FC東京・廣末陸への期待感。元代表守護神・川口能活の目に映った選手権優勝GKの資質

3月31日(金)12時14分 フットボールチャンネル

90年代を直接知らない廣末。相手チームのGKは41歳川口

 今年1月の全国高校サッカー選手権で青森山田を悲願の初優勝に導いた守護神、18歳の廣末陸がプロデビューを完封勝利で飾った。舞台は加入したFC東京がU‐23チームを参戦させているJ3。味の素フィールド西が丘で3月25日に行われた、SC相模原との第3節で初先発してチームの連敗を止めた。運命に導かれたかのように、相手チームには廣末が憧れ続けてきた元日本代表GK川口能活が所属している。41歳のレジェンドの目には、高校選手権優勝キーパーの後輩はどのように映っていたのか。(取材・文・藤江直人)

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 清水商業高校での全国制覇も、アトランタ五輪で王国ブラジル代表を撃破した「マイアミの奇跡」も、そして日本代表が悲願のワールドカップ初出場を勝ち取った「ジョホールバルの歓喜」も。守護神・川口能活がさっそうと駆け抜けた濃密な1990年代を、FC東京のルーキー、GK廣末陸は直接知らない。

 何しろ産声をあげたのが、岡田武史監督に率いられた日本代表が3連敗でグループリーグ敗退を喫した直後の1998年7月6日。それでも青森山田高校の守護神として今年度の全国高校サッカー選手権を制し、プロの世界に飛び込んだ18歳は、「僕のアイドルなんです」とレジェンドへ憧憬の念を抱いてきた。

「身長があまり高くないなかで、あれだけの素晴らしい成績を残された方なので。僕にとっての憧れの人ですし、(川口)能活さんを超えるくらいの気持ちでやっていかないといけないと思っています」

 現在はJ3のSC相模原でプレーする川口のサイズは180センチ、77キロ。決して恵まれていない体の大きさを、シュートストップの速さ、攻撃の起点になる正確なフィード、そして「炎の守護神」と呼ばれる理由にもなった、最後尾から味方を熱く叱咤激励する存在感で補ってあまりある活躍を演じた。

 廣末も身長では苦い思いをさせられた。FC東京U‐15深川でレギュラーを勝ち取りながら、2013年の夏にFC東京U‐18へ昇格できないと告げられた。理由は当時で180センチに届かなかった身長だった。

 昇格を勝ち取ったのは180センチを超えていたチームメイト山口瑠伊と、すでに190センチを超えていたFC東京U‐15むさしの波多野豪。ゴールキーパーというポジションゆえに、絶対的な「高さ」が求められるのは理解できた。それでも、廣末は臥薪嘗胆の思いを胸中に秘めて青森山田の門を叩いた。

「見返してやりたい、という一心でずっとやってきました。選手権で優勝して、高卒でプロになろうと」

2種登録選手5人が先発メンバーに名を連ねたU-23

 誓い通りに全国の頂点に立ち、183センチ、78キロの体だけでなく、技と心も急成長を遂げる過程でFC東京を再び振り向かせた。背番号「30」を託され、迎えた3月25日。公式戦デビューのチャンスが訪れた。

 舞台はJ3第3節。場所はホームの味の素フィールド西が丘。FC東京が昨シーズンからJ3に参戦させている、U‐23チームの先発として指名された。相手は川口の所属する相模原。運命に導かれた縁を、感じずにはいられなかった。

 中村忠監督から正式に先発を告げられたのは、キックオフ前のミーティングだった。しかし、開幕からゴールマウスを守ってきた波多野が、U‐20日本代表のドイツ遠征に招集されて不在だった。

「覚悟はできていました。チャンスが来るとしたらここだろうな、という心持ちでいたので。絶対に勝つ、という強い気持ちをもって、いい準備ができたと思っています」

 FC東京U‐23の先発メンバーには、U‐18に所属する2種登録選手が5人も名前を連ねていた。平均年齢は18.55歳。リザーブの3人も2種登録選手で、ベンチ入りしたメンバーの平均年齢は18.21歳まで下がる。それでも、3人とキーパー1人を起用できるオーバーエイジを採用しなかった。

「J1に一人でも多くの選手を輩出して、活躍させる。そのための準備やプレーの確認といった、個人のところがウチのチームでは特化している。このチームでしっかりプレーする、トレーニングの段階からしっかり見せられる選手が、J1の試合に出られるということ」

 中村監督も育成と勝負を絶妙のバランスで両立させる、難しいポジションにいるチームだと認める。案の定、年齢に導かれた経験と体のサイズで勝る相模原がキックオフから優位に立つ。

 押し込まれる時間帯が続くなかで、廣末は最後尾から常に大きな声を発し、出場メンバーでは最高齢となる22歳の山田将之、トップに昇格して2年目の19歳・柳貴博のセンターバックコンビを鼓舞し続けた。

