SC相模原、スタジアムで約72万人の市民の心を掴むために必要なことは
2025年3月29日(土)15時0分 FOOTBALL TRIBE

3月26日、JリーグYBCルヴァンカップ(ルヴァン杯)1回戦の13試合が行われ、J3のSC相模原は、ホームの相模原GIONスタジアムにJ1清水エスパルスを迎えた。1-3で破れ、2回戦進出はならなかった。平日18時キックオフというサラリーマンにとってはなかなかシビアな時間だったものの、清水サポーターが数多く来場したこともあり、3,993人の観客動員数を記録した。
相模原GIONスタジアムの収容人数は約1万5,300人と公表されている。メインスタンド(個席)2,823人、バックスタンド(ベンチシート)3,492人、ホーム側南サイドスタンド(芝生席)4,519人、アウェイ側北サイドスタンド(芝生席)4,466人となっており、座って観戦できる実数は6,315人(車椅子席は除く)。1998年に開催された国体のラグビー会場を改装し竣工されたのが2007年4月で、2008年に設立された同クラブより前だったことから、Jリーグの試合が開催されることを想定されていなかった。そのため「イス席が最低1万人」とするJ2クラブライセンス基準を満たしていない。
そこでSC相模原は、WEリーグ「ノジマステラ神奈川相模原」、ジャパンラグビーリーグワン「三菱重工相模原ダイナボアーズ」、アメリカンフットボールXリーグ1部「ノジマ相模原ライズ」と共同で、JR相模原駅北口の駅前に、J1クラブライセンス基準を満たした新スタジアム計画を提案。J2クラブライセンスの例外規定(5年以内のスタジアムの新設)を受けている。
新スタジアム建設計画については、相模原市に対しても多くのパブリックコメントが寄せられているが、市側は「検討」という表現に留め、決して前向きでないことを伺わせる。水戸ホーリーホックやブラウブリッツ秋田、清水などの事例から、過熱気味の新スタジアムブームに逆風が吹き始めていることで、この計画自体の実現性も不透明となっている。

アクセスに問題がある相模原GIONスタジアム
現在の相模原GIONスタジアムも外観はキレイで、陸上トラックがある割には観戦しやすく、ピッチ状態も良好だ。2018年までナイター施設すらなかったことを考えれば、J3を戦う分には「これで十分」という印象を受ける。
ただこのスタジアム、非常にアクセスに問題があるのだ。駐車場は十分に用意されているのだが、車で行こうとすれば東名道や圏央道のICから向かうにしても渋滞は避けられず、電車で行こうにも最寄り駅はJR相模線の原当麻駅で、そこから登り坂を20分以上歩かされる。
沿線の住民には失礼であることは承知の上だが、ラッシュ時でも1時間に4本、夜ともなれば1時間に2本程度の運行しかない「相模線」と聞くだけで“遠くて不便”という印象を与え、東京都内や横浜、川崎のみならず、相模原市中心部に住む住民にとっても足が向きにくいのではないだろうか。
現実的なアクセス方法は、小田急線相模大野駅からバスに乗る方法だが、直行便ではなく路線バスだ(前売り券の販売状況次第では臨時直行便があるらしいのだが、この日はなかった)。しかも終バスの時間は20時25分。仮に試合が延長戦に突入していたら、相模大野経由で来たファンは途中で帰るか路頭に迷うかの二択を迫られるところだった。この事実だけで、クラブの運営担当は来場者の帰りの足のことなど考えていないことが良く分かる。
三菱重工相模原ダイナボアーズがラグビーリーグワン2023/24シーズン開幕戦の花園近鉄ライナーズ戦(2023年12月9日)において「1万人プロジェクト」を企画し、10,681枚の前売りチケットが発券されたものの、実際の来場者は7,852人に留まり、プロジェクトは失敗に終わった。その理由が駐車場の不足と、輸送バスの不足にあったと分析したにも関わらず、その問題点をSC相模原と共有することはなかったのではないか。
町田GIONスタジアムの成功例
ここで、同じく「株式会社ギオン」がスタジアムのネーミングライツを取得しているJ1町田ゼルビアの本拠地・町田GIONスタジアムを例に取りたい。“天空の城”の異名通り、森に包まれた山あいにあり、最寄り駅である小田急線鶴川駅からは徒歩で何と60分かかる。
しかし、JR横浜線・小田急線町田駅、京王線・小田急線多摩センター駅、JR横浜線淵野辺駅、東急田園都市線南町田グランベリーパーク駅から直行バスを運行し、しかも無料で観光バスだ。これをJ2時代から続けているからこそサポーターを呼び込むことに成功している。
その結果としてJ1初昇格となった昨2024シーズン、平均1万328人が来場し、クラブ史上最多を記録したのだが、強いだけではお客さんは来てくれないことを理解したオペレーションを根気強く続けた賜物ともいえる。SC相模原が本気で集客に力を入れるのであれば、まずはこのあたりから改革が必要だろう。

