがすごく良かったと思ってて、僕自身守備もしっかりやるっていうのが武器だと思っていたので、そこでしっかりと守備ができることもアピールしつつ、自分が攻撃しやすい状況をチームとして作り出してもらえました。1年目はすごくやりやすくやらせてもらっていましたね。


ーロティーナ監督は堅守のイメージが強いですが、学んだものはありますか?


坂元:本当にわずか数歩の位置で修正されるので「ここまでする必要あるのかな?」ってその時は思ってましたけど、でも結果的にそのちょっとのズレがすごく大事だっていうのは今になって分かります。それが結果として(リーグ戦)4位に終わり、いい順位で終わることができたので、良い監督だったなと思っています。


ーしかし、セレッソ大阪の1年目では2得点でした。


坂元:1年目は2点しか取れてないですけど、チャンスはすごく作れていた印象があって。逆サイドでボールを回して僕の方に飛ばして、そこから僕が1対1で勝負するっていうのがチームの形になってたりもしたんで、すごくやり易くしてもらってました。周りの選手もみんなすごく上手かったんで。


キヨくん(清武弘嗣)もいて、あの人がボールを持てますしパスも出せるので、僕のところに基本的にいつもフリーでボールが持てる状況を作ってもらってたんで。キヨくんだけじゃなくて周りの選手を含め、1年目は恵まれた環境でやらせてもらっていたのが印象です。


ー清武選手との思い出はありますか?


坂元:もう、キヨくんは一番尊敬している選手で思い出もいくらでもあるんですけど、本当にあの人は人間性がとても良くて。誰にでも優しくて、でもやる時はしっかりやる。本当にお手本みたいな選手なんで、そのなかでプレーもすごく尊敬できます。大好きですね、キヨくんは。


基本的にいろんなアドバイスをもらっていましたけど、仕掛ける時はガンガン仕掛けてボールを失っても良いから、っていう風にはキヨくんだけじゃなくてチーム全体として監督からも言ってもらっていました。


ーセレッソ大阪在籍中の2021年には日本代表にも選出されました。


坂元:僕が(C大阪での)2年目に選んでもらって、そのなかで海外でやっている選手たちと練習とかもやらせてもらいました。本当に日本と比べ物にならないくらいの強度で。プレッシャーも早いし、ゆっくりボールを持っている時間もない。フィジカルもすごく強くて。


そのなかで僕が一番印象に残っていたのが守田(英正)さんなんですけど、あの人の強度とかプレスの掛け方とかが尋常じゃないなという印象があります。もちろん周りの選手も日本で普通にやっているよりもレベルが一段上のスピード感でやってたんで「海外でやってる選手たちは、こういう中でこれが当たり前でやっているんだ」っていうところに衝撃を受けました。


それまでは海外に行きたいとかこれっぽちもなかったんですけど、そこからチャレンジしたいなっていう思いが芽生え始めて、海外移籍することに決めましたね。


ー海外移籍を考えていなかったなんて意外ですね。


坂元:いやー、考えたことなかったですね。僕、世代別代表なんか全く入ったことなかったですし、海外に行けるレベルの選手ではないって自分で思っていたんで。


僕の性格的にも内気な性格なんで、海外に合ってないだろうなっていう風に個人的にも思ってました。ただ、代表を経験して「いや、でも成長したいなら行くべきだな」って感じてきました。




MF坂元達裕(KVオーステンデ所属時)写真:Getty Images

「来なきゃよかった…」ベルギーでの苦悩の日々


そして2022年1月、坂元は当時ベルギー1部に所属していたKVオーステンデへの期限付き移籍を経て同年夏に完全移籍した。坂元はチームのMVPに輝くなど個人で高い存在感を発揮したものの、チームは2部へと降格。自身もリーグ戦では0得点と攻撃面で持ち味を見せることができないシーズンを経験することになった。


ー代表を経験して海外への意識が芽生えたとのことですが、オファーがあってベルギーを選んだのですか?それとも代理人に探してもらったのでしょうか?


坂元:オファーがあったのがKVオーステンデ。ほかにも少し興味を持ったりオファーをもらってたチームもあったんですけど、結果的にオーステンデに行きました。アメリカとかからもオファーがありましたが、僕はやるならヨーロッパでやりたいという思いが強かったんです。(欧州からの)オファーはオーステンデだけでした。


ーなるほど。それで即決で行こうと?