デビュー戦無失点も自身のプレーは「60点くらい」

 守っては前半29分、MF普光院誠が放ったシュートを左へダイブ。懸命に伸ばした左手で、コーナーキックへと局面を変えた。

「もともと緊張するとか、そういうタイプではないので。試合を楽しめたかな、とは思います」

 両チームともに無得点の均衡が崩れたのは後半13分。FC東京U‐18所属の17歳、MF小林幹があげたプロ初ゴールを全員が体を張って死守し、開幕3戦目にして初白星をもぎ取った。中村監督は特に守備陣の間で途切れなかった集中力を勝因にあげている。

「苦しい時間帯が続いたなかで、ゴールキーパーやセンターバックを中心によくはね返して、こぼれ球を拾う作業を根気強く繰り返してくれた」

 公式戦デビューを白星で、それも完封で飾り、試合後にはサポーターのリクエストに応える形で、FC東京恒例の勝利の勝ちどき「シャー!」まで実践。廣末は終始、笑顔を浮かべていた。

「自分自身のプレーとしては60点くらいなんですけど、ただ無失点でデビューを飾れたこと、2連敗だったチームの流れを変えられたことは本当によかったと思います。今日は『シャー!』をやるようなプレーはしていないんですけど、サポーターの方々の配慮でやらせていただいて。正直、最高の気持ちでした」

 青森山田の一員だった昨年12月11日。高円宮杯U‐18プレミアリーグEASTの最終節で、FC東京U‐18と優勝をかけて対峙した。会場となったFC東京小平グラウンドには大勢のFC東京サポーターがかけつけ、威圧感と緊張感とを覚えながらプレーしたと苦笑いで振り返る。

「ゴール裏を含めて、ぐるりと囲まれて。あのときは相当嫌でしたけど…いざ応援される立場になると、こんなにも心強いんだなと。(プロになって)なかなか上手くいかなかった時期もありましたけど、そのなかでも応援してくれる方がいて本当に嬉しかった。それ(応援)を力に変えて、これからもやっていきたい」

「連敗を止めるということは、それだけ彼に資質があるから」(川口能活)

 開幕前から25歳の藤吉皆二朗とポジション争いを繰り広げてきた41歳の川口は、3試合続けてリザーブのまま試合終了の笛を聞いていた。ベンチで、そして後半はタッチライン際でウォーミングアップをしながら、23歳も年下の廣末のプレーを見ていた。

「僕は相模原の一員なので負けたことは悔しいけど、連敗を止めるということは、それだけ彼に資質があるからだと思う。勝ちを呼び込めるというのは、いいキーパーの条件なのでね」

 川口自身も横浜マリノス(当時)に加入して2年目の1995シーズンの開幕直後に、レギュラーポジションを獲得。ファーストステージを制し、ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)とのチャンピオンシップも制して年間王者を獲得し、その後の代表での軌跡へとつなげていった。

 前出したストロングポイントを惜しむことなく繰り出し、一気にスターダムへと駆け上がっていったが、廣末にもプロで生き抜いていくための武器があると感じずにはいられなかった。

「フィードが非常にいいですよね。ディフェンダーが対応しにくいボールもあれば、若干ぶれているボールも蹴るし、あとはライナー性のボールといろいろ使い分けて蹴っている。いまは若くてパワーがあるので、すごく距離を飛ばしているけど、コントロールキックや緩急をつけられるようになれば、彼の武器にさらに磨きがかかるんじゃないかと思います」

「能活さんに負けないように頑張っていきたい」(廣末)

 小学生時代はフォワードで、PK戦のときにゴールマウスに立っていたという廣末も、青森山田での3年間でキックに磨きをかけてきた。

「そこ(キック)が自分の持ち味でもあるし、波多野選手との違いでもあると思っているので。そういう違いというものを、少しでも出せたらという思いでやっていました」

 こう語る廣末は、依然として笑顔を絶やさない。実は取材エリアに姿を現す直前に、関係者の計らいで川口と対面していた。もちろん、憧れのレジェンドと顔を会わせるのは初めて。短い時間だったが、かけがえのない瞬間となった。

「細かい部分というよりは、プロの世界の厳しさというところを教えていただいて。最後には『頑張れよ』という言葉をいただいたので、能活さんに負けないように頑張っていきたい」

 鹿児島ユナイテッドを江東区夢の島競技場に迎える次節からは、身長が196センチにまで伸びた波多野が復帰する。5月に韓国でU‐20ワールドカップを控えるU‐20代表チームにおいては、AFCアジア選手権を制して出場権を獲得した昨秋の段階では廣末が名前を連ねていた。

 今回のドイツ遠征では波多野と、フランスリーグ1部のFCロリアンに所属する山口が招集されている。プロの世界での第一歩を踏み出したいま、廣末のなかで新たなる勝負へのゴングが鳴らされた。

「いざ一回立ってみると、またこういう場所でプレーしたいと思いますよね。そのためには常日頃から努力を続けて、次の目標へ向けて一歩一歩やっていきたい。ここが僕のゴールではないので」

 倍以上も年が離れた川口からかけられた「頑張れよ」には、高校選手権優勝キーパーの後輩に託した、所属チームの垣根を越えた幾重もの熱い想いが込められていたはずだ。憧れ続けてきたレジェンドからの檄を力とモチベーションに変えて、廣末が成長への階段を再び駆け上がる。

(取材・文:藤江直人)

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