【独占】三好康児「最終目標はW杯優勝です、もちろん」インタビュー後編

2024年3月30日(土)17時0分 FOOTBALL TRIBE

バーミンガム・シティ MF三好康児 写真:Matt O’Neil

かつて川崎フロンターレの下部組織で「アカデミー史上最高傑作」と呼ばれたMF三好康児も、今年で27歳。2015年に18歳で川崎のトップチームに昇格した天才レフティは、国内外クラブを経て2019年にベルギー1部のロイヤル・アントワープへ完全移籍し、2021年には東京オリンピックの日本代表メンバーにも選出された。しかし同年10月を最後に代表への招集はなく、2022/23シーズンには左膝の前十字靭帯損傷によりFIFAワールドカップカタール2022への出場は叶わなかった。


現在はチャンピオンシップ(イングランド2部)のバーミンガム・シティでプレーしている三好。カラバオ・カップで優勝するなど古豪としても知られ、2010/11シーズンにはプレミアリーグ(イングランド1部)に所属していたバーミンガムだが、翌シーズンから現在まで10年以上にわたりチャンピオンシップの常連に留まっている。


インタビュー後編では、海外リーグへの挑戦と東京オリンピック、日本とベルギー、イングランドでのサッカーの違いや自身のキャリアにおける最終目標について訊いた。


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インタビュー中の三好康児 写真:Matt O’Neil

初めての海外挑戦とコパ・アメリカ


ー期限付き移籍していた横浜F・マリノスから、2019年8月にベルギー1部のロイヤル・アントワープへ移籍しました。この時のことを教えてください。


三好:そもそも常に海外に行きたいって気持ちはあったので、オファーがあればと思っていました。マリノスにいく段階で「夏にもしオファーがあれば海外に挑戦したいです」という話はしていたので。6月くらいにコパ・アメリカがあって、そこで点を取ることもできてというのがたまたまのきっかけだったと思うんですけど、そこからオファーがちらほらあってアントワープに行ったって感じです。


ーコパ・アメリカ第2戦のウルグアイ戦で2ゴールを記録するなど見事なパフォーマンスを披露しました。コパ・アメリカの経験はどうでしたか?


三好:そうですね、僕の今までのキャリアのなかで記憶に残りやすいゴールかなと思います。一応A代表のキャップ数はついていますけどオリンピック世代中心で出たんで、アピールの場でもありました。自分自身もちろん五輪もそうだし、その先のA代表を目指すというところで、あんなに大きいチャンスはないじゃないですか。だからそのチャンスを最大限に活かそうと思っていましたし(2ゴールは)そこが1つ実った部分だったのかなと思います。




三好康児(ロイヤル・アントワープ所属時)写真:Getty Images

日本人がいないところを求めた


ーロイヤル・アントワープはどのような印象でしたか?


三好:当時は知らなかったんです。正直ベルギーがどこにあるのかも知らなかった(笑)。日本人選手が(ベルギーリーグに)何人かいたのは知っていましたし、それこそシント=トロイデンがベルギーで日本人オーナーのチームというのは知っていました。でも、アントワープの存在は全く知らず。前年に2部から上がってきたクラブでしたが、海外挑戦の1歩目としては日本人がいないところに行きたかったんで、誰もいなくて面白そうだなと。


ー日本人がいないところを求めた理由は?


三好:どうせ海外にいくなら1人で挑戦したいじゃないですか。挑戦している感が欲しいっていうか。もちろんバックアップがあったら楽なんだろうなと思うし(シント=トロイデンが)日本人オーナーであることを全く否定するつもりもないです。(海外移籍の)一歩目としてそこは魅力的だと思いますけど、どうせ挑戦するなら(日本人のいない)そういったところへ行ってみたいなと思ったんです。


ーアントワープでの4年間を振り返ってみていかがですか?


三好:毎年監督も代わっていましたし、なかなか安定しているチームではなかったです。ベルギーリーグ特有っていうか、選手も毎年10〜15人ガラッと変わりますし監督もシーズン途中で代わって、みたいな。4年間いましたけど監督が5人くらい代わっています。


外国人の監督なんて僕のこと知らないじゃないですか。僕もそこまで言葉が堪能じゃなかったですし、ましてや1年目なんかほぼ英語喋れなかったんで、そこらへんの苦労は常にありましたけど。でもそれもまた楽しかったですね。




インタビュー中の三好康児 写真:Matt O’Neil

海外ではポジショニングに変化


ー海外リーグはフィジカル面が強く日本人選手にとって不利なこともあるかと思いますが、工夫していることなどありますか?


