久保裕也、ハリルJ最大の発見か。指揮官が求めたストライカーの条件。期待への満額回答

3月30日(木)12時5分 フットボールチャンネル

「一人に10試合のチャンスを与えることはできない」(ハリルホジッチ監督)

 UAE(アラブ首長国連邦)、タイ両代表にともに完封勝ちを収め、ワールドカップ・アジア最終予選のグループBで初めて首位に浮上した日本代表。個人にスポットをあてれば、最大の収穫となったのがFW久保裕也(ヘント)であることに異論はないだろう。2試合で2ゴール3アシストをマークした八面六臂の大活躍は、所属クラブでのパフォーマンスを含めて、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督がストライカーに求める条件を完璧に満たしつつある。(取材・文・藤江直人)

——————————

 長く探し求めてきた恋人に、ようやく出会った心境なのかもしれない。UAE(アラブ首長国連邦)代表との大一番が迫っていた3月上旬。日本代表を率いるヴァイッド・ハリルホジッチ監督に、その胸中を直撃する機会があった。

 約1時間半にわたって熱気を帯びた言葉が飛び出してきたなかで、指揮官は前線の選手について「私はゴールゲッター、ストライカーをずっと探している」とこう言及している。

「誰がいま、点を取れるのかを常に考えている。1シーズンで10点、15点、20点を取れる選手がいるかどうか。我々が抱える問題のひとつであり、そういう選手を求めているからこそ、前線の選手がよく変わる。

 たとえば一人の選手に、10試合のチャンスを与えることはできない。チャンスが訪れたときにしっかり点を取って、自分でストライカーのポジションを勝ち取らないといけない」

 指揮官が定める条件に対して、満額の回答を弾き出しつつある存在が久保裕也(ヘント)となる。UAE、タイ両代表と対峙した今回のワールドカップ・アジア最終予選シリーズにともに先発して、2ゴール3アシストをマーク。日本代表があげた6ゴールのうち5つに絡む、まさに八面六臂の活躍を演じてみせた。

 敵地アル・アインで23日に行われたUAE戦では、開始13分に先制ゴールをゲット。右サイドバックの酒井宏樹(オリンピック・マルセイユ)にパスを要求しながら、右サイドから斜めにゴール前へ侵入。酒井からのスルーパスを、角度のない難しい位置から、スペースのないニアサイドを打ち抜いた。

 後半7分には後方からのロングボールをFW大迫勇也(ケルン)が落とし、右サイドで受けた久保が仕掛ける。中央へ走り込んできたFW原口元気(ヘルタ・ベルリン)が、相手を引きつけているのがよく見えたのだろう。ファーサイドへ送った完璧なクロスが、MF今野泰幸(ガンバ大阪)の追加点を生んだ。

フラストレーションがたまる流れを一掃した一撃

 舞台を埼玉スタジアムに移した28日のタイ戦では、開始8分のMF香川真司(ボルシア・ドルトムント)の先制弾、19分のFW岡崎慎司(レスター・シティ)の史上3人目となる国際Aマッチ通算50点目を立て続けにアシストする。

 特に岡崎のゴールを導いたアーリークロスは、走り込んできた岡崎がジャンプし、最後に首を伸ばしたニアサイドのスペースを寸分の狂いもなく狙ったコントロール、スピード、そして高さのすべてをハイレベルで満たすものだった。そして、後半12分にクライマックスが訪れる。

 酒井宏のスローインを受けて上手く前を向き、右サイドからペナルティーエリア付近に侵入。目の前が空いた瞬間に迷うことなく左足を振り抜くと、強烈な弾道をゴールの右隅へと突き刺した。

「意外とフリーだったし、あの状況ですごく落ち着いていたので、シュートを打とうと思いました。ニアというか内側を狙ったんですけど、あそこまで上手くいくとは思わなかった」

 2点をリードしてから信じられないようなパスミスが続き、前に出てくるタイの姿勢とあいまって幾度となくピンチを招いていた。フラストレーションがたまるような悪い流れを一掃する豪快な一撃に、寡黙な男は珍しく雄叫びをあげて、右腕を夜空へ突きあげた。

「ホームでは初ゴールだったので、うれしくて」

 貪欲な思いが、成長を加速させている。オマーン代表との国際親善試合、サウジアラビア代表とのワールドカップ・アジア最終予選に臨んだ昨年11月シリーズから、ハリルジャパンに初招集された。

 もっとも、ポジションはFW本田圭佑(ACミラン)が長く務めてきた右サイド。多少なりとも覚えた違和感を消し去っていくことが、自分にとってプラスになると信じて取り組んできた。

