高橋由伸氏、伝説の開幕戦初球アーチに隠された“秘話” 前夜に定めた「狙い」

3月29日(金)11時34分 フルカウント

「外スラかな」元巨人チーフスコアラー三井氏が由伸氏の背中を押す

 29日からいよいよプロ野球が開幕する。開幕戦に特別な感情を抱く選手も多いが、ファンにとっても特別な一日となる。今から12年前の2007年3月30日。横浜(現DeNA)-巨人の開幕戦。高橋由伸氏の開幕戦先頭打者初球アーチが飛び出した夜をファンならば忘れることはできないだろう。

 大観衆が見守る横浜スタジアム。高橋氏は原巨人の新・切り込み隊長を任された。スタイルはそのままでいい、と指揮官に言われたが、初めての重責を感じていた。

 当時、巨人のスコアラーで、由伸氏から信頼の厚かった三井康浩氏は、開幕前夜、一緒に食事をしていた。焼き鳥をほおばりながら、何気ない会話をしているうちに、開幕戦の話になったという。

「(球種やコースは)何で来るかな……という話になりました。高橋選手は積極的に打ってくる印象を相手投手は持っていますので、見逃しでストライクを取りたいはず。なので外角への緩いカーブかスライダーかなと思いました」

 左打者の外のボールゾーンからストライクのコースに入ってくる変化球でまずはストライクを取りに来ると読んだ。横浜の先発はエース三浦投手(DeNA投手コーチ)だった。

「私は『三浦投手だったら、外スラかな』と言いました。そうしたら、明日、それでいってみようかという結論になりました。その通りになり『はまった!』と思いましたね」

 2人の予想通り、外から真ん中へ134キロのスライダーが来た。迷わず振り抜くと、打球は右中間スタンドへ突き刺ささった。高橋氏は打った瞬間に自然と右腕を高く突き上げていた。開幕戦の初回、それも表の攻撃の先頭打者アーチは過去6人。初球打ちでの一発はセ・リーグでは初の快挙だった。

三井氏が明かす高橋氏のすごさ、1年目に「すごい選手だ」「コイツはいい」

 三井氏は数々の巨人の名打者をスコアラーの立場から見てきたが、高橋氏の特徴をこのように語る。

「松井(秀喜)選手は最後まで配球を読むタイプ。高橋選手は初球を何か読むタイプでしたので、ファーストストライクは何(の球種とコース)で来るかを考えていましたね。なので、開幕戦もそうだったのだと思います」

 なぜ、こだわるのか。他にも別の理由があった。

「彼はすごく緊張するタイプでした。1打席目は足が震えている、なんてこともありました。少しでも気持ちが楽になればいいなと思って、初球に何が来るかを一緒に考えていた時期もありました」

 希代の天才打者でもそのような繊細な一面を持っていた。しかし、打撃センスは入団時から光り輝いていた。

「彼がプロに入った1年目。淡口打撃コーチと一緒に打撃練習を見た時、『すごい選手だ』『コイツはいい』と思いましたね。私はコーチといろいろと意見交換をしてたので、ケージ内で打っていた高橋選手は私のことを『なんだ? このおっさんは…?』と思っていたはずですよ(笑)」

 高橋氏の何がすごいのか。それはスイングした後、顔がしっかりと残っていることだった。入団したばかりの選手がすぐにできる技術ではないという。

松井氏と高橋氏の練習量に脱帽「スーパースターにならないとおかしい」

「別にホームランをボンボン、と放り込むのではなく、顔がぶれないので、ミート率がよかったですね。本人に聞くと、大学時代とは全然違うフォームだったみたいです。プロのスピードについていけないからと自分で変えたと言っていましたね」

 プロになってからフォームの変更をしていた。1年目のシーズン、三井氏は高橋氏と多くの会話をしていない。開幕して2か月経過した頃、調子を落としたことがあった。誰に相談するでもなく、ロッカーで考えこんでいたため、一言、声をかけた。

「『バックスクリーンに打つイメージで行ってみてはどう?』と。それとバットのかぶせ方が気になったので、私からの見た印象を少しだけ言いました。すると、次の日、たまたま高橋選手が大当たりしまして……。私の意見がどこまで影響したかはわかりませんが、それをきっかけで話をするようになりました」

 それ以降、一緒に打撃について考える時間が増えた。三井氏は役職が変わろうがずっと温かい目で高橋氏を見守ってきた。

「けがさえなければ、もっとできた選手。彼の姿勢ではあるんだけど、フェンスに突っ込んでいく。けがが続いた時は『もう少し、なんとかならんか?』と聞いたこともありましたね。松井選手はけがをしたら元も子もないというタイプでそういう部分は冷静。高橋はそこにボールがあるから飛んでいく。対照的でしたね」

 もっと由伸氏のヒットやアーチを見たかったのかもしれない。

「松井選手と高橋選手は対照的だけど、あの2人の練習量はすごかった。それだけは言えます。松井選手は地味だけど素振りでバッティングを作っていくタイプ。高橋選手はティー打撃などボールを打って作っていくタイプ。スーパースターにならないとおかしいですよ」

 何千も、何百も試合を見てきても、記憶に残るプレー、思い入れのあるプレーがあるのはスコアラーも変わらない。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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