三好:そうですね。日本人としてそもそも外国人よりも不利っていうのもありますし、自分なんか身長が小さい時点でどうしても。自分がどれだけ動けると思っていても、やっぱり僕を知らない監督からしたら“ちっちゃい日本人”で片付けられちゃうので、それ以上の技術、それ以上の何かをチームにもたらすことができるっていうところをプレーで見せなきゃいけない。極力ボールに触れて数を増やせるように、そのアピールというか要求を常にしていました。言葉も堪能じゃなかったから、言葉でアピールできない分プレーでどれだけ魅せるかを常に意識してましたね。


ー日本でプレーしていた頃から変わったことはありますか?


三好:ポジショニングが結構変わりましたね。日本人同士とは違って意思疎通がしづらいんで、自分が出してもらえると思った距離感でボールが出せない選手が多かったりとか、ベルギーでは特に。「ここで欲しいんだけどな」とか思っててもそこに出せない選手が結構いましたね、自分の感覚では。


だからちょっと距離を近づけて、確実にボールを出せるところまで落ちてあげるとか。自分がボールを触らないことには何も始まらないので。自分がギリギリのところでボールを受ける受けないの駆け引きをしたくても、そもそもそこを見れてない選手が多い。僕は「マークに付かれてなくてボール出しても平気だよ」と思ってても、出す側は「相手に付かれているから無理だよ」と思ってるみたいな。


そういう意識の違いは結構あって、自分の感覚とベルギー人だったり別の国の選手がどう感じているかを埋め合わせるのは時間がかかった…というか、未だにあります。日本人選手はみんなそうなのかなと思います。




バーミンガム・シティ MF三好康児 写真:Shun Ide

意思疎通のための言語習得も


ー英語が堪能ですが、どのように勉強したのですか?


三好:ベルギーに行く前から一応英会話に行っていて。(海外に)行くつもりだったんでやってましたけど、でもいざベルギーに行ったらそもそも英語圏でもない。ぼくも誰かと会話することがあまりなかったから、自分が思っていた英語よりもすごくフランクな感じで、もう最初は何を言っているのか全然分からなくて。ただ、別にサッカーすれば良いので言葉なんて分からなくても。


伊東純也くんがゲンク(KRCヘンク)にいて、あの人なんて未だに喋れるのかよく分からないけど「何も分かんねーよ」って言ってたんで(笑)「そうか、そういう人もいるんだ」って思ったら全然余裕じゃんって(笑)。でも、喋れるに越したことはないじゃないですか。だからちょっとずつやっている感じで、いまだに勉強中です。


ー現地のバーミンガムサポーターからは三好選手の英語は好評です。


三好:それこそここはイギリスだから。英語圏だから普段からみんな英語喋っているじゃないですか。毎日集中してやれば少しずつでもアップデートできる。いまだに英語の先生に家に来てもらったりしています。1ヶ月くらい前まで外国人の先生に週2で来てもらってて。それはベルギーの時もやっていました。


ー努力家なんですね!


三好:いや、暇じゃないですか!だって練習は午前で終わるし、どうせ海外にいるし何かサッカー以外にも身につけるとなったら語学ぐらいできていた方がいいじゃないですか。


三好康児(日本代表)写真:Getty Images

「不思議な大会だった」東京五輪


ー2021年に行われた東京五輪のメンバーに無事選出されましたが、ご自身にとってオリンピックはどんな大会でしたか?


三好:難しいですね…。結果的には悔しい大会でした。メダルを取れていないんで。結局4位だった。吉田麻也くんも最後の方で言っていたんですけど「メダリストで終わるのか、ベスト4で終わるのか全然違う」と。ましてや自分たちは金メダルを目指してたんで、結局なにも成し遂げられなかった大会だと思います。個人としても、そこは本当悔しかったです。コロナもあって大会も延期して観客も入らず、何か不思議な大会でしたね、今思えば。


ーやっぱり選手もそう思っていたんですか?


三好:思ってましたよ、だって観客いないんですよ!(笑)親も家族も見に来れないんですよ。運営の人たちだけスタンド入って、もちろんありがたいですけど。今思ったら、あんな中でよくみんなやってたよなって。別にオリンピックに限らないですけど。


コロナの時期だからしょうがない部分もありますが、なんかオリンピック感があまりなかったというか。僕らは選手村にも入れないし、ずっとチームで同じホテルに缶詰状態でそこから試合に行って。対戦相手は外国チームですけど、なんだか「オリンピックだった…のかな?」って感覚(笑)。だから、自分はワールドカップに出れなかったですけど、あれだけの熱狂度があるような大会にまた自分も出たいなと思いました。


ー五輪では先発出場が初戦の1試合のみで、その他は途中出場でした。個人的には「ちくしょう」と悔しい気持ちでしたか?