多岐に渡る観客が増えない理由
SC相模原は、RB大宮アルディージャのJ2昇格とY.S.C.C.横浜のJFL降格によって、首都圏におけるJ3唯一のクラブとなった。上京している(J3クラブのある)地方出身者が我が故郷のクラブを応援できる機会を提供できるという意味ではビジネスチャンスでもある。
しかし、ホーム開幕戦の2月22日のJ3第2節(栃木SC戦/1-0)では4,993人を集めたものの、3月1日の第3節(鹿児島ユナイテッド戦/0-2)では1,829人、3月15日第5節(奈良クラブ戦/1-1)1,262人と、2,000人にも届いていない。ホームタウン(相模原市・海老名市・座間市・綾瀬市・愛川町)出身、在学、在住の小学生以下を対象に全てのホーム戦を無料で観戦することができる「こどもフリーパス」を発行しているが、その効果が現れるのはずっと先のことだろう。
仮にも相模原市は全国で20しかない政令指定都市で、神奈川県内では横浜市、川崎市に次ぐ規模を誇る。それにもかかわらず、観客があまり集まらない理由は地理的・社会的な特性も影響している。相模原市は東京都心へのアクセスが良く、ベッドタウンとしての性格が強い。人口の約24.6%が東京へ通勤・通学しており、昼夜間人口比率が88と低いことから、住民の生活やレジャーの対象が市外、特に東京に向かっていることが伺える。故に地元でのスポーツ観戦より東京に遊びに行く傾向が強い。しかしこれは首都圏にあるJクラブ全て同じ条件だ。観客が増えない理由付けとしては弱い。
2008年創立のSC相模原は、わずか6年でJの舞台に上り詰めたものの、後発クラブであることに変わりはない。それはホームタウンを見れば一目瞭然で、周辺は平塚市はじめ神奈川県西部の20もの市や町をJ1湘南ベルマーレに押さえられ、東側には横浜市、川崎市があり、北側は東京都町田市だ。これ以上ホームタウンを広げられない事情があり、スポンサー集めにも影響してくる。
そうなれば、相模原市の都市人口の力に頼るしかないのだが、相模原市民へのPRも十分ではない。26日の清水戦でも、サポーターの数ではアウェイの清水に圧倒され、スタンドもほぼ清水のオレンジで埋め尽くされていた。

魅力的なスタジアム体験の提供へ
現在、SC相模原の運営会社「株式会社スポーツクラブ相模原」の筆頭株主は、IT大手のDeNAで90%以上の株式を取得している。
DeNAはSC相模原以外にも、プロ野球の横浜DeNAベイスターズや、プロバスケットボールBリーグの川崎ブレイブサンダースを所有。DeNAのIR資料や他球団との比較で推定されるベイスターズの総資産は約167億9,100万円(2023年12月期)にも上り、推定年間約50億円以上を投じていると言われている。ブレイブサンダースにも年間約5〜15億円を費やしている一方、SC相模原に投入しているのは年間約5〜10億円に留まっている。
DeNAの南場智子会長は高校野球もチェックするほどの野球好きで、第三セクター(株式会社横浜スタジアム)が所有していた横浜スタジアムを総額約74億2,500万円で取得した上で「ボールパーク化」を実現させたことは広く知られている。このベイスターズに投じた10分の1でもSC相模原に振り分けてくれれば、少なくともJ2を狙えるチームに変貌させることは可能に思える。オーナーのDeNAもクラブの現状を見て“これで良し”と感じているはずはなく、さらなる投資を求めたいところだ。
地域密着を掲げてはいるものの、まだ地元に根付いているとは言えないSC相模原だが、クラブの歴史の浅さ、近隣クラブとの競合、スタジアムアクセスの悪さ、成績や知名度の低さ、さらに相模原市民の生活に一部となれていない事実などが複合的に影響していると考えられる。
相模原市自体の人口は多いだけに、何かがきっかけで潜在的なファンの掘り起こしが可能になるはずだ。今後クラブが地域との結びつきを強化し、魅力的なスタジアム体験を提供できれば、観客動員増に繋がるポテンシャルは十分にあると言えよう。