坂元:迷いましたね。さっきも言ったように僕は内気な性格ですし、チャレンジしたいっていう思いは強かったんですけど、その時ちょうど怪我をしていて。グロインペイン(股関節痛の症状)でC大阪2年目の半年くらいずっと痛がりながらプレーをしてたんですね。


で、個人的にも調子が上がり切らずにチームとしてもなかなかうまくいかない時期が続いて、このままベルギーに行ってもいいのかっていう思いがやっぱりありました。しっかりと怪我を治して万全な状態でもう一回日本で活躍し直してから行ったほうがいいんじゃないかって思いが強くなってたところでオファーをもらったのですごく迷いました。


でも、清武さんがそこで一番背中を押してくれて。あの人は海外経験している選手で、結果も残してきた人なんで、そのキヨくんが「オファーあるなら絶対に行け」って言ってもらって決めましたね。本当にそれで決めたと言っても過言じゃないくらい。迷ってたんで背中を押してもらいましたね。


ー当時ご結婚されていたことも海外移籍を迷った理由ですか?


坂元:奥さんは「行くなら付いていくよ」って言ってくれる人だったんで、それはすごくありがたかったです。逆に1人で行くというよりかは、奥さんにきてもらった方が僕的には安心ですし。ただ、そのとき子どもが生まれたので、最初の7ヶ月くらいは1人でベルギーでやっていました。


ーオーステンデでは個人としてチームMVPを受賞したものの無得点でした。この時を振り返ってみるとどうでしょうか?


坂元:オーステンデは苦しかった…今までで一番苦しかったんじゃないかなって思います。僕自身、試合にはほとんど出させてもらってたんですけど、ウィングバックでチームとしてなかなかうまくいっていない中で守備しかしていないんですよ、ほとんど。


なのでゴールを取れるチャンスもほとんどなかったですし、僕自身左ウィングバックが一番多くって。基本的には左右のウィングバックで1年半やってたんで守備をある程度はできる自信はあったんですけど、攻撃でもっと結果を残したいという思いはずっと持ってました。結果的に降格しちゃったんですごく責任を感じてますし、苦しかったですね。


ベルギーでは守備の部分で学んだものはたくさんありましたし、MVPももらって得られたものもたくさんありました。振り返ってみれば「良かったな」とは思いますけど、やっている最中は6-0とかで負ける試合も結構ありました…。


ーオーステンデは海外デビューとして良い選択だったと思いますか? 


坂元:振り返れば良い選択だったって思いますね。当時は「来なきゃよかったかな」と思う時期とかももちろんあったんですけど(笑)帰りたいなって思うこともありました。大差で負ける試合だらけだったんで「これで上がれないならもう帰るしかないな」っていう風に思っている時期もあって。ただ「来てよかった」と思える経験にはなりました。




コヴェントリー・シティ MF坂元達裕 写真:Getty Images

イングランド2部へのステップアップ


コヴェントリー・シティはチャンピオンシップの2022/23シーズンを5位で終え、4位から6位のチームによって争われるプレミアリーグ昇格プレーオフに進出。決勝まで駒を進めたものの、PK戦で惜しくも敗れ昇格を逃していた(ルートン・タウンが昇格)。


固い守備が特徴だったコヴェントリーに、攻撃面での活躍が期待され2023/24シーズン加入したのが坂元だった。シーズン当初は戦術的な理由からベンチに座ることが多かったが、11月からスタメンをつかむと7ゴール3アシストの活躍を見せる。すると、シーズン前半は20位にまで転落したコヴェントリーが坂元の活躍と比例するように順位を上げ、プレミア昇格プレーオフ圏まで浮上することに成功。今やコヴェントリーの攻撃にとって欠かせない中心選手となっている。


ー2023年にコヴェントリーのマーク・ロビンズ監督が別の選手を視察する目的でオーステンデの試合を観に来たところ、そこで坂元選手を発見しスカウトすることにしたと現地で報じられています。コヴェントリーに移籍した際、何か言われましたか?


坂元:僕もその噂を聞いていますけど、全然それ以上のことは分からなくて。ただ、早めにオファーというか興味を持ってもらってました。昨年のタイミングでオファーをもらったんです。『ここに来れるなら是非』っていうことで。


ー他にオファーはありませんでしたか?


坂元:ありましたね。ベルギーの順位が上のチームからオファーをもらったりもしたんですけど、結果的にこっちを選びました。(理由は)条件面というところもありますし、コヴェントリーは昨年のプレーオフ決勝まで進んでめちゃくちゃ良いチームなのも観させてもらっていました。やっぱりレベル高いなという風に思って、ここでプレーできるなら行きたいなっていうところで決めました。


ーオファーがあるまでコヴェントリーというチームを知っていましたか?


坂元:全然知らなかったですね。僕自身、あまりサッカーを見るタイプじゃないんで、名前も知らなかったですけど、周りの選手からチャンピオンシップがレベル高いということは聞いていて。チャンピオンシップに行けるなら行きたい、っていうところで(移籍を)決めました。


ーチャンピオンシップは全24チームと数が多いうえに、バス移動が多い過酷なリーグとしても知られていますが、実際にプレーされてみてどうですか?