三好:そうですね。やっぱり入れなかったら「ちくしょう」ですが、ただチームが勝つために自分は何ができるかを大会中に考えるので、そこに不満とかは別に持たないです。個人としてスタートから出られないことや、チームの力になりきれてないというところは冷静に分析して、自分の力が足りない部分は受け止めなければいけない。逆に言ったらその悔しさが今に繋がったなという風に思います。


ー今振り返ると何が足りなかったと思いますか?


三好:今もそうですけど、前線の選手は試合を決定づける力っていうのは常に必要とされています。五輪のような大会ではタレントとなる選手がいるチームが勝つじゃないですか?そういった選手は点を取るし。だから自分がそういう選手にならなければいけないですし、なりたいって思ってる。


日本代表として世界で戦っていくには、今だったらタケ(久保建英)だったり(堂安)律、(伊東)純也くん、そういった選手以上の活躍をしなければその舞台に立てないと思っています。(三笘)薫もそうですけどちゃんとした結果を残しているので、自分がそういう舞台に立ちたいと思ったら彼ら以上の活躍をしないといけないのは当たり前のことだって感じですね。




バーミンガム・シティ MF三好康児 写真:Getty Images

「迷いは全くない」バーミンガムからの再出発


ーそして2023年にはバーミンガムに移籍されました。どのような経緯だったのでしょうか?


三好:2022年の終わりに怪我(左膝の前十字靭帯損傷)をしちゃって、アントワープでの2022/23シーズンはほぼ棒に振ったので、フリーになってからも海外でやりたかったです。日本に帰るという選択肢は全く持っていませんでした。


4月くらいの段階で復帰はできていたのですが、アントワープも優勝争いをしている中で試合には出してもらえず、というかそこまで(コンディションを)持っていけず。でも次の年を見据えて「自分のコンディションは戻っているんだぞ」っていうのを代理人経由でいろんなチームにアピールしてほしかった。オファーをくれるクラブがあればそこに行ってチャンスを掴みたいと思っているなかで、バーミンガムからオファーをいただいて選んだ感じです。


ーご自身初めての2部リーグですが、Jリーグのトップチームや、ベルギーリーグの上位アントワープを経験されてからの2部挑戦に抵抗はありませんでしたか?


三好:無くはないですけど、いってもイギリスなんで。チャンピオンシップって2部だけどチームの力とか予算規模とかそういった面ではベルギーリーグとかより上、もしくは同等の力を持ったクラブたちがいると思います。僕もそんなに知らなかったんですけど。ましてや昇格すればプレミアリーグという世界最高峰のリーグに挑戦できる。そこは簡単じゃないですが、怪我からの復帰という部分もあったので新たな国に挑戦したいと思い、2部ですけどイギリスでやってみたいなと思いました。


ーバーミンガムの印象は?


三好:その時は(バーミンガムを)知らなかったですね(笑)。


ーですよね(笑)ではチャンピオンシップの印象は?


三好:ありましたよ。それこそ中山(雄太)が1年早く行ってて。去年だったらバーンリーの(ヴァンサン・)コンパニ監督もベルギーから行ってましたし、アントワープの時のチームメイトとかもバーンリーに行ったりしてて、情報はちょくちょく見てました。リーグとしての質の高さっていうのは聞いたり見たりもしてたんで、挑戦することに対しての戸惑いはなかった。楽しみの方が大きかったです。


ー今のところはどうですか?


三好:今年も語れば色々出てくる1年になっていますけど(笑)。それも含めて経験だし難しさもあり、個人的には怪我をせずここまでプレーできている充実感もあるって感じですね。ただ、激しいリーグなのでまだ気を抜けません。


ーバーミンガムへの移籍を聞いた時は、とても意外に思いました。ご自身のなかでは良い選択だったと納得できていますか?


三好:そこも僕は全く迷いがないというか。怪我をしている中で一番最初に熱いオファーをくれたのがバーミンガムでした。それ(熱意)は自分のなかで大切にしているものなので。このチームで僕は本当にプレミア昇格を狙うつもりで来ましたし、現時点では難しい1年になっていますけど(バーミンガムに)来るタイミングではオーナーやいろんなものが変わる中で、その力になれればと思っていました。だから今も思ってますけど、そこに関しては全く何の迷いもなければ戸惑いもないというか、良いクラブだと思います。


三好康児(北海道コンサドーレ札幌所属時)写真:Getty Images

日本、ベルギー、イングランドのサッカーの違い


ーJリーグ、ベルギー、イングランドと経験されて、何が違うと思いますか?


三好:やっぱりサッカーの違いは大きいです。自分が入ったチームなんか特にそうでしたけど、Jリーグはボールを握ってビルドアップ。キーパーからどう相手を崩していくかみたいな。インテンシティの高い試合もありましたが、今思えばそんなに高くなかったかなって。どちらかというと、どうボールを握って相手を攻略していくかみたいなことを考えることが多かった。


ベルギーに行くとチームにもよりますけど、アントワープに入った時なんかはアフリカ人ばっかりで、全部のボールを蹴ってヘディングで勝って、僕はなんとかそれを拾ってという感じで。「これもまたサッカーだよな」と思いつつ、でも何故か分からないけど全然走らないフォワードが毎試合点を取るみたいな。サッカーって面白いなって改めて思わされました。


チャンピオンシップなんかは特に縦に速い。常に攻守入れ替わるようなサッカーで、自分たちがチャンスでゴールを決めるか決めないかという場面だと思っているうちに気付いたら失点してる(笑)。だからやってても面白いし、見ている方も面白いと思います。トランジションの部分の戦いはイギリスっぽいなって。プレミアはそこに強度と質が加わっている。チャンピオンシップでサッカーをしているからこそ、プレミアでやっている選手はすげーなって思います。




三好康児(日本代表)写真:Getty Images

怪我をしていなくても難しかったカタールW杯


ー左膝の前十字靭帯損傷でカタールW杯への出場は叶いませんでした。そのときの気持ちを教えてください。


三好:もちろん悔しかったですけど、じゃあ怪我をしていなかったら自分がワールドカップに出ていたのかと言われるとそれも難しかったんじゃないかと思っているんです。だからどっちにしろ悔しい大会にはなっていたと思います。今もそうですけど、別に代表に絡めている選手ではないので。


でも怪我をしてしまったタイミングと重なったことで、サッカーができない時期に大会を見ていた悔しさもあり、一緒にやっていた選手が出てるから応援している気持ちもあって「負けられないな」という良い意味で自分のリハビリのモチベーションになってましたね。


ー代表への思いは常に?


三好:もちろん、自分がサッカーを目指した理由がまず「ワールドカップへの出場」なので。代表への想いが常に自分を奮い立たせてくれます。もちろんクラブでやっている時はクラブに集中していますけど、その先に代表っていうのがあると思っているので。


自分に声がかかるようにまず活躍したいですし、そのタイミングが来れば実力を発揮できるように常にやっていきたいと思っています。毎回インターナショナルマッチウィーク(の代表活動)で自分が選ばれるチャンスがつかめるように、チームでやるしかないなと思っています。


ー今年で27歳ですが、キャリアで成し遂げたい夢やゴールは?


三好:やっぱりチャンピオンズリーグ(CL)に出たいですね。やっぱりヨーロッパでやっていたらそうなってきますよね。最終目標は「ワールドカップ優勝」です、もちろん。




インタビュー中の三好康児(左)写真:Matt O’Neil

あとがき


三好とのインタビューは筆者にとって格別な思い入れがある。川崎市出身の三好と同様、筆者も川崎市で生まれ育ったからだ。川崎フロンターレのサポーターでもある筆者にとって、三好が「アカデミー史上最高傑作」と呼ばれる理由とその意味の重みも十分に理解しているつもりだ。


そんな三好への取材を通していつも驚かされるのは彼の平常心だ。試合後の取材では勝っても負けても常に同じように明るく丁寧に振る舞う三好の姿が印象的だったが、これも川崎のアカデミー時代に培われたものなのだろう。結果に関わらず平常心を保てるからこそ、安定して質の高いプレーを披露できているのかもしれない。そしてバーミンガムへの移籍について「全く迷いはない」という力強い言葉を聞き、並々ならぬ覚悟を持って彼がイングランドに挑戦していることを明確に感じた。


バーミンガムは2024年3月現在、3部リーグへの降格圏ギリギリにまで沈んでいるが今シーズンから経営に参入した米投資企業オーナーのもと、来季はプレミア昇格に向け本格的な大型補強に乗り出すと見られている。2023シーズンのJ2リーグを町田ゼルビアが制覇したように、三好が中心となった新生バーミンガムがチャンピオンシップを席巻し、2012年以来となる悲願のプレミア昇格を果たすのも決して遠い夢物語ではなさそうだ。川崎で名を馳せた「アカデミー史上最高傑作」の活躍に是非とも期待したい。

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