【識者の眼】ハリルが警鐘を鳴らすシリアの“時間稼ぎ”。ゲームを“壊されない”ために必要な状況判断

3月29日(火)11時9分 フットボールチャンネル

ハリル監督がミーティングで指摘したシリアの“罠”

 2018年ワールドカップ、アジア2次予選最終戦のシリア戦に臨む日本代表。ハリルホジッチ監督は前日会見でシリアが仕掛けてくる「罠」に対応しなければならないと指摘したが、実際のところ、どのような対策が必要なのだろうか。(取材・文:河治良幸)

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 2次予選の最後の試合となるシリア戦は勝利が求められると同時に、最終予選に向けて、現時点でどこまでチームのプランを実現できるかをはかる機会でもある。

 長谷部誠キャプテンが「この試合でワールドカップ出場が決まるくらいの雰囲気作りをしないといけない」と語る試合だが、シリアはハリルホジッチ監督が“リアリストなチーム”と表現する相手で、フィジカルに優れる上に、中東のチームのなかでも駆け引きを得意とする。

「彼らの誘いに乗らない。リズムを壊しに来る罠にひっかからない。シミュレーションも演技もしてくるかもしれない」

 とハリルホジッチ監督。シリア戦を2次予選の“ファイナル”に位置づける指揮官は、相手の誘いに乗らないことが勝負のポイントになると強調した。

「とにかく罠にひっかからない、シミュレーションにかからない、ファウルをしない。相手のGKは必ず演技をする、リズムを壊しに来る」と強調する指揮官は実際にミーティングで選手たちに映像を見せながら注意を促したという。

「映像とかももちろん見ていますし、第一戦の感覚ももちろん覚えています」と語るキャプテンの長谷部誠も「シリアは非常に挑発して来るというか、もちろんそういう部分もある」と警戒を強める。では前回のシリア戦ではどういうことが起こっていたのだろうか。

 シリアが政情不安にあるため、10月の試合は中立地のオマーンで行われた。AFCの中では良質なジャッジで定評のあるイルマトフ氏が主審を担当したものの、日本はシリアのフィジカル重視の戦い方に苦しみ、なかなかリズムを掴めないまま試合が進んだ。

 しかし、後半10分に長谷部誠のパスから岡崎慎司が相手のPKを誘い、本田が冷静に決めてリードすると日本のリズムが良くなり、香川慎司の絶妙なパスを岡崎が決めて追加点。さらに本田のパスから中央を突破し宇佐美貴史が右足のシュートで3点目を奪った。

警戒すべき危険なスライディングタックル

 シリアは屈強なフィジカルを備え、守備はもちろん攻撃でも、わざと体を相手にぶつけ、そこで優勢になったところからチャンスを作る意識が高い。たとえば10月の試合では、前半5分、シリアの右SBが日本側の深いところにロングボールを入れてきた。わざとDFラインの裏でボールを弾ませ、そこからのイーブンボールに競り勝つ形でシュートに持ち込もうとしたのだ。

 その場面はGKの西川周作が槙野智章をカバーして、アルマワズと交錯しながらもパンチングでボールをかき出したが、ここで一瞬でも対応が遅れていたらシリアが先制し、日本は中東の地で厳しい状況に陥っていたかもしれない。

 さらに吉田麻也のフィードをシリアのDFがクリアすると、セカンドボールを山口蛍が拾おうとしたが、FWマルキのチャージでバランスを崩され、そのまま日本のペナルティエリアまで持ち込まれた場面もあり、日本はギリギリの対応を迫られた。

 シリアの選手たちは、そうしたイーブンボールではボールよりまず体に当たって来る傾向が強い。しかもハリルホジッチ監督が認めるように、いざゴール前に運んだ時の決定力が高いため、時間帯に関係なくイーブンなシチュエーションでは常にシリアのチャージに対する注意が必要になる。

 日本は1タッチ、2タッチをベースとした素早く正確なパスワークでなるべくシリアのフィジカルな戦いに乗らずに試合を運びたいが、相手陣内では競り合いやコンタクトプレーは避けることができない。そこで警戒しないといけないのが危険なスライディングタックルだ。

 昨年の試合では、左SBの長友佑都が縦パスを出し、前方の原口元気が後ろを向きながらボールを受けようとすると、斜め後方からアル・シュブリが原口の足ごと刈り取るようなスライディングタックルを仕掛けてきた。さらに長友が左サイドで1人を突破すると、2人目が果敢に滑り込んでくるシーンもあった。

 シリア陣内のロングボールを巡っては、シリアの選手たちは体を浴びせかけるように競ってくる。前回のシリア戦では大抵がシリアのファウルになっていたが、レフェリーの判定によっては空中戦のこぼれ球からカウンターを食らう危険もある。

 加えてシリアの選手は、日本の選手がコンタクトした際には大げさに倒れて少しでも判定を有利にしようとしていた。

“時間稼ぎ”は日本のリズムを壊す狙いも

 そうしたシリアとの戦い方の中でハリルホジッチ監督が警戒するのはGKアルマの“時間稼ぎ”だ。

 前半26分にFKから香川真司のキックをファーで酒井高徳が折り返し、原口のシュートがブロックされたこぼれ球を本田が狙ったが、惜しくもゴール右に外れた。その時に横っ跳びでセーブに行ったアルマは左足をつったというジェスチャーで倒れ込み、ゲームを止めたのだ。

 その数分後には右CKを本田が蹴り、直接処理に行ったアルマが槙野と少し接触しただけで再び倒れ込んだ。その時はさすがに主審の注意を受けていたが。

 ルール上GKが負傷した場合は試合を中断することになる。それが“演技”であるならば、早い時間帯のこうした行為は単純に時計を進めるよりも、相手のリズムになりかかったところで試合を切り、流れをシリアに引き寄せようという狙いがあるはずだ。

 日本のGK西川は「ゴールキックの時にわざとゆっくりしたり、自分たちのリズムを壊そうとしてくる場面は自分たちも見てイメージはしているので、そういった時でもやっぱり慌てずやること」と語る。

 逆に自分がボールを持った時、ゴールキックになった時は早くリスタートして、攻撃のスイッチを入れることを意識しているようだ。

 ホームの日本にとって大事なのは相手の挑発に乗らず、時間稼ぎをされても冷静にプレーのクオリティを維持していくことだ。

 ファウルすれすれのコンタクトに対しても、高い集中力とプレーの正確性で回避できる部分はあるが、いざ当たる時に怯まないことも重要になる。またハリルホジッチ監督が要求するピッチ内での選手間のコミュニケーションも、シリアのような相手との試合では流れを左右してくるはずだ。

 どれだけ相手の罠にはまらず、クオリティの高いサッカーの試合に引き込めるか。レフェリングの癖を早めに把握することも必要になるが、90分での状況判断や冷静さ、選手間での意識の共有が求められる試合になる。

(取材・文:河治良幸)

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