坂元:僕自身、試合を過酷にプレーし続けるのが好きなタイプなんで。個人的に出続けてコンディションが上がってくるタイプなんで、そこはあまり気にしてはいなかったですよね。ただ、身体的な面で少し疲れが見えてくるところもありますし、ここまでタフなゲームをしていると。ただ、それでもやれているんで。すごく良いリーグだとは思っています。


英語のレッスンを受ける坂元達裕 写真:Troy Grant Media

世界一のリーグへ


イギリスに来た当初は英語があまり話せず苦労していたという坂元だが、現在は現地の英語教師から週2回のレッスンを受けている。周囲のスタッフによると坂元の英語力はかなり上達しているようだ。


ーイギリスの生活はどうですか?


坂元:すごく充実していますよ。奥さんもコヴェントリーが大好きですし、僕も大好きで。コヴェントリーの中心街の近くに住んでいるんですけど、スーパーとか行ってもサポーターがみんな話しかけてくれます。「がんばってね」とか良い言葉を掛けてくれて、すごく愛がありますし良い街だと思います。


ーイングランドなどの海外リーグは身長の高い選手が多く、フィジカル面で劣ってしまう部分もあると思いますが、海外でプレーしていくためにしているトレーニングなどはありますか?


坂元:基本的な対人のメニューとか、スプリントトレーニングをパーソナルでやってたりもしています。でもベルギーよりもテクニカルな部分も多いですね。僕のチームがそうだからかもしれないですけど。


ベルギーの時は、スピードがあって身体が強いやつが勝つみたいなリーグの印象ですけど、こっちではちっちゃい選手が中心となっていますし、そこに入る余地はあると思ってたんで。もちろん当たり負けすることはありますけど、チームとしてポゼッションをしっかりやって(身体が)当たる前にできるような状況でボールを受けられるので。そこは当たらないことを意識してやれば全然問題ないかなと思っています。


ー現在27歳とサッカー選手の中でもハイパフォーマンスを見せられる年齢だと思いますが、サッカー選手としての夢などはありますか?


坂元:一番の夢はこのチームでこのままプレミアへ上がることです。ベルギーでやっている時はプレミアに行けるなんてこれっぽちも思ってなかったんですが、状況的にここまで来てプレーオフの順位を行ったり来たりという状況の中でプレミアを目指せる位置には間違いなく入っているんで。この状況でそこを目指さない手はないと。プレミアでプレーしたいですね。世界一のリーグだと思います。


もちろん代表も入りたいとは思いますし、自分が結果を残していれば自ずと入れる世界だとは思うので。あまりそこまで気にせずに結果を残し続ければ、いずれ見えてくるかなっていう思いでやっています。




コヴェントリー・シティ MF坂元達裕 写真:Troy Grant Media

2024年2月、背中を負傷し今季絶望


本インタビューを実施した翌日、痛ましいニュースが入って来た。坂元が空中戦で負傷し、病院に搬送されたのだ。具体的な怪我の状態については公式発表されていないものの、今シーズン残り全試合を欠場することがクラブから発表された。


坂元を欠いたコヴェントリーは、翌日のFAカップ5回戦でチームメイトが坂元のユニフォームを掲げるゴールパフォーマンスをするなど彼の不在を惜しむ光景が見られた。現地サポーターからも大人気の坂元。筆者の取材に対しクラブの広報を通じて彼からコメントが届いた。


「今は痛みも少しずつ落ち着いていて、自宅で安静にしています。しばらく安静にして、しっかり治したいと思っています。重傷にならなかったのは幸運だったので、また来シーズンのスタートから活躍できるように準備していきます」




あとがき


坂元への取材を始めてからというものの、会うたびに驚かされる選手だとつくづく感じる。シーズン当初は守備の負担が多いウィングバックでの起用が多く、なかなか攻撃面で貢献できない日々が続いたものの「攻撃も守備もできればトップ・オブ・トップに近づける」とポジティブな姿勢を見せ、上を向いていたのが印象的だった。その後、ウィングやサイドハーフで起用されるようになると本来の攻撃力を大いに発揮し、サポーターやチームメイトの心を掴んでいったのも彼の実力そのものだろう。


サッカー選手としての夢を質問した際、正直なところ「チャンピオンズリーグに出場したい」「W杯で優勝したい」「ビッグクラブに行きたい」と、果てしない野望が返ってくるのではないか。そうぼんやりと考えていたが、坂元の「このチームでプレミアに昇格したい」という地に足をつけた言葉に彼の謙虚さとサッカー選手としての責任感の強さが見えた。


インタビュー中はチームメイトたちが部屋を覗き込み、取材を受けている坂元をからかうようにイジると彼も笑い返していた。その光景から、コヴェントリーで彼がいかに“愛されキャラ”なのかがよく分かった。


今季絶望ということは、坂元のサッカー人生のなかでも間違いなく大きな怪我なのだろう。それでも大きな心配は不要なはずだ。彼はどんな困難からも必ず這い上がり、活躍できることをすでに証明してきたのだから。

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