「右サイドというのはチームであまりやっていないので、その意味ではここ(日本代表)でやれることで、もっと幅を広げられるのかなと。自分のプレーが上手くいけば、最後は必ずゴールがついてくると思っているので、ゴールの前段階のプレーをしっかりやっていくことが大事かなと。

 去年の11月に右サイドで出たときは、いい形で終われなかった。それに比べたら少しやれるかな、フィットしてきているかな、という実感はわいてきましたけど。でも、もっともっとやれると思う。崩しの部分もパス回しの部分ももっとよくなると思し、改善点はいろいろとあると思う」

「他のベテラン選手にとって非常にいい刺激」(吉田麻也)

 右サイドで試行錯誤を続けるなかで、確固たる結果も残して日本を連勝に導く。たくましくも映る23歳の背中に、負傷離脱したMF長谷部誠(フランクフルト)に代わり、2試合連続で左腕にキャプテンマークを巻いたDF吉田麻也(サウサンプトン)はチームの起爆剤になっていると目を細める。

「(久保)裕也がゴールを入れるというのは、他のベテラン選手にとって非常にいい刺激になる」

 たとえば30歳のDF長友佑都(インテル・ミラノ)は、北京五輪代表に選出されていた自身の23歳のころと久保を思わずダブらせると笑う。

「昔の自分というか、同じ年代のときの自分を思い出しますよね。(本田)圭佑もそうだったけど、僕も怖いもの知らずで、前へ、前へという感じだった。久保を見ていると、本当に面白い」

 今冬に3年半にわたってプレーしたヤングボーイズ(スイス)から、ヘント(ベルギー)へ移籍したことも相乗効果をもたらしている。

「結果もついてきているので、その部分ではチームを変えてよかったと思いますけど。システムも(ヤングボーイズとは)違うし、いろいろなサッカーに触れられているのはいいのかなと」

 移籍後は7試合で5ゴールをゲット。直接フリーキックを叩き込んだものもあれば、ハーフウェイライン付近からドリブルで4人を抜き去って決めたものもあった。

 バリエーションに富んだゴールと、味方のゴールにも絡む仕事ぶりは、憧れの存在として名前をあげてきた元日本代表FW柳沢敦(現鹿島アントラーズコーチ)をほうふつとさせる。

リオ五輪世代の突き上げ。ベルギーでの活躍でさらなる高みへ

 ヤングボーイズでも今シーズンの前半だけで、公式戦で12ゴールをあげていた。ヘント、そして日本代表のゴールを加えれば「19」となり、ハリルホジッチ監督が掲げた数字のなかでも最も大きなものをクリアしつつある。指揮官はタイ戦後の会見で、久保にこう言及している。

「この2試合で質の高さ、決定力の高さを見せてくれた。素晴らしい2ゴールをあげて、アシストも決めてくれた。私の起用に対して、彼自身が(期待を)裏づけしてくれた。若くしてこのようなプレーができる選手を発見できたので、さらなる進化を期待したいし、成長を続けてほしい。

 ただ、守備を含めてたくさん走っていたので、最後は試合から消えかかっていた。それもあって、彼にはフィジカルコンディションをもっと上げるように要求している。代表のサイドのポジションはアップダウンが激しいので、そうしないと役割を果たせないからだ」

 現地時間2日からは、リーグ優勝をかけた上位6チームによるプレーオフが幕を開ける。前出の衝撃的なドリブルからのゴールなどで最終節を勝ったことで、ヘントはプレーオフ出場を決めている。

「(スイスとは)スタイルも違うので、あまり比べられないと思いますけど、まあ似たような感じですかね」

 こう語る久保は、おそらくヘントで結果を残すことで、さらなるステップアップを狙っているのだろう。日本代表における活躍も、輝きを放ちつつあるサッカー人生にもちろん相乗効果をもたらす。

「目に見える結果が出たことはすごくよかったと思いますけど、これからかなという感じですね。僕らの世代がもっともっと出て来ないといけないし、その意味でももっと活躍していかないといけない立場なので。上の世代を含めて、刺激を与えられるように頑張っていきたい」

 浮かれるような素振りは、ほとんど見せない。ピッチとは対照的な、寡黙な立ち居振る舞いは古風なサムライを想像させる。ハリルホジッチ監督を魅了し、本田や長友、岡崎らのベテラン勢を刺激する世代交代の旗手を演じ、リオデジャネイロ五輪世代をもけん引しながら、久保は成長を続ける。

(取材・文:藤江直人)

フットボールチャンネル

「久保裕也」をもっと詳しく

「久保裕也」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