【識者の眼】ハリル流インテンシティの正体。濃密な8秒間に見えた驚異のスピード・連動性

3月30日(水)11時22分 フットボールチャンネル

フィジカルが強い相手に示した素早い攻撃

 29日、シリアを相手に5-0と完勝した日本代表。選手たちはスプリントを繰り返しながら、相手を圧倒する素早いパスワーク見せた。チーム構築が順調に進んでいることを示したとも言えるが、まだまだ取り組むべき課題はある。(取材・文:河治良幸)

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「非常に美しい夜だった。美しい勝利ができた。スペクタクルだったとさえ言える」

 ハリルホジッチ監督が開口一番にそう振り返る試合は5-0の勝利という結果はもちろん、シリアを相手に現在の日本代表ができるチャレンジを行った。1タッチ、2タッチのパスを中心に、素早くスペースを狙いながら、ときに周囲がスプリントで味方を追い越す。

「第一段階は終わった。第二段階は、もう少し難しくなる。このチームの発展と向上はまだ終わっていない。すべての面でまだ伸びると思う。タクティクス、メンタル、フィジカル、テクニック。そして得点能力をもっと伸ばしたい」

 チャレンジの中で目に見えるミスや連携のズレはあったし、攻守のバランスが崩れたところから危険なカウンターに持ち込まれるシーンもあった。

 指揮官が主張するように最終予選、さらにロシアW杯を見据えるならば、ここからさらに成長していく必要があるに違いない。それでもチームが目指すスタンダードを示す意味で、価値のある試合だった。

 シリア戦の2日前、非公開練習の中でフィールドをコンパクトにした10分×2本の紅白戦を行ったというが、ハリルホジッチ監督は「みなさんが我々の紅白戦を見られたら良かった。ボールの速さ、スピード。ゴールを仕留めるというところは少し問題がありますけど」と語るほどの内容だったようだ。

 長谷部誠も「インテンシティの高いゲームだった」と感想を語っていたが、90分の中で波はありながらも、シリア戦ではフィジカルの強さを押し出すチームに対してそうしたプレーを表現できたのではないか。

かつてないスピード感のなかで多人数がボールに関わる

 たとえば前半2分のシーンでは過去の日本代表にも見られないスピードの中で、ほぼ全員が攻守に関わった。

 中盤で香川慎司と長谷部誠が縦に挟んでボールを奪ったところから本田圭佑がつなぎ、長谷部と手前に引いて来た岡崎慎司の2人でボランチのアルメダニとアルムバイドを突破。岡崎からショートパスを受けた香川真司が、左をスプリントで追い越した宇佐美貴史に縦パスを通す。

 香川は宇佐美に対する相手の対応で空いたペナルティエリアのニアサイドに走り込むが、宇佐美はそこでタメを作りながら、さらに外側を追い越す長友佑都にボールを出す。長友はダイレクトで左足のクロスに持ち込もうとするが、右SBアルミダニのスライディングタックルに阻まれ、CKとなった。

 ここまで8秒間で8本のパスがつながれているのだが、ボールタッチ数はわずかに13回。そのうち4回は左サイドでタメを作った宇佐美のもので、それ以外はほとんどワンタッチだった。さらに受け手がボール保持者より前に出たのが4回で、岡崎から横パスを受けた香川も後ろから前に出る形でボールを引き出している。

 もう1つ注目したいのがペナルティエリアの中に入っている人数だ。香川から宇佐美にボールが出た時点では岡崎と本田もエリア内に達していなかったが、長友がクロスを上げようとした瞬間にはその2人に加え、香川とボランチの山口蛍が走り込んでいたのだ。さらにファーサイドのミドルレンジには右SBの酒井高徳が顔を出していた。

 このシーンに関して選手の判断を問うならば、香川としては自分が走り込むところに宇佐美からタイミング良くリターンパスをもらいたかったのかもしれない。というのも宇佐美に対して相手のサイドハーフとSBがつく形になったが、長友が外側を追い越すことで1人の意識を引き付けていたからだ。

 つまり長友をダミーにしながら、宇佐美が中でフリーの香川にパスを出せればそのまま決定的なシュートにつながった可能性が高い。だが宇佐美はおそらく中も視野に入れながら、長友を使う方を選択した。

 どちらが正しいということではないが、これだけ短い時間、早い流れの中で全てのイメージがシンクロすることは簡単ではない。

守備強度を高くした際に生じるカウンターのリスク

 しかしながら、こうしたスピードや攻撃人数の中でチャレンジを繰り返せば繰り返すほど、選手間のイメージは合いやすくなるし、判断の正確性も増していくはず。

 この2分のシーンは象徴的だったが、これに似たプレーが何十回と見られた中で、そこでの狙い、成果、ズレなど具体例をあげたらキリが無いほどだ。

 前半、そうした流れの中で相手のオウンゴールによる1点しか奪えなかったことは課題だ。一方で後半は結果的に4得点をあげたが、全体的に体力が落ち、シリアも前線が攻めのこってロングボールを受ける戦い方に切り替えている状況になった。前掛かりの攻撃を繰り返したために中盤が間延びしており、日本はカウンターを受けるリスクが高くなった。

 相手のレベルが高くなるほど守備の強度が高くなり、前からの守備がはまらなかった時にはカウンターのリスクが高くなる。それだけに、もっと状況判断や精度を高める必要があるし、暑さやアウェイの環境なども想定すれば、勝負としてはときにゆっくり試合を進めるなどゲームコントロールも求められてくる。ただ、そうした部分は次の段階で改善していくものだ。

「監督も攻撃的な守備をどんどんしていこうということでやっているので、今日はそういった部分でいい部分はたくさんあったし、攻撃で良い部分は出せたと思います。ただ、最終予選は甘くない」

 前回の最終予選を経験した長友がそう語るように、一度スタンダードを引き上げたところから、色々な面をどうアジャストして実戦型にしていくのか。ここから先はそのディテールとクオリティが問われていくし、指揮官もそのことは“第二段階”のプランに入れているはずだ。

(取材・文:河治良幸